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審判報告

審判の結果

2010年6月26日に、
25日発送の審決謄本が届きました。
拒絶審決です。
補正(2010年3月2日)を却下する内容を含むものでした。
手続的にも実体的にも違法かつ不当な審決だと考えています。
必ず、法定の期間内に知的財産高等裁判所に対して、
審決取消訴訟を提起します。
なお、審決謄本の内容は、特許庁による公開後に、公開します。

                  2010年6月29日

審決はこちらです。
           2010年9月1日


  • 発明の名称  高周波超伝導電磁エンジン
  • 日本国特許庁への出願日 2006年4月8日
  • 出願番号    特願2006-130763 
  • 公開番号    特開2007-278265
  • 審判番号    不服2008- 12599
  • 出願人     久保田英文
  • 発明者     久保田英文 


審判の経過


★審理終結通知 2010年6月1日発送

審判長交代通知 2010年4月23日付け

電話連絡(2010年4月23日)

第2回拒絶理由通知( 2010年2月23日発送・最後の拒絶理由通知)と応対

第1回拒絶理由通知( 2009年10月6日発送)と応対

早期審理請求 2009年9月1日

審判請求 2008年4月22日



審理の内容



★審理終結通知

審理終結通知書 : 2010年6月1日発送(平22.6.1)



審判長交代通知

氏名通知: 2010年4月23日付け

審判長を「深澤幹朗」審判官に交代する旨の氏名通知がありました。
以前の審判長は、氏名通知(2009年9月25日付け)で通知されていた「早野公惠」氏です。


審判長交代の電話連絡(2010年4月23日)


第2回拒絶理由通知(最後の拒絶理由通知)と応対

経過

拒絶理由通知書 : 2010年2月23日(平22.2.23)発送
理由は、特許法17条の2及び36条違反です。

意見書 : 2010年3月2日(平22.3.2)

補正書 : 2010年3月2日(平22.3.2)

☆物件提出 : 2010年3月2日(平22.3.2)発送
「資料集2」を提出しました。



拒絶理由通知書


第2回拒絶理由通知書(最後の拒絶理由通知) 2010年2月23日(平22.2.23)発送

 この審判事件に関する出願は、合議の結果、以下の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。


理由


<<<<最後>>>>



1)平成21年10月19日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



【1】新規事項の追加について
 平成21年10月19日付けでした手続補正後の段落【0014】には、「高
周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には、各瞬間において、脈流による電磁力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った一斉変化の動きを電子対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことができないので、重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の反平行運動の運動量に変化し、その散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。」と記載されている。
 一方、当該記載に関連して、当初明細書等には、例えば、段落【0014】において、「高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には、各瞬間において、脈流のローレンツ力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った動きを電子対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことができないので、重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。」などと記載されているものの、「一斉変化の動き」ができないこと及び「反平行運動の運量に変化」することについては何ら記載されておらず、これらのことは、当初明細書等の記載からみて自明な事項でもない。

【2】発明の詳細な説明の記載要件について
 請求項1ないし3に係る発明は、
 「超伝導磁石に対して重ね合わせるように固定したループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、そのループに超伝導磁石の磁界による磁力を発生させる一方、その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので、ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用する」という発明特定事項を含むものであり、当該「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので、ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用する」根拠として、発明の詳細な説明の段落【0012】ないし
【0015】において、
「【0012】
 超伝導磁石5のコイルの形状に沿って重ね合わせるように丈夫で断面積が大きく消費電力が少ない形状の金属の常伝導体1を超伝導磁石5に固定する。この形状ゆえに常伝導体は、消費電力が少ない他に二つの長所を有する。常伝導体に生じる強い推進力を乗り物の骨格に伝えるのに適している。流す電流を低電圧にできるので、電流が作る磁界の波動の力が弱く、超伝導磁石に悪影響を与えない。なお、磁場中で電子に働く力を「ローレンツ力」、磁場中で電流に働く力を「電磁力」とする。そして、導体である電磁石同士が及ぼしあう反発力もしくは吸引力を「磁力」と呼ぶ。
【0013】
 常伝導体1には高周波電源2からループを作るようにケーブル4をつなぎ、一方向のみに断続的に流れる脈流を流す。このループは一回巻きの常伝導電磁石となる。脈流の周波数は、その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数とする。波形の例は図3のようになる。脈流は電流ゼロの部分が磁界を作らないので、脈流の磁界によるローレンツ力がゼロの部分が超伝導磁石に恒常的に存在することになる。常伝導体1を絶縁材で覆って脈流が漏れないようにする。絶縁材は力が加わっても破れない丈夫なものを用いる。超伝導磁石5の構成するループと常伝導体1とケーブル4の構成するループの間には直接的な作用・反作用の法則が成立する。
【0014】
 常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界が作用して超伝導コイルを流れる永久電流に電磁力が作用するが、そのローレンツ力は、永久電流を構成する電子対の重心運動を動かすことはできない。電子対の重心運動は永久電流現象の基本原則・運動量秩序に従った動きしかできないからである。運動量秩序とは永久電流を構成する電子対すべての重心運動の運動量が一斉に同じ大きさで変化しなければならないということである。この運動量秩序は、超伝導磁石の強い磁界
を作る永久電流の流れる方向だけではなく、外部磁場による電磁力が作用する方向にも、働く。高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には、各瞬間において、脈流による電磁力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った一斉変化の動きを電子対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことができないので、重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の反平行運動の運動量に変化し、その散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。
【0015】
 従って、脈流の磁界によるローレンツ力を受けて電子対に生じるはずの運動量、すなわち、永久電流が流れる方向に対して垂直な電子対の重心運動の運動量から、超伝導コイルの材料が運動エネルギーを得て生じるはずの超伝導コイルに働く磁力が生じない。これにより常伝導体1に働く磁力のみが残ることになり、その磁力を直線的運動エネルギーとして利用できる。常伝導体1に働く磁力の強さは脈流の強さを変えることでコントロールできる。また、磁力の強さは、常伝導体のループの長さ、超伝導磁石の長さを変えることで、変化させることができる。また、磁力の強さは、超伝導磁石の磁界の強さを変えることで、変化させることができる。そして、磁力の方向は、脈流の方向を逆転させることで、逆転できる。」
 と説明している。
 しかしながら、当該「常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界が作用して超伝導コイルを流れる永久電流に電磁力が作用するが、そのローレンッカは、永久電流を構成する電子対の重心運動を動かすことはできない。電子対の重心運動は永久電流現象の基本原則・運動量秩序に従った動きしかできないからである。運動量秩序とは永久電流を構成する電子対すべての重心運動の運動量が一斉に同じ大きさで変化しなければならないということである。この運動量秩序は、超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流の流れる方向だけではなく、外部磁場による電磁力が作用する方向にも、働く。高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には、各瞬間において、脈流による電磁力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った一斉変化の動きを電子対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことができないので、重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の反平行運動の運動量に変化し、その散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される・従って、脈流の磁界によるローレンツ力を受けて電子対に生じるはずの運動量、すなわち、永久電流が流れる方向に対して垂直な電子対の重心運動の運動量から、超伝導コイルの材料が運動エネルギーを得て生じるはずの超伝導コイルに働く磁力が生じない。これにより常伝導体1に働く磁力のみが残ることになり、その磁力を直線的運動エネルギーとして利用できる。」ことについては、本件出願時の物理学における技術常識に基づく十分な根拠がなく、発明の詳細な説明によって、請求項1
ないし3に係る発明における「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので、ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用する」という発明特定事項を実現できるものであると確認することができない。

 例えば、「超伝導磁石には、各瞬間において、脈流による電磁力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った一斉変化の動きを電子対はすることができない。」と説明しているが、当該「超伝導磁石」が、超伝導状態にあるとすれば、「常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界」を打ち消すような誘導電流を発生させることは、マイスナー効果(必要であれば、平成21年10月19日付けの意見書とともに提出された「資料集」における資料番号(1):「超伝導入門」の第2章完全反磁性及び第9章超電導の微視的理論の9.1.6Meissner効果、同資料番号(2):「超伝導の世界なぜ起こる?どう使う?」の5模索の時代のマイスナー効果と磁気エネルギー、浮き磁石、ロンドン兄弟、マイスナー効果を推理する及びロンドン方程式並びに6BCS理論の登場のマイスナー効果と完全導電性、同資料番号(3):「超伝導」のIIIマイスナー効果と磁束量子化または同資料番号(4):「超伝導による電磁推進の科学」の2.超伝導電磁推進の基礎の2.5超伝導の概要b.超伝導のマクロな特徴(3)磁気侵入ゼロ等参照。)として知られており、逆に、そのような誘導電流を発生させない場合には、超伝導状態にはないといえるから、何れにしても、上記説明が技術的に妥当なものとは考え難い。

 さらに、上記「超伝導磁石には、各瞬間において、脈流による電磁力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った一斉変化の動きを電子対はすることができない。」との説明に関連して、上記意見書において「脈流波形は一定の範囲で規則的に変動しますが、光速度に近い速度で移動しているので、その平均を考えれば十分です。」と主張しているように、そもそも「脈流」等の電流が「光速度に近い速度」で全体に波及することは、良く知ら
れており、「常伝導体1とケーブル4に流れる脈流」は、「常伝導体1」全体の「各瞬間」において、「脈流」が流れている状態と、「脈流」が流れていない状態との何れかの状態で存在するといえ、同様に、「超伝導磁石」全体の「各瞬間」においても、「脈流」による「電磁力」が作用する状態と、「電磁力」が作用しない状態との何れかの状態で存在するといえる。
 よって、部分的には「電磁力がゼロ」の期間があるとしても、「常伝導体1」に「力積」を与えられる程度の期間を考えると、当然に電磁力が作用しているものと考えられ、この場合、電子対それぞれにおける相互運動はないとしても、対となった電子全体は動くことが可能であり、この動きに応じて作用する力については、請求人のいう「運動量秩序」が作用するとは考えにくい。
 そうすると、結局、上記説明を受け入れることができない。
 したがって、上記「資料集」における(4):「超伝導による電磁推進の科学」の2.超伝導電磁推進の基礎の2.2電磁力d.船体の得る電磁力において、「電流ループ間の電磁力は作用・反作用の法則が直接的に成り立つ」「したがって両ループがともに船体に固定されていると,両者の力がバランスして船体を動かす力は現れない」と記載されているように、請求人の説明とは逆に、「脈流の磁界によるローレンツ力を受けて電子対に生じる」「運動量、すなわち、永久電流が流れる方向に対して垂直な電子対の重心運動の運動量から、超伝導コイルの材料が運動エネルギーを得て生じる」「超伝導コイルに働く磁力が生じ」るとともに「ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用」できないのではないか。

 また、「脈流」の状態は、上述したとおりであるから、請求項1ないし3に係る発明において「その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流」を用いたことについて、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その役割がどの様なものか、電磁推進装置に関して通常の知識を持つ者が、その作用効果を理解できる程度に記載されたものとは認められない。

 また一方で、請求人の主張どおりに「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しない」ものとすると、「超伝導磁石」が「永久電流」によって「永久磁石」として振る舞うことを意味するものと解されるから、この意味において、「永久磁石」として振る舞う「超伝導磁石」と、「常伝導体1」との間において、直接的な作用・反作用の法則が成立しないとは考え難く、このような直接的な作用・反作用の法則から生ずる「磁力」を、それら「超伝導磁石」及び「常伝導体1」を含む系全体の「推進力・制動力・浮力として利用する」ことができないことも、運動量保存の法則(必要であれば、上記意見書における資料番号(4):「超伝導による電磁推進の科学」の2.超伝導電磁推進の基礎の2.1力と運動c.運動量等参照。)から明らかである。

 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

最後の拒絶理由通知とする理由

1.最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶の理由のみを通知する拒絶理由通知である。

 なお、明細書の補正をする際は、補正により記載を変更した箇所に下線を引くとともに、意見書において、補正の根拠となった願書に最初に添付した明細書又は図面の記載箇所を具体的に明示した上で、補正が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであることを説明されたい。








意見書



意見書 2010年3月2日(平22.3.2)

【意見の内容】
 拒絶理由通知書に対する意見を述べます。なお、この意見書では、誤解を避けるために、磁場中で電子に働く力を「ローレンツ力」、磁場中で電流に働く力を「電磁力」とします。「電磁力」を原因として導体の材料に生じた力学的力を「磁力」とします。「磁力」は、導体である二つの電磁石間においては、相互の反発力もしくは吸引力となります。さらに、「磁場の強さ」とは「磁束密度」を指すものとします。また、本願明細書の段落を(段落00xx)という形で表示します。『超電導入門』とは、平成21年10月19日付けの意見書とともに提出した『資料集』における資料番号(1):「超電導入門」のことです。『超伝導の世界』とは、同資料番号(2):「超伝導の世界なぜ起こる?どう使う?」のことです。『超伝導』とは、同資料番号(3):「超伝導」のことです。『超伝導による電磁推進の科学』とは、同資料番号(4):「超伝導による電磁推進の科学」のことです。この資料番号は、今回新たに提出する『資料集2』と共通です。



1.新規事項の追加について


「一斉変化の動きができないこと及び反平行運動の運動量に変化することについては何ら記載されておらず、これらのことは、当初明細書等の記載からみて自明な事項でもない。」というご判断を尊重し、「手続補正2」により当該補正箇所を削除する手続補正書を提出します。「一斉変化の動きができないこと及び反平行運動の運動量に変化すること」は、理論的説明を補って明細書を読む人が理論的理由を理解しやすいようにする目的で、前回の意見書時に補正を申し出たものです。



2.発明の詳細な説明の記載要件について


(1)超伝導磁石の基本的理解とマイスナー効果

 まず、本発明に対する理論的疑問点について、お答えする前提として、超伝導磁石の磁場の源について、基本的な説明を行います。
 超伝導磁石が強力な磁場を発生させることはご存じの通りです。その強力な磁場の主たる原因であるとともに大部分の原因であるものは、超伝導コイルに沿って超伝導ループを周回する輸送電流(永久電流)です。「主たる」「大部分」と申し上げたのは、厳密に言えば、他にも磁場の源となっているものがあるからです。それは、電磁誘導によって表面に流れる永久電流である遮蔽電流(渦電流)と超伝導磁石の常伝導部分が磁化した部分(永久磁石部分)です。この三つが超伝導磁石の磁場の源です。このうちの渦電流がマイスナー効果をもたらします。
 ここで、超伝導磁石のコイル部分の材料である第2種超伝導体について説明します。超伝導状態において遮蔽電流により内部の磁束密度が常にゼロである第1種超伝導体と違い、一定の温度以下にある第2種超伝導体は内部に磁束が侵入しています。一定の温度以下にある第2種超伝導体は、外部磁場が下部臨界磁場と上部臨界磁場の間にあるとき、超伝導状態の部分と常伝導状態の部分が混合した状態となります。その常伝導部分に磁束が貫入しているのです。この混合状態を利用して強力な磁場を実現するのが超伝導磁石です。輸送電流については、『超電導入門』の23頁と205頁に基本的説明があります。ただし、23頁の記述は第1種超伝導体を念頭においたものです。
 混合状態の超伝導部分には、当然、遮蔽電流が流れて、外部磁場(磁束)を打ち消しています。この遮蔽電流は超伝導部分の表面部分を流れ、超伝導磁石の局所を環流しています。しかし、遮蔽電流による磁場(磁束)の打ち消しは超伝導部分の内部に限られます。超伝導部分の外部(第2種超伝導体の常伝導部分を含む)には、遮蔽電流自身が作る磁束に加えて、輸送電流が作る磁束が打ち消されずに存在します。超伝導部分の外部に、輸送電流が作る磁束がそのまま存在するからこそ、超伝導磁石の強力な磁場があるのです。
 そして、超伝導状態の超伝導磁石を外部磁場の中に置くと、輸送電流と遮蔽電流と永久磁石部分それぞれが、外部磁場により、電磁力を受けます。通常の装置に働いた磁場であれば、この三つの部分の電磁力はすべて磁力に変化します。
 しかし、私の特殊な装置においては、輸送電流に働いた電磁力だけは、運動量秩序の規制により、通常と違うプロセスを辿ります。では、私の装置において、遮蔽電流と永久磁石部分はどうなるでしょうか。
 永久磁石部分は、常伝導の部分ですから、超伝導の特性である運動量秩序とその規制の影響は当然、ありません。永久磁石部分には、通常の場合と何ら変わることなく、磁力が生じます。
 遮蔽電流に対しては、どうでしょうか。遮蔽電流は永久電流なので、運動量秩序とその規制の影響が問題となり得ます。しかし、あるとしても、その影響は極めて小さいと考えられます。輸送電流に運動量秩序の規制が働くのは、輸送電流が超伝導ループを周回し、その部分の脈流磁場が脈流の波長1個分だからです。このことにより、超伝導ループ上の脈流磁場のエネルギーの偏りを見ると極めて大きくなり、運動量秩序が十分に働くのです。
 これに対して、遮蔽電流は渦電流として局所を環流しています。『超伝導による電磁推進の科学』の48頁において、「これを第2種超伝導体と呼んでいる。この種の超伝導体は完全反磁性の領域は狭い」とあります。「完全反磁性の領域」とは、すなわち超伝導部分のことです。『超伝導』の54頁において、「第二種超伝導体内部は、超伝導状態にある小領域と常伝導状態にある小領域とに細分されている」とあります。この混合状態は、『超電導入門』の187頁に図示されている通りです。この狭い細分化された常伝導状態の領域にある磁束を取り巻くように、渦電流(遮蔽電流)が、狭い細分化された超伝導状態の領域の表面部分を流れています。渦電流(遮蔽電流)は、このような局所を環流しているのです。局所を環流し遮蔽電流の役割を果たしているので、渦電流による超伝導磁石の磁場への寄与は小さいのです。
 その局所部分の脈流磁場の偏りを考えます。これは、極少距離における磁場の強さの変化を考えることになりますので、脈流磁場の偏りは、極めて小さいと考えられます。なので、脈流磁場の偏りを原因とする運動量秩序の規制はほとんどまったく機能しないと考えられます。よって、当然、私の装置においても誘導起電力の働きは運動量秩序の規制により妨げられず、誘導起電力が十分に働き、「マイスナー効果」として知られる誘導電流(渦電流)を発生させていることになります。生じた渦電流は、運動量秩序に従って、電子対の重心運動の運動量を一斉に変化させることにより、永久電流としての強さを変化させることができます。
 そして、遮蔽電流に脈流磁場の偏りを原因とする運動量秩序の規制がほんの少しでも機能するとするならば、それは超伝導部分への「磁場侵入長さ」がより大きくなることとなって現れると考えられます。以上より、運動量秩序の規制による誘導電流(遮蔽電流)への影響がほとんど全く無いので、当然、私の装置が機能している状態においても、「マイスナー効果」を発生させていることになります。
 存在する輸送電流と発生した遮蔽電流という永久電流どうしが接点で電子対のやりとりをする場合は、次のように考えます。輸送電流には、脈流磁場の偏りを原因とする運動量秩序の規制が働き、遮蔽電流には、働かないという大きな違いがあります。しかし、輸送電流も遮蔽電流も永久電流であり、永久電流を構成する電子対が運動量秩序に従っていることに変わりありません。ですから、輸送電流と遮蔽電流で電子対の重心運動の運動量の大きさに違いがある場合は次のように考えます。輸送電流から遮蔽電流に移動した電子対は、遮蔽電流の電子対の重心運動の運動量の大きさに揃います。遮蔽電流から輸送電流に移動した電子対は、輸送電流の電子対の重心運動の運動量の大きさに揃うと考えるのです。
 以上は、超伝導と超伝導磁石の基本理論から論理的に帰結されることです。なお、提出済みの『超伝導電磁エンジン詳説』の第1章第4節(5)「環状電流について」でも、環状電流、すなわち遮蔽電流である渦電流について述べていますが、本意見書の記述に反する部分は、本意見書の記載に差し替えたものとさせてもらいます。

 「常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界を打ち消すような誘導電流を発生させる」と言われますが、「脈流の作る磁界を打ち消す」のは超伝導部分の内部の磁束のことを指します。超伝導部分の外部(第2種超伝導体の常伝導部分を含む)では、脈流の磁場(磁束)は打ち消されずに存在します。その存在する脈流磁場と輸送電流の磁場が作用しあっています。従って、脈流磁場の原因である脈流には、輸送電流が作用した電磁力が生じます。輸送電流磁場の原因である輸送電流には、脈流が作用した電磁力が生じます。作用・反作用の法則が成立します。脈流に生じた電磁力は磁力に変化します。しかし、輸送電流に生じた電磁力は、脈流磁場のエネルギー分布の大きな偏りを原因とする運動量秩序の規制により、通常とは違うプロセスを辿ります。電子対の重心運動の運動量に変化しません。結果として、輸送電流に生じた電磁力は磁力に変化しないことになります。
 そして、脈流磁場のエネルギー分布の偏りを原因とする運動量秩序の規制による影響は、永久磁石部分には全く無いし、遮蔽電流にはほとんど無いと言えます。問題となるのは、輸送電流だけです。ですから、明細書において、永久磁石部分と遮蔽電流の二つについて、通常とは違うことが起こる趣旨の記述がありません。そのため、輸送電流についてだけ、運動量秩序と運動量秩序による規制の働きを記述してあります。
 超伝導磁石の磁場の源は、厳密に言えば三つある訳ですが、私の装置に関する説明においては、輸送電流だけを念頭に置いてきました。私の装置の目的は、常伝導「ループに発生した磁力を推進力・浮力・制動力として利用」(段落0006)して、「電気エネルギーを直線的運動エネルギーに変換すること」を実現することにあります(段落0003)。三つの超伝導磁石の磁場の源のうち、常伝導ループの推進力の主たる原因となるものは、輸送電流です。超伝導磁石の強力な磁場の主たる原因であるとともに大部分の原因であるものが、超伝導コイルに沿って超伝導ループを周回する輸送電流です。この輸送電流による強力な磁場が脈流に働いて常伝導ループに強い磁力を生じさせます。ですから、私の装置における推進力のほとんどの部分の原因が輸送電流による磁場であり、そのほとんどの部分の原因について説明すれば、足りると考えたからです。そのことは、明細書に記述してある私の装置の目的や説明の趣旨から当然、当業者が理解できることです。特に「超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流の流れる方向」(段落0014)という記述から分かります。ここで取り上げている「超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流」とは、輸送電流に他ならないからです。また、「超伝導コイルを流れる永久電流」(段落0014)という記述もあります。超伝導磁石の磁場を問題にするとき、「超伝導コイルを流れる永久電流」とは通常、輸送電流のことを指します。
 しかし、「永久電流(輸送電流)」とした方が、分かりやすいので、(段落0006)(段落0014)(段落0015)に補正を入れたいと思います。なお、この補正は、「ローレンツ力」「電磁力」「磁力」の区別と同様の趣旨です。根拠は(段落0012)ないし(段落0015)、特に、(段落0014)の記述です。
 輸送電流だけを念頭に置いてきたので、前回の拒絶理由通知書の「誘導起電力」に関する疑問についても、運動量秩序とその規制の影響を輸送電流についてだけお答えすることとなりました。輸送電流(永久電流)には、電流方向の運動量秩序の規制が働き、誘導起電力が働いてもその影響は打ち消されるということです。
 運動量秩序の規制が働いて輸送電流の磁力不発生現象が生じるとき、超伝導磁石に残るのは、渦電流と永久磁石部分の磁力だけとなります。この磁力の合計は、脈流全体に働く磁力よりも、相当に小さいものとなります。主たる原因である輸送電流の磁力が存在しないからです。ですから、差し引き大きい分の脈流の磁力を推進力・浮力・制動力として利用できます。
 この差し引き大きい分の磁力を利用するという考え方の基本は、『超伝導電磁エンジン詳説』の第1章第3節(5)「電磁エンジンにおける高周波脈流の作用」の図18とその説明にも述べてあります。

(2)磁場のエネルギーの大きな偏り

「脈流波形は一定の範囲で規則的に変動しますが、光速度に近い速度で移動しているので、その平均を考えれば十分です。」という主張は、脈流に働く磁力の強さを計算する場合に関しては、脈流の強さ(アンペア)の平均の計算を考えればよいという趣旨です。
「脈流等の電流が光速度に近い速度で全体に波及すること」とは、具体的には、脈流波形が光速度に近い速度で移動することを指します。このことは、オシログラフを見れば、視覚的に理解できます。そして、脈流による磁場が、光速度で全体に波及します。磁場の量子は光子だからです。
 そして、脈流の波長をループ一周の長さと一致させますから、ループ上には、常に脈流の1波長分が存在し、常に脈流波形の山一個分が存在します。脈流を通電した状態において「超伝導磁石全体の各瞬間においても、」「脈流による電磁力が作用する状態」が常に存在すると言えますが、脈流を通電した状態において「電磁力が作用しない状態」が存在することは論理的に否定されます。
 その「脈流による電磁力が作用する状態」において、超伝導磁石の超伝導電流ループ上において、脈流による磁場のエネルギー分布は常に大きく偏っています。以下、そのことを説明します。
 光速度で脈流磁場が波及しますが、その磁場の強さは、脈流からの距離によって大きく異なっています。
 導線に電流を流すと、その導線を中心に同心円状の磁束が生じ、その電流の強さを i とすると、導線から r メートル離れた位置の磁場の強さは、
μi /(2πr)
で計算されます。
μは透磁率です。超伝導電磁エンジンは空芯ですので、近似的に真空の透磁率(4π×10のマイナス7乗)を用いることができます。
i を脈流の山の最高点で2000アンペアの強さとします。
ループ一周の長さは、『超伝導電磁エンジン詳説』の第1章第5節「電磁エンジンの実験方法」で使用している数字、1.6メートルとします。
このとき、ループの半径は、約0.25メートルとなります。
 脈流の山の最高点の強さの地点による脈流磁場の強さを計算してみましょう。最高点の強さの地点から0.5メートル離れた地点A(ループ上では円を中心とする直径の反対側の点に相当します)では、
4π×10のマイナス7乗×2000/(2π×0.5)=0.0008テスラ
最高点の強さの地点から1 ミリメートル離れた地点Bでは、
4π×10のマイナス7乗×2000/(2π×0.001)=0.4テスラ
0.4÷0.0008=500
B地点とA地点では、500倍という大きな差が生じます。
脈流の山の最高点の強さではなく、山の裾の20アンペアの地点による脈流磁場の強さを計算してみましょう。最高点の強さの地点から0.5メートル離れた地点C(ループ上では円を中心とする直径の反対側の点に相当します)では、
4π×10のマイナス7乗×20/(2π×0.5)=0.000008テスラ
このC地点では0.000008テスラとなり、非常に小さな数値となりますが、ゼロではありません。磁場についての「ゼロ」という記述は近似的にゼロと言うことを意味しています。「μi /(2πr) 」という磁場の強さの計算式において、 r の大きさに制限はなく、r をいくらでも大きくできますが、それでもゼロに接近していくだけで、ゼロになることはありません。理の当然として、超伝導磁石上の脈流磁場がゼロと主張していてもそれは近似的にゼロのことだと理解できます。そして、近似的にゼロだとしても恒常的であれば運動量秩序の規制は機能し、「近似的ゼロ」より強い部分の磁場による電子対の重心運動の運動量変化が生じません。
B地点とC地点の磁場の強さを比較してみましょう。
0.4÷0.000008=50000
50000倍という大きな差が生じます。
ちなみに、山の裾の20アンペアの地点から1 ミリメートル離れた地点Dでは、
4π×10のマイナス7乗×20/(2π×0.001)=0.004テスラ
以上のように超伝導ループ上の脈流磁場の強さには、大きな偏りがあります。そして、この偏りは、ループを大きくすることでさらに大きくすることも可能です。
 脈流の波形は山なりになっていて、脈流による磁場は山の最高点で最も強く、山の裾に向かって徐々に弱くなっています。しかも、山が占める位置は、ループ一周の半分の部分だけです。もう、半分の部分では、脈流の作る磁場はゼロです。すなわち半円形の導線に山が連続する電流を流したときの磁場エネルギーの分布を考えればよいのです。
ループ全体に渡って一定の強さの電流が存在する通常の円形常伝導電磁石では、磁束の重なり合いによる磁場の強さの大きな強化が生じます。しかし、私の装置においては、半円形の導線と考えることができるので、重なり合いによる強化があっても小さいものとなります。常伝導ループは一回巻きである上に、磁束の重なり合いの中心がループ上にないのです。
よって、各瞬間において、超伝導ループ上における脈流磁場のエネルギー分布には脈流磁場の強さに応じて大きな偏りがあります。このことは、磁場の源から r の距離にある単位面積あたり受ける磁場のエネルギーの量は、 r の二乗に反比例することからも推測できるでしょう。
 そして、磁場の波及というものは、磁場の源の発生、移動、変化、消滅のすべてを光速度で伝えるということになります。各瞬間において、超伝導ループ上における脈流磁場のエネルギー分布には、大きな偏りがあり、その偏りを持ったまま、脈流の山の波形に従った強さの磁場が、山の移動に従って光速度に近い速度で移動していくことになります。従って、その各瞬間が連続した時間を通じて大きな偏りが認められるので、超伝導ループ上における脈流磁場のエネルギー分布に大きな偏りが存在し続けることになります。すなわち、この恒常的に存在する大きな偏りにより、超伝導磁石上の脈流磁場に近似的にゼロの部分が恒常的に存在することになります。従って、私の装置が機能します。これが物理の基本原理に乗っ取った考えです。
 このような大きな偏りが恒常的に生じることは、常識的物理学の知識から合理的推論を行っても理解できますが、一回巻きのループにループ一周の長さと波長が一致する脈流を流したときの脈流磁場を計算する物理コンピューターシミュレーションを行ってその時間経過を3D画像表示させれば、視覚的に直ちに理解できることです。裁判になり争点になった場合はそのような鑑定を要求します。

(3)永久磁石部分

「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しない」状態とは、輸送電流に超伝導の本質・電子対凝縮の効果である運動量秩序の規制が働いた状態のことを述べたものです。この状態でも、輸送電流の強力な磁場は存在しています。遮蔽電流が流れています。超伝導磁石全体が「永久磁石として振る舞う」とは到底言えません。また、輸送電流と脈流の間に作用・反作用の法則が成立しています。輸送電流と脈流が作用して、輸送電流と脈流のそれぞれに電磁力が生じています。脈流に働いた電磁力は常伝導ですので、当然、磁力に変化します。他方、輸送電流には運動量秩序の規制が働くので、電磁力は磁力に変化しないで反平行運動の運動量に転化するという通常とは違うプロセスを辿るのです。
 ですから、「永久磁石として振る舞う」部分とは、三つの超伝導磁石の磁場の源のうちの永久磁石部分に当たります。この永久磁石部分の磁性について説明します。永久磁石部分は、3つに分けられます。「第2種超伝導体の混合状態における常伝導部分」、「超伝導線の第2種超伝導体以外の部分」、「それ以外の超伝導磁石の構成部分」。
輸送電流と遮蔽電流が存在する場合に、永久磁石部分の磁性がどうなるかについて考えます。
三つの永久磁石部分のうちの「それ以外の超伝導磁石の構成部分」は、超伝導線から遠い、すなわち輸送電流や遮蔽電流から遠いので、問題となるほど強い磁性を持たないことはご理解いただけるでしょう。これに対して、「第2種超伝導体の混合状態における常伝導部分」、「超伝導線の第2種超伝導体以外の部分」は、輸送電流や遮蔽電流の近くにありますので、輸送電流や遮蔽電流の磁場による磁化を検討する必要があります。
「超伝導線の第2種超伝導体以外の部分」の材料は銅です。構造母材として銅が使われます。この点については『超伝導の世界』の259頁をご覧ください。銅は、ご存じのように反磁性を示します。ですから、磁化によって超伝導磁石の磁場を強化する機能が無いのです。
「第2種超伝導体の混合状態における常伝導部分」の磁性については、第2種超伝導体の物質材料としての磁性を考えることになります。例外もありますが、一般的に超伝導と強磁性は極めて相性が悪くお互いに共存できないとされるので、第2種超伝導体の磁性は、反磁性か常磁性です。ですから、磁化によって超伝導磁石の磁場を強化する機能は非常に小さいのです。
 輸送電流と遮蔽電流が存在する場合における三つの永久磁石部分の磁性を考えてみて分かるように、永久磁石部分による超伝導磁石の磁場への寄与は非常に小さいのです。そして、運動量秩序による磁力の不発生現象が生じても、生じなくても、超伝導部分の外部に輸送電流による磁場と遮蔽電流による磁場が存在することに変わりはありません。ですから、運動量秩序による磁力の不発生現象が生じても、生じなくても、永久磁石部分による超伝導磁石の磁場への寄与は非常に小さいことになります。
以上から、運動量秩序による磁力の不発生を考慮してもしなくても、超伝導磁石の強力な磁場の主たる大部分の原因は、輸送電流自体となります。
 「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しない」状態でも、輸送電流による強力な磁場は存在し、その磁場が作用して脈流に磁力が生じます。他方、「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しない」ので、輸送電流に働いた電磁力からは磁力が生じません。輸送電流の他の、遮蔽電流と永久磁石部分はどうでしょうか。遮蔽電流は脈流に作用して、磁力を生じさせます。他方、脈流が作用して、遮蔽電流自身に磁力が発生します。この場合の脈流の磁力と遮蔽電流の磁力はほとんど全く同じです。永久磁石部分はどうでしょうか。永久磁石部分も脈流に作用して磁力を発生させます。他方、脈流が永久磁石部分に作用して同じ大きさの磁力を発生させます。

 私の装置の磁力に関して、以上を整理してみます。
常伝導ループの側には、
「輸送電流磁場が作用して脈流により生じた磁力」、
「遮蔽電流磁場が作用して脈流により生じた磁力」、
「永久磁石部分の磁場が作用して脈流により生じた磁力」
が存在します。
他方、超伝導磁石の側には、
「脈流磁場が作用した遮蔽電流により生じた磁力」と
「脈流磁場が作用して永久磁石部分に生じた磁力」
が存在します。
「遮蔽電流磁場が作用して脈流により生じた磁力」≒「脈流磁場が作用した遮蔽電流により生じた磁力」
「永久磁石部分の磁場が作用して脈流により生じた磁力」=「脈流磁場が作用して永久磁石部分に生じた磁力」
という関係が成立しますから、常伝導ループの側に働く磁力から、超伝導磁石の側に生じた磁力を差し引くと、常伝導ループの側の「輸送電流磁場が作用して脈流により生じた磁力」のみが残ります。超伝導磁石の強力な磁場の主たる大部分の原因は、輸送電流ですから、この輸送電流による磁力の強さは大きなものとなります。従って、輸送電流による磁力を推進力・浮力・制動力として利用できます。


(4)実施可能要件

「電磁推進装置に関して通常の知識を持つ者が、その作用効果を理解できる程度に記載されたものとは認められない。」と主張されます。
 明細書全体から理解される本願発明の構成は、「常伝導の一回巻きのループと超伝導電流ループを重ね合わせるように固定する。常伝導の一回巻きループにはその波長がループ一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流す。超伝導ループは永久電流が周回する超伝導磁石状態とする(超伝導磁石の特徴は当然にこのようなものになります)。」ということです。この構成による作用は「運動量秩序により、超伝導ループの周回電流に働く電磁力が磁力に変化しない。他方、常伝導ループには磁力が生じる」ということです。この構成と作用による効果は、「全体として、存在する磁力は常伝導ループの磁力のみであり、その磁力を推進力・浮力・制動力」として利用できるということです。
 このような構成・作用・効果であることは、前回の意見書でも述べたように、明細書から当業者が明確かつ十分に理解できます。本願発明の明細書には、目的・構成・作用・効果が十分詳細かつ明確に書かれています。明細書は、「技術分野」「背景技術」「発明が解決しようとする課題」「課題を解決するための手段」「発明の効果」「発明を実施するための最良の形態」「実施例」「産業上の利用可能性」「符号の説明」に分けて、目的・構成・作用・効果を明確かつ十分に記載しています。
 審判官殿の主張は、畢竟、審判官殿が理論的疑問点を幾つも提示されたように、科学の世界の最先端の発明であるが故に、「明細書の記述だけでは、作用・効果が生じる理論的理由を直ちに納得できるものではない」ということと、「理論的理由が正しくなく作用・効果を実現できない」という主張だと解されます。理論的理由が正しいことは、本意見書の2.の(3)までで、述べてきたとおりです。
 さらに、「明細書の記述だけで作用・効果が生じる理論的理由を直ちに納得できること」は特許法の要求するものではないことを以下、論証します。

 特許法36条4項1号において、「通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる「実施可能要件」)を規定した趣旨は、通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したといえない発明に対して、独占権を付与することになるならば、発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるからである。
(事件番号: 平成20(行ケ)10237/事件名: 審決取消請求事件/裁判年月日: 平成21年07月29日/裁判所名: 知的財産高等裁判所)

 このような特許法36条4項1号の趣旨は、明細書の記述を明確かつ十分にして、出願人の主張する発明物または方法を現実に再現できるようにすることであり、作用・効果については、どのような作用・効果が生じるかという主張が明確かつ十分に記述されていれば十分であり、明細書の記述だけでそのような作用・効果が生じる理論的理由を直ちに納得できることまで要求するものではないと解されます。
 一般論として、当業者が作用・効果の生じる理論的理由が直ちに納得できないとしても、構成が実現可能でありさえすれば、その目的・効果の有用性を考えて、構成を現実に作製・実現して作用・効果を確認することは十分ありえます。
 また、科学の世界の最先端の発明は、その先進性故に当業者も直ちに納得できないものであることもしばしばです。それを直ちに納得させるには、少なくとも綿密かつ詳細な理論的説明を記載する必要があります。しかし、特許出願にかかる発明の場合は、学術論文とは異なり、理論的解明を目的とするものではありません。特許出願にかかる発明の場合は、綿密かつ詳細な理論的説明を記載する必要は無いと考えます。学術論文とは異なり、理論的解明を目的とするものではないからです。
 従って、発明の目的・構成・作用・効果が明確かつ十分に書いてあれば、当該発明を再現性をもって実施可能と解すべきであり、理論的理由を直ちに納得できることまで要求するものではないと解すべきです。
 本願発明の明細書には、目的・構成・作用・効果が十分詳細かつ明確に書かれています。明細書は、「技術分野」「背景技術」「発明が解決しようとする課題」「課題を解決するための手段」「発明の効果」「発明を実施するための最良の形態」「実施例」「産業上の利用可能性」「符号の説明」に分けて、目的・構成・作用・効果を明確かつ十分に記載しています。
 また、本願発明の構成が使用する超伝導磁石、超高周波電流等の要素技術は既に実用化・確立されたものばかりであり、それらを新しい考え方に基づいて、組み合わせて画期的効果を得る技術的思想が本願発明です。ですから、確実に当業者が明細書の記載に基づいて再現性をもって構成を実現可能です。
 そして、明細書に加えて、本意見書の2.の(3)までや前回の意見書、それに『超伝導電磁エンジン詳説』で述べているように、本願発明の主張する作用・効果は超伝導と物理の基本原則に則っていて、その素晴らしい作用・効果を実現可能です。

 以上により、本願発明は、特許法36条4項1号の規定する要件を満たすと主張します。
 加えて、今回の拒絶理由通知書で特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないと主張される点については、1.で述べたように、本出願と同時に提出する補正書により解消されます。それでも、万一、特許法第17条の2第3項違反の記載が明細書に残る場合は、どのような形でもよいですから、その旨お知らせいただき、審理終結前に更なる補正の機会を与えてくださるようにお願い致します。

 よって、原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求めます。



【証拠方法】
   『超伝導電磁エンジン詳説』(久保田英文著) 提出済み
   『資料集』(久保田英文作製/A4用紙22枚) 提出済み
   『資料集2』(久保田英文作製/A4用紙18枚) 平成22年3月2日に簡易書留で発送





補正書



手続補正書 2010年3月2日(平22.3.2)

【手続補正1】
  【補正対象書類名】明細書
  【補正対象項目名】0006
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
【0006】
 超伝導磁石に対して重ね合わせるように固定したループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、そのループに超伝導磁石の磁界による磁力を発生させる一方、その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流(輸送電流)に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので、ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン。
【手続補正2】
  【補正対象書類名】明細書
  【補正対象項目名】0014
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
    【0014】
 常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界が作用して超伝導コイルを流れる永久電流(輸送電流)に電磁力が作用するが、そのローレンツ力は、永久電流(輸送電流)を構成する電子対の重心運動を動かすことはできない。電子対の重心運動は永久電流現象の基本原則・運動量秩序に従った動きしかできないからである。運動量秩序とは永久電流を構成する電子対すべての重心運動の運動量が一斉に同じ大きさで変化しなければならないということである。この運動量秩序は、超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流(輸送電流)の流れる方向だけではなく、外部磁場による電磁力が作用する方向にも、働く。高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には、各瞬間において、脈流による電磁力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った動きを電子対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことができないので、重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。

 【手続補正3 】
  【補正対象書類名】明細書
  【補正対象項目名】0015
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
    【0015】
 従って、脈流の磁界によるローレンツ力を受けて電子対に生じるはずの運動量、すなわち、永久電流(輸送電流)が流れる方向に対して垂直な電子対の重心運動の運動量から、超伝導コイルの材料が運動エネルギーを得て生じるはずの超伝導コイルに働く磁力が生じない。これにより常伝導体1に働く磁力のみが残ることになり、その磁力を直線的運動エネルギーとして利用できる。常伝導体1に働く磁力の強さは脈流の強さを変えることでコントロールできる。また、磁力の強さは、常伝導体のループの長さ、超伝導磁石の長さを変えることで、変化させることができる。また、磁力の強さは、超伝導磁石の磁界の強さを変えることで、変化させることができる。そして、磁力の方向は、脈流の方向を逆転させることで、逆転できる。





☆物件提出 : (平22.3.2)発送
「資料集2」を提出しました。





第1回拒絶理由通知と応対

第1回拒絶理由通知には、進歩性に関する記述は無く、
拒絶査定における進歩性無しとの特許庁の主張は無効となりました。

経過

拒絶理由通知書 : 2009年10月6日(平21.10.6)発送
理由は特許法36条違反です。

意見書 : 2009年10月19日(平21.10.19)

補正書 : 2009年10月19日(平21.10.19)

☆物件提出 : 2009年10月19日(平21.10.19)発送
「資料集」を提出。

☆審判指令 : 2009年10月27日(平21.10.27)発送
補正書( 2009年10月19日)の方式違反に対して補正が指令されました。

補正書(方式) : 2009年10月28日(平21.10.28)




拒絶理由通知書


第1回拒絶理由通知書 2009年10月6日(平21.10.6)発送


 この審判事件に関する出願は、合議の結果、以下の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。

理由

 本件出願は、発明の詳細な説明または特許請求の範囲の記載が下記1ないし3の点で、特許法第36条第4項第1号または第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1.請求項1ないし3に係る発明は、
「超伝導磁石に対して固定された位置にあるループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、そのループに超伝導磁石の磁界による電磁力を発生させる一方、その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が運動量に変化しない無効となるので、ループに発生した電磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン」
 を含むものであり、当該「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が運動量に変化しない無効となる」根拠として、発明の詳細な説明の段落【0014】及び【0015】には、
「【0014】
 常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界が作用して超伝導コイルを流れる永久電流にローレンツ力が作用するが、永久電流を構成する電子対の重心運動を動かすことはできない。電子対の重心運動は永久電流現象の基本原則・運動量秩序に従った動きしかできないからである。運動量秩序とは永久電流を構成する電子対すべての重心運動の運動量が一斉に同じ大きさで変化しなければならないということである。この運動量秩序は、超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流の流れる方向だけではなく、外部磁場によるローレンツ力が作用する方向にも、働く。高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には、各瞬間において、脈流のローレンツ力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った動きを電子対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことができないので、重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。
【0015】
 従って、脈流の磁界によるローレンツ力を受けて電子対に生じるはずの運動量、すなわち永久電流が流れる方向に対して垂直な電子対の重心運動の運動量から超伝導コイルの材料が運動エネルギーを得て生じるはずの超伝導コイルに働く電磁力が生じない。これにより常伝導体1に働く電磁力のみが残ることになり、その電磁力を直線的運動エネルギーとして利用できる。…(後略)…」
 と記載されている。
 しかしながら、当該「超伝導コイルを流れる永久電流にローレンツ力が作用するが、永久電流を構成する電子対の重心運動を動かすことはできない。電子対の重心運動は永久電流現象の基本原則・運動量秩序に従った動きしかできないからである。運動量秩序とは永久電流を構成する電子対すべての重心運動の運動量が一斉に同じ大きさで変化しなければならないということである。この運動量秩序は、超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流の流れる方向だけではなく、外部磁場によるローレンツ力が作用する方向にも、働く。高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には、各瞬間において、脈流のローレンツ力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った動きを電子対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことができないので、重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。」ことについては、本件出願時の物理学における技術常識に基づく十分な根拠がなく、発明の詳細な説明によって、請求項1ないし3に係る発明における「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が運動量に変化しない無効となる」ことを実現できるものであると確認することができない。

 例えば、「超伝導磁石には、各瞬間において、脈流のローレンツ力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った動きを電子対はすることができない。」と主張しているが、通常「超伝導磁石」には、「常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界」の変化によって電磁誘導作用が生じ、この部分で生じた起電力が全体に作用するものと考えられるが、当該「運動量秩序に従った動きを電子対はすることができない。」と判断する根拠が明らかではない。
 さらに、当該「常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界」の変化は、「脈流波形の形状」ゆえに、「各瞬間」において、「超伝導磁石」に対して増加部分と減少部分を有するから、全体としての変化もないのではないか。
 また、「ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことができないので、重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。」とも主張しているが、方向性を有する運動量が、何ら方向性を有する運動を生ずることなく、方向性の無い純粋な熱エネルギーとして放出される根拠が不明である。何ら方向性を有する運動を生ずることなく、方向性の無い純粋な熱エネルギーとして放出されるのであれば、当該運動量の平均が方向性を有しないこととなるのではないか。

 よって、本件出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

2.請求項1ないし3に係る発明は、
「超伝導磁石に対して固定された位置にあるループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、そのループに超伝導磁石の磁界による電磁力を発生させる一方、その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が運動量に変化しない無効となるので、ループに発生した電磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン」
 を含むものであり、当該「超伝導磁石に対して固定された位置にあるループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、…(中略)…ループに発生した電磁力を推進力・制動力・浮力として利用する」根拠として、発明の詳細な説明の段落【00131ないし【0015】には、
「【0013】
常伝導体1には高周波電源2からループを作るようにケーブル4をつなぎ、一方向のみに断続的に流れる脈流を流す。このループは一回巻きの常伝導電磁石となる。…(中略)…脈流は電流ゼロの部分が磁界を作らないので、脈流の磁界によるローレンツ力がゼロの部分が超伝導磁石に恒常的に存在することになる。…(中略)…超伝導磁石5の構成するループと常伝導体1とケーブル4の構成するループの間には直接的な作用・反作用の法則が成立する。
…(中略)…
【0015】
 従って、脈流の磁界によるローレンツ力を受けて電子対に生じるはずの運動量、すなわち永久電流が流れる方向に対して垂直な電子対の重心運動の運動量から超伝導コイルの材料が運動エネルギーを得て生じるはずの超伝導コイルに働く電磁力が生じない。これにより常伝導体1に働く電磁力のみが残ることになり、その電磁力を直線的運動エネルギーとして利用できる。…(後略)…」
 と記載されている。
 しかしながら、当該「常伝導体1に働く電磁力」が、そもそも、「脈流」を流すことによって、どの様に生じるものであるのかが不明である。

 例えば、「超伝導磁石5の構成するループと常伝導体1とケーブル4の構成するループの間には直接的な作用・反作用の法則が成立する。」と主張するとともに「超伝導コイルに働く電磁力が生じない。」とも主張しているが、当該「超伝導コイルに働く電磁力」と上記「常伝導体1に働く電磁力」との間において、「直接的な作用・反作用の法則」が成立するとしても、「超伝導コイルに働く電磁力が生じない。」のであれば、「常伝導体1とケーブル4の構成するループ」に何らかの力が作用する以上、必然的に、「超伝導磁石5の構成するループ」にその反作用として力が加わることとなるから、逆に「常伝導体1とケーブル4の構成するループ」に働く電磁力も生じないこととなるのではないか。

 よって、本件出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

3.請求項1には、「超伝導磁石に対して固定された位置にあるループ…(中略)…ループに発生した電磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン」と記載されているが、このような記載では、「超伝導磁石」及び「ループ」間の間隔が固定されていることは認められるが、これら「超伝導磁石」及び「ループ」等について、空間的な相互関係あるいは相互の作用等をどの様に設定して配置することにより、「エンジン」を構成するのかが不明確であり、さらに、「電磁力」の方向も不明確である。
 また、上記記載に関して、発明の詳細な説明の段落【0012】には、
「【0012】
 超伝導磁石5のコイルの形状に沿って丈夫で断面積が大きく消費電力が少ない形状の金属の常伝導体1を超伝導磁石5に固定する。…(後略)…」
 と記載されているが、そもそも「超電導磁石」及び「ループ」等をどのように配置し相互作用させることにより、「ループに発生した電磁力を推進力・制動力・浮力として利用する」ことができるものか、発明の詳細な説明の記載からは、明らかではない。

 よって、請求項1に係る発明並びに当該請求項1を引用する請求項2及び3に係る発明は明確ではない。
 また、本件出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明並びに当該請求項1を引用する請求項2及び3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。





意見書


意見書 2009年10月19日(平21.10.19)

【意見の内容】
 まず、明らかにしておきたいのは、本願発明が科学の世界における最先端の研究の成果を応用した技術的思想であるということです。そして、本願の本質的意義は、明細書の(段落0002)に記載してある「特許文献1」特開2005−185079号公報の未完成発明を完成させて、最先端の研究成果の核心部分を公開したことにあります。また、本願発明の請求項は、発明者が多大な努力の結果明らかにしえたその核心部分が保護されることを狙ったものです。そして、発明者はホームページで情報公開することにより、新たな技術的思想の普及を図っています。(http://j.se-engine.org)
 そのような最先端の研究の成果である本願発明を進歩性無しとして拒絶するならば極めて不当かつ違法であることは、審査請求の拒絶理由通知書に対する意見書、本審判の請求書で述べたところです。
 なお、この意見書では、誤解を避けるために、磁場中で電子に働く力を「ローレンツ力」、磁場中で電流に働く力を「電磁力」とします。そして、導体である電磁石同士が及ぼしあう反発力もしくは吸引力を「磁力」と呼びます。但し、引用文を除きます。また、本願明細書の段落を(段落00xx)という形で表示します。
 以下、進歩性に関する主張に代えて、新たに主張された点について、反論します。


新主張1.について
 本件出願時の物理学における技術常識に基づく十分な根拠がない、すなわち理論的根拠が十分ではないとし、具体例を三つあげて、特許法第36条第4項第1号が要求する発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないと主張されます。
 思うに、「特許法36条4項は、「発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と定め、同条同項1号において、「一経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。そして、上記の「経済産業省令」に当たる特許法施行規則24条の2は、「特許法第三十六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と定めている。
 特許法36条4項1号において、「通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる「実施可能要件」)を規定した趣旨は、通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したといえない発明に対して、独占権を付与することになるならば、発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるからである。」
(事件番号: 平成20(行ケ)10237/事件名: 審決取消請求事件/裁判年月日: 平成21年07月29日/裁判所名: 知的財産高等裁判所)
 従って、当業者が明細書の記載に基づいて当該発明を再現性をもって実施できるように記載されていれば十分であり、綿密かつ詳細な理論的説明を記載する必要はないと考えます。特許出願にかかる発明の場合は、学術論文とは異なり、理論的解明を目的とするものではないからです。具体的には、発明の目的・構成・効果が明確かつ十分に書いてあれば、当該発明を再現性をもって実施可能です。
 本願発明の明細書には、目的・構成・効果が十分詳細かつ明確に書かれています。明細書は、「技術分野」「背景技術」「発明が解決しようとする課題」「課題を解決するための手段」「発明の効果」「発明を実施するための最良の形態」「実施例」「産業上の利用可能性」「符号の説明」に分けて、目的・構成・効果を明確かつ十分に記載しています。
 よって、本出願に、理論面で綿密かつ詳細な記載がないとしても、特許法36条4項1号違反となるものではありません。
 ですから、理論的根拠に関する新主張は、理論的に詳細な記載が無いこと自体を問題とするものだとすれば失当です。そういう意味の主張ではないとすれば、理論的に根拠づけられないので実施不可能という主張、あるいは理論に反するので実施不可能という主張であると解されます。明細書に綿密かつ詳細な理論的説明を記載する必要はないので、この理論的主張に対する反論には、当然、明細書外の文書も根拠とすることができます。ですから、明細書外の文書も指摘しながら反論を行います。

「本件出願時の物理学における技術常識に基づく十分な根拠がな」いと主張される点について。
 これは、当時の物理学における技術常識に基づいて直接根拠づけることができないという主張ではなく、当時の物理学における技術常識から合理的推論を行っても理論的に根拠づけられないという主張だと解されます。当時の物理学における技術常識に基づいて直接根拠づけることができないものを排除するならば、当時の物理学における技術常識を発展させた技術的思想は、特許を受けることができなくなり、科学技術の発展は止まるからです。
 まず、本意見書と同時に証拠として提出した資料集の(1)〜(3)をご覧ください。電流方向の運動量秩序が物理学の技術常識として記載されています。各文書について説明します。

資料番号(1):『超電導入門』A.C.ローズ・インネス・E.H.ロディリック著/島本 進訳/産業図書刊/1978年
 運動量秩序と運動量秩序による規制が、「電流が流れるのを妨げるただ一つの散乱過程は、電流の向きに対の全運動量が変わる場合であり、そして対が破れる場合にのみこれが生ずる。しかし、この対の破壊は、最小のエネルギー量として2Δを要し、そこでこの散乱はもしこのエネルギーが他から供給されることが可能な場合にのみ起こる。低い電流密度の場合にはこのエネルギーが対に伝達される方法がなく、そこで対の全運動量を変える散乱は完全に妨げられるので抵抗がない。」(134〜135頁)と明確に述べられています。

資料番号(2):『超伝導の世界―なぜ起こる?どう使う?』大塚 泰一郎著/講談社ブルーバックス/1987年
 運動量秩序が、5章「模索の時代」の「超電子は秩序ある運動をする」の項(136〜138頁)や、6章「BCS理論の登場」の「マイスナー効果と完全導電性」の項(186〜191頁)に明確に述べられています。例えば、「したがって運動量ゼロの状態を保つべく超電子がいっせいに同じ速度をもって流れ出すというのが運動量秩序の考えである」(140頁より)とあり、「これに対しクーパー対のもつ運動量2Qは平均運動量ではなく、すべての対が共通してもつ運動量である」(189頁より)とあります。

資料番号(3):『超伝導』中嶋 貞雄著/岩波新書/1988年
 運動量秩序がVIII章「BCS理論」の「ペアの凝縮と超伝導」の項(142〜143頁)と「永久電流と寿命」(143〜144頁)の項に明確に述べられています。例えば、「クーパーペアが同一の運動量でそろった運動をすることによってマクロな永久電流が流れる」(143頁より)とあります。

 これを敷衍して説明します。超伝導現象とは、電子対凝縮した電子の超流動です。その実体は、BCS理論によって説明される特殊の引力により全電子が対状態になって凝縮し、電子対を構成する各電子は反平行運動を行い、電子対の重心運動はすべて同じ大きさの運動量を持つということです。そして、永久電流を構成する電子対すべての重心運動の運動量が一斉に同じ大きさで変化しなければならない(運動量秩序)ということです。さらに、この電子対の重心運動の方向は、暗黙のうちに電流方向が想定されていたということです。
 これが当時の物理学の技術常識です。
 この物理学の技術常識を電磁力方向にまで拡張して分析・考察し、磁力が生じないという巨視的量子効果を発見して応用したのが私の創意です。この創意は、超伝導と物理の基本原則に基づいて合理的推論を行った結果得られたものです。提出済みの『超伝導電磁エンジン詳説』(久保田英文著)をご覧ください。特に、「第1章 超伝導電磁エンジンの機能・原理・構造」の「第2節 超伝導電磁エンジンの原理・運動量秩序」と「第3節 超伝導電磁エンジンと高周波脈流」をご覧ください。超伝導と物理の基本原則に基づいた合理的推論の内容が綿密かつ詳細に書かれています。

 次に、具体的に指摘された理論的主張について反論します。
1-1.
「電磁誘導作用が生じ、この部分で生じた起電力が全体に作用するものと考えられるが、当該運動量秩序に従った動きを電子対はすることができないと判断する根拠が明らかではない。」とされる点について。
 電磁誘導とは磁界の変化により起電力が生ずることです。起電力とは、電流を生じさせる力、電子の重心運動を生じさせる力であり、永久電流については、電子対の重心運動を生じさせる力です。この重心運動を生じさせる力の実体は、ローレンツ力です。電磁誘導の原因は、ローレンツ力なのです。
 ローレンツ力は磁界が運動する電子に及ぼす力です。これを相対的に考えれば、運動する磁界が電子に及ぼす力となり、通常の電磁誘導が導かれます。だからこそ、フレミング左手の法則に相対するフレミング右手の法則が存在するのです。
 ですから、電磁力が電流に及ぼす影響、すなわち磁界が運動する電子に及ぼすローレンツ力について説明すれば、ご指摘の電磁誘導についても説明したことになります。
 私は、ローレンツ力が電子対に及ぼす影響について、明細書において筋道を明確に示すとともに、『超伝導電磁エンジン詳説』で詳細かつ明確に、論じています。
 ただし、「運動量秩序に従った動きを電子対はすることができない。」(段落0014)という記述については、誤解を避けるために、「運動量秩序に従った一斉変化の動きを電子対はすることができない。」と補正します。

1-2.
「さらに、当該常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界の変化は、脈流波形の形状ゆえに、各瞬間において、超伝導磁石に対して増加部分と減少部分を有するから、全体としての変化もないのではないか。」と主張される点について。
 確かに磁場空間のエネルギーの量は一定です。しかし、そのエネルギーは空間的に不均一に分布します。この偏りにより、装置が機能します。

1-3.
「何ら方向性を有する運動を生ずることなく、方向性の無い純粋な熱エネルギーとして放出される根拠が不明である。何ら方向性を有する運動を生ずることなく、方向性の無い純粋な熱エネルギーとして放出されるのであれば、当該運動量の平均が方向性を有しないこととなるのではないか。」と主張される点について。
 ローレンツ力は、運動量秩序により、電子対の重心運動を動かせないので、主に各電子の反平行運動の運動量に変化します。このことを「重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。」(段落0014)と表現しました。各超電子が反平行運動をしていることは出願時の物理学の技術常識です。とは言え、誤解を避けるために、「重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の反平行運動の運動量に変化し、その散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。」という記述に補正したいと思います。
 反平行運動とは、大きさが同じで向きが反対のベクトルで表現されます。大きさが同じで向きが反対の各超電子が形成する電子対の運動量は、反平行運動全体に関しては、必然的にゼロになります。反平行運動に関しては方向性を持たないことになります。

「ところで、そのような、いわゆる実施可能要件を定めた特許法36条4項1号の下において、特許法施行規則24条の2が、(明細書には)「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきとしたのは、特許法が、いわゆる実施可能要件を設けた前記の趣旨の実効性を、実質的に確保するためであるということができる。そのような趣旨に照らすならば、特許法施行規則24条の2の規定した「技術上の意義を理解するために必要な事項」は、実施可能要件の有無を判断するに当たっての間接的な判断要素として活用されるよう解釈適用されるべきであって、実施可能要件と別個の独立した要件として、形式的に解釈適用されるべきではない。」
(事件番号: 平成20(行ケ)10237/事件名: 審決取消請求事件/裁判年月日: 平成21年07月29日/裁判所名: 知的財産高等裁判所)

 前述のように本願発明の本質的意義は、文献1の発明を完成させて、完成をもたらした最先端の研究の成果の核心部分を公開したことにあります。
 文献1の発明を完成させた点については、明細書において、次のように説明・主張されています。「従来型の「超伝導電磁エンジン」(特許文献1参照)がある。「超伝導電磁エンジン」に流す脈流は、通常の周波数では装置が機能しないと考えられる。そこで、高周波超伝導電磁エンジンは、装置を機能させる脈流の性質を明らかにして「超伝導電磁エンジン」を完成させたものである。「特許文献1」特開2005−185079号公報」(段落0002)。この記述から、研究の成果の核心部分は脈流の性質にあることも分かります。その脈流の性質がどのようなものかは、文献1の請求項1と本願発明の請求項1を比較することにより、直ちに明確になります。「その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流」であることが分かります。明細書の「発明の詳細な発明」の記述の趣旨からも導き出すことができます。

 以上、本願発明においては、本質的技術的意義が明確かつ十分に開示されている上に、本願発明の明細書には、目的・構成・効果が明確かつ十分に書かれています。また、本願発明の使用する超伝導磁石、超高周波電流等の要素技術は既に実用化・確立されたものばかりであり、それらを新しい考え方に基づいて、組み合わせて画期的効果を得る技術的思想が本願発明です。ですから、確実に当業者が明細書の記載に基づいて当該発明を再現性をもって実施できます。
 従って、本願発明は、特許法36条4項1号・特許法施行規則24条の2の趣旨を満たします。形式的解釈適用を避け、実質的に考えて、本出願の発明はこれを特許すべきものと主張します。


新主張2.について
「常伝導体1に働く電磁力が、そもそも、脈流を流すことによって、どの様に生じるものであるのかが不明である。」と主張されます(新主張2-1とします)。
 加えて、「超伝導コイルに働く電磁力と上記常伝導体1に働く電磁力との間において、直接的な作用・反作用の法則が成立するとしても、超伝導コイルに働く電磁力が生じないのであれば、常伝導体1とケーブル4の構成するループに何らかの力が作用する以上、必然的に、超伝導磁石5の構成するループにその反作用として力が加わることとなるから、逆に常伝導体1とケーブル4の構成するループに働く電磁力も生じないこととなるのではないか」と主張されます(新主張2-2とします)。
 以上の二つの主張についても、一般論として「新主張1.について」で述べたことがあてはまります。煩雑なので繰り返すのは避けます。
 新主張2-1については、その上に立って、具体的に論じます。
 新主張2-2については、その上に立って、当時の物理学における技術常識から合理的推論を行っても理論的に根拠づけられないという主張だと解し、理論的に反論します。


新主張2-1について
 電磁力の強さについて説明します。
 脈流の流れる常伝導体が超伝導磁石の磁界から受ける電磁力の強さは、
F=Bil  (1式)
B : 磁束密度
i : 電流の強さ
l : 導線の長さ
によって簡単に計算できます。この理論は高等学校程度の技術常識です。
 超伝導磁石のループから生じる磁界の様子は簡単に分かります。超伝導磁石のつくる磁界は、導線に電流を流したときに生じる磁界の理論から推論することで簡単に分かります。導線に電流を流したときに生じる磁界は、右ねじの法則に従って同心円状に発生します。また、導線からの距離がrの位置における磁束密度(B)の大きさは、電流の強さをi、透磁率をμとすると、(μi)÷(2πr)によって簡単に計算できます。この理論も、高等学校程度のものであり、当然に技術常識です。
 超伝導磁石は、何重にも巻いたコイルに、変化しない永久電流を流したものです。当業者は、この理論を超伝導コイルに当てはめて磁束密度が分かります。業者によって製造された超伝導磁石であれば、性能として磁束密度が明らかにされています。測定器具によって、実際に測定することもできます。
 また、脈流波形は一定の範囲で規則的に変動しますが、光速度に近い速度で移動しているので、その平均を考えれば十分です。これが、当業者にとって容易な思考であることは明白です。
 以上に基づき、(1式)に、ループ一周の長さを"l"としてあてはめ、磁束密度と流す電流の強さをあてはめれば、電磁力の強さは簡単に計算できます。
 また、電磁力の方向は、フレミング左手の法則により直ちに分かります。
 以上のことは、当業者も当然の前提として理解しているはずです。

新主張2-2
 本願発明は、常伝導電磁石と超伝導電磁石のループを重ね合わせるように固定したものです。これは、同じ大きさのドーナッツ型の永久磁石二つを重ね合わせた場合に相当し、二つの磁石間には、作用・反作用の法則が成立し、同じ大きさで向きが反対の吸引力あるいは反発力が生じることは直感的に理解できることです。また、二つの電流ループ間に直接的に作用・反作用の法則が成立することは、資料集の(4)において明確に肯定されています。

資料番号(4):『超伝導による電磁推進の科学』岩田章・佐治吉郎著/朝倉書店刊/1991年
「電流ループ間の電磁力は作用・反作用の法則が直接的に成り立つ。」(26頁)と明確に述べられ、25〜26頁でその理由が理論的に明確に論述されています。

 一方の力が消滅すれば、他方の力が消滅してしまうのではないかという主張について。
 本願発明の常伝導の電磁石を流れる脈流に電磁力が働きますし、超伝導磁石を流れる永久電流にも電磁力が働きます。なんら、作用・反作用の法則に反しません。しかし、作用・反作用の法則は、当該法則に基づいて、働いた力がどのように変化するかまでは、言及していません。
 電流ループが外部磁場により、磁力を発生させるメカニズムは次のようなものです。外部磁場により、電流が電磁力を受けます。その電磁力を受けた電流は運動量を持ちます。電流を構成する電子が、この運動量をループの材料に与えます。ループの材料が運動量を受けるということは、ループが力積(力×時間)を受けるということです。この「力積」の「力」が磁力となるのです。ですから、磁力の元は電磁力を受けた電流の運動量です。このように、通常は、作用・反作用の法則に従った電磁力がマクロな磁力に変化するのです。
 しかし、本願発明においては、超伝導電磁石を流れる永久電流に働いた電磁力は、磁力に変化できずに、反平行運動の運動量となるのです。作用・反作用の法則に基づいて働いた電磁力が通常とは違う変化の仕方をするだけです。作用の力も、反作用の力も働きますが、その一方が通常とは違う変化をするだけなのです。作用の力、反作用の力の一方たりとも消滅することを認めていません。片方が消滅していないので、もう片方が消滅することはありません。
 しかし、明細書においては、ローレンツ力と電磁力、磁力を区別して記述していませんでした。この点については、誤解をうけやすいので、ローレンツ力と電磁力、磁力の区別を導入して、要約書の解決手段と請求項1と明細書の(段落0006)(段落0012)(段落0014)(段落0015)を補正したいと思います。

 以上の理論的主張は、明細書においても筋道を明確に示すとともに、『超伝導電磁エンジン詳説』で、詳細かつ明確に論じています。
 従って、本願発明は、特許法36条4項1号・特許法施行規則24条の2の趣旨を満たし、本出願の発明はこれを特許すべきものです。
 すなわち、本願発明においては、本質的技術的意義が十分開示されている上に、本願発明の明細書には、目的・構成・効果が明確かつ十分に書かれています。また、本願発明の使用する超伝導磁石、超高周波電流等の要素技術は既に実用化・確立されたものばかりであり、それらを新しい考え方に基づいて、組み合わせて画期的効果を得る技術的思想が本願発明です。ですから、確実に当業者が明細書の記載に基づいて当該発明を再現性をもって実施できます。従って、本願発明は、特許法36条4項1号・特許法施行規則24条の2の趣旨を満たします。形式的解釈適用を避け、実質的に考えて、本出願の発明はこれを特許すべきものと再度主張します。


新主張3.について
 請求項1には、「超伝導磁石及びループ等について、空間的な相互関係あるいは相互の作用等をどの様に設定して配置することにより、エンジンを構成するのかが不明確であり、さらに、電磁力の方向も不明確である。」とされ、「そもそも超電導磁石及びループ等をどのように配置し相互作用させることにより、ループに発生した電磁力を推進力・制動力・浮力として利用することができるものか、発明の詳細な説明の記載からは、明らかではない。」とされます。
 思うに、「特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載において、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許発明の技術的範囲、すなわち、特許によって付与された独占の範囲が不明となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。」
(事件番号: 平成20(行ケ)10107/事件名: 審決取消請求事件/裁判年月日: 平成20年10月30日/裁判所名: 知的財産高等裁判所)
 そこで、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から本願発明を検討します。
 どのように配置し相互作用させることにより、電磁力を推進力・制動力・浮力として利用することができるものか明らかではないと主張されますが、明細書の記載及び図面を考慮した上で、構成要素である常伝導磁石と超伝導磁石をどのように構成・配置させているかについても本願の記述が明白であることに関して説明を加えます。
「超伝導磁石5のコイルの形状に沿って丈夫で断面積が大きく消費電力が少ない形状の金属の常伝導体1を超伝導磁石5に固定する。」(段落0012)という記載があります。この「コイルの形状に沿って」「固定する」という記述と、図面の図1と図2で二つの視点から図示されている超伝導磁石5と常伝導体1の関係から、常伝導のループと超伝導磁石のループの配置関係は明白です。同じ大きさの超伝導磁石5と常伝導体1を重ねあわせるように固定することは明白に見て取れます。
 この構造は、同じ大きさのドーナッツ状の永久磁石を二つ重ね合わせた場合に、相当することが直ちに推論できます。同じ大きさのドーナッツ状の永久磁石を二つ重ね合わせた場合には、円面に垂直な中心軸の方向に、重ね合わせの向き(磁極の向き)に従って、磁力、反発力あるいは吸引力が生じ、二つの磁石に生じる力の大きさは同じです。このことは小学校の理科の実験で直感的に理解されていることでもあり、当然の技術常識です。ただし、正確に同じ大きさであることは、高等学校で作用・反作用の法則として学びます。
永久磁石を | 
磁力を矢印で示せば、
反発力:   ←||→
あるいは
吸引力:   |→ ←|
という表現になります。
 このことを本願発明に当てはめてみれば、常伝導体に働く磁力の簡単な理解が可能です。二つの電磁石の平面に垂直な中心軸の方向に、重ね合わせの磁極の向きに従って常伝導磁石に磁力、すなわち反発力あるいは吸引力が生じ、その常伝導磁石の磁力を推進力として利用することが明白となります。そして、反発力と吸引力の両方を利用しうることは、「電磁力の方向は、脈流の方向を逆転させることで、逆転できる。」(段落0015)(補正前)という記述で分かります。また、脈流波形は規則的に変動しますが、光速度に近い速度で移動しているので、磁力に関しては、その平均を考えれば十分です。
 請求項1が以上の趣旨であることは、明細書の記載及び図面を考慮すれば、明白です。当業者も当然、理解できます。
 しかし、超伝導磁石とループの位置関係について万一の誤解を避けるために、請求項1の「超伝導磁石に対して固定された位置にあるループに」という記述を「超伝導磁石に対して重ね合わせるように固定したループに」という記述に変更する補正を行いたいと思います。
 そして、本願発明の技術的意義が明白であることは上述の通りであり、請求項は、その核心的部分の保護を狙ったものであり、出願人の意図は、容易に察知できます。したがって、第三者に不測の損害を与えることはありません。
 よって、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしています。


 以上、見てきたように、本願発明は超伝導と物理の基本原則によって根拠づけることができます。そして、本件出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明並びに当該請求項1を引用する請求項2及び3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものです。請求項の記載も明確です。従って、本件出願は、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしています。
 よって、原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求めます。

【証拠方法】
   『超伝導電磁エンジン詳説』(久保田英文著) 提出済み
   『資料集』(久保田英文作製/A4用紙22枚) 平成21年10月19日に簡易書留で発送





補正書


手続補正書 2009年10月19日(平21.10.19)

【手続補正1】
  【補正対象書類名】要約書
  【補正対象項目名】全文
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
    【書類名】要約書
    【要約】
    【課題】
 モーターが電気エネルギーを変換して得られるのは回転運動エネルギーである。リニアモーターカーは直線的運動エネルギーを得られるが軌道設備を必要とする。高周波超伝導電磁エンジンは、従来型の「超伝導電磁エンジン」を完成させて、軌道設備を必要とせずに電気エネルギーを直線的運動エネルギーに変換することを目的とする。
    【解決手段】
 超伝導磁石に対して重ね合わせるように固定したループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、そのループに超伝導磁石の磁界による磁力を発生させる一方、その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので、ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン。
    【選択図】 図1
【手続補正2】
  【補正対象書類名】特許請求の範囲
  【補正対象項目名】請求項1
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
【請求項1 】
 超伝導磁石に対して重ね合わせるように固定したループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、そのループに超伝導磁石の磁界による磁力を発生させる一方、その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので、ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン。
【手続補正3】
  【補正対象書類名】明細書
  【補正対象項目名】0006
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
【0006】
 超伝導磁石に対して重ね合わせるように固定したループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、そのループに超伝導磁石の磁界による磁力を発生させる一方、その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので、ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン。
【手続補正4】
  【補正対象書類名】明細書
  【補正対象項目名】0007
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
    【0007】
 請求項1のエンジンを複数回転軸ないしその延長に固定し、請求項1のエンジンに回転半径に対して垂直な同じ回転方向の推進力を生じさせ、請求項1のエンジンとともに回転軸とその延長を回転させる装置。
【手続補正5】
  【補正対象書類名】明細書
  【補正対象項目名】0008
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
    【0008】
 請求項2の装置を発電機に装備して、請求項2の装置とともに発電機を回して電力を得る電力発生装置。
【手続補正6】
  【補正対象書類名】明細書
  【補正対象項目名】0012
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
【0012】
 超伝導磁石5のコイルの形状に沿って重ね合わせるように丈夫で断面積が大きく消費電力が少ない形状の金属の常伝導体1を超伝導磁石5に固定する。この形状ゆえに常伝導体は、消費電力が少ない他に二つの長所を有する。常伝導体に生じる強い推進力を乗り物の骨格に伝えるのに適している。流す電流を低電圧にできるので、電流が作る磁界の波動の力が弱く、超伝導磁石に悪影響を与えない。なお、磁場中で電子に働く力を「ローレンツ力」、磁場中で電流に働く力を「電磁力」とする。そして、導体である電磁石同士が及ぼしあう反発力もしくは吸引力を「磁力」と呼ぶ。
【手続補正7】
  【補正対象書類名】明細書
  【補正対象項目名】0014
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
    【0014】
 常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界が作用して超伝導コイルを流れる永久電流に電磁力が作用するが、そのローレンツ力は、永久電流を構成する電子対の重心運動を動かすことはできない。電子対の重心運動は永久電流現象の基本原則・運動量秩序に従った動きしかできないからである。運動量秩序とは永久電流を構成する電子対すべての重心運動の運動量が一斉に同じ大きさで変化しなければならないということである。この運動量秩序は、超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流の流れる方向だけではなく、外部磁場による電磁力が作用する方向にも、働く。高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には、各瞬間において、脈流による電磁力がゼロの部分がある。よって、脈流波形の形状ゆえに、この運動量秩序に従った一斉変化の動きを電子対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことができないので、重心運動の運動量に変化せずに、各超電子の反平行運動の運動量に変化し、その散乱を通じて、最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。
 【手続補正8】
  【補正対象書類名】明細書
  【補正対象項目名】0015
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
    【0015】
 従って、脈流の磁界によるローレンツ力を受けて電子対に生じるはずの運動量、すなわち、永久電流が流れる方向に対して垂直な電子対の重心運動の運動量から、超伝導コイルの材料が運動エネルギーを得て生じるはずの超伝導コイルに働く磁力が生じない。これにより常伝導体1に働く磁力のみが残ることになり、その磁力を直線的運動エネルギーとして利用できる。常伝導体1に働く磁力の強さは脈流の強さを変えることでコントロールできる。また、磁力の強さは、常伝導体のループの長さ、超伝導磁石の長さを変えることで、変化させることができる。また、磁力の強さは、超伝導磁石の磁界の強さを変えることで、変化させることができる。そして、磁力の方向は、脈流の方向を逆転させることで、逆転できる。




☆物件提出 : 2009年10月19日(平21.10.19)発送
「資料集」を提出。

☆審判指令 : 2009年10月27日(平21.10.27)発送


補正書

補正書(方式) 2009年10月28日(平21.10.28)

【手続補正1】
  【補正対象書類名】   手続補正書
  【補正対象書類提出日】 平成21年10月19日
  【補正対象項目名】   手続補正1
  【補正方法】削除
【手続補正2】
  【補正対象書類名】   手続補正書
  【補正対象書類提出日】 平成21年10月19日
  【補正対象項目名】   手続補正2
  【補正方法】変更
  【補正の内容】
     【手続補正2】
      【補正対象書類名】特許請求の範囲
      【補正対象項目名】全文
      【補正方法】変更
      【補正の内容】
       【書類名】特許請求の範囲
        【請求項1】
 超伝導磁石に対して重ね合わせるように固定したループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、そのループに超伝導磁石の磁界による磁力を発生させる一方、その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので、ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン。
        【請求項2】
 請求項1のエンジンを複数回転軸ないしその延長に固定し、請求項1のエンジンに回転半径に対して垂直な同じ回転方向の推進力を生じさせ、請求項1のエンジンとともに回転軸とその延長を回転させる装置。
        【請求項3】
 請求項2の装置を発電機に装備して、請求項2の装置とともに発電機を回して電力を得る電力発生装置。








早期審理請求
「個人」の資格で早期審理請求し、受理されました。

早期審理請求書 : 2009年9月1日(平21.9.1)



特許庁に対して、審判の早期審理請求をしました。

2009年9月1日付で、早期審理に関する事情説明書を簡易書留で郵送しました。
早期審理を求める事情は、審判請求人久保田英文が個人であるということです。
今まで時機を見ていたのですが、
総選挙の結果、自民党から民主党に政権交代することになり、
超伝導電磁エンジンに対する政府の態度が変わることを期待してのことです。
また、2012年が迫っているので、
いつまでも引き延ばすわけにはいかないからです。

2009年9月1日








審判請求
進歩性無しとする拒絶査定に反論しました。


審判請求書 2008年4月22日(平20.4.22)

【請求の趣旨】
原査定を取り消す。この出願の発明は特許をすべきものとする、との審決を求める。
【請求の理由】
(1) 手続の経緯
出願           平成18年4月8日
拒絶理由の通知(発送日) 平成19年11月6日
意見書(提出日)     平成19年12月12日
手続補正書(提出日)   平成19年12月12日
拒絶査定(起案日)    平成20年3月24日
同謄本送達(送達日)   平成20年4月1日
(2) 拒絶査定の理由
(a) 原査定の拒絶理由は、本願の請求項1−3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献一覧
 文献1:特開2005−185079号公報/段落番号を<00xx段落>という形式で表示する。
 文献2:特開平11−299010号公報/段落番号を[00xx段落]という形式で表示する。
(b) その理由の内容は次のようなものである。
 引用文献1には、超伝導磁石に対して固定された位置にあるループに脈流を流し、ループに発生した電磁力を推進力・制動力・浮力として利用する装置が記載されている。引用文献2には、電源として高周波数の電源を用いることが記載されている。
 よって、流す脈流を、その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流とすることは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が適宜設定し得る事項であると認められる。
 したがって、本願請求項1−3に係る発明は、先の拒絶理由通知で提示した引用文献に記載されたものから当業者が容易に想到し得たものである。
(3)本願発明が特許されるべき理由
 確かに、抽象的可能性としては、必要な手段を抽象的に記載するか全く記載しない発明に基づいて、その範囲内でどのような数値や形状も適宜設定することができる。本願発明においても、抽象的可能性としては、文献1に基づきどのような周波数でも適宜設定できると言える。しかし、それでは、どのような選択発明、どのような数値限定発明でも、適宜設定しうるので進歩性はないということになってしまうであろう。であるから、容易に発明できたか否かは、現実に基づいて具体的に判断すべきものであり、抽象的可能性により一般的に否定すべきものではない。以下、現実的具体的に本願発明が特許されるべき理由を述べる。本願発明の段落番号は、(段落00xx)という形式で表示する。
(a)本願発明の説明
 本願発明の課題は、「軌道設備を必要とせずに電気エネルギーを直線的運動エネルギーに変換すること」(段落0003)により、「推進力・制動力・方向転換力」(段落0009)や「重力を打ち消すことができる浮力」(段落0009)を得ることである。
その手段として、本願の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲に記載された「超伝導磁石に対して固定された位置にあるループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流す」という構成を持ち、「その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流す」ようにしたことを特徴とするものである。本願発明の数値限定は抽象的な数値範囲を単に限定するだけではなく、その数値がループ一周の長さと一致する程度でなければならず、装置のサイズに応じて数値範囲が変化する可変的数値範囲であり、新たな技術的思想の創作を伴う。この新たな技術的思想を具体的に提示したことにより、文献1の未完成発明「超伝導電磁エンジン」が課題を達成するという顕著な作用効果を奏するものである。
その本願発明特有の新たな技術的思想とは、『その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、「脈流の磁界によるローレンツ力がゼロの部分が超伝導磁石に恒常的に存在する」(段落0013)ようにして、「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が運動量に変化しない無効」(本願の請求項1)となる効果を達成する』というものである。
この「波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数」とは、装置のループ一周の長さに応じて、VHF(30MHz〜0.3GHz)やUHF(0.3GHz〜3GHz)程度の超高周波数になる。例えば、超伝導磁石のループの一周の長さを1.6メートルとする高周波超伝導電磁エンジンがあるとする。この高周波超伝導電磁エンジンを機能させるのに必要な周波数を求める。波長は光速度を周波数で割ったものなので、
3×108÷周波数=1.6
これを解くと、周波数は、187.5メガヘルツとなる。
このような「その波長がループ一周の長さと一致する程度の高周波数」とすることにより課題が達成できる理由について説明を加える。超伝導電磁エンジンが機能するためには、理論上、「脈流の磁界によるローレンツ力がゼロの部分が超伝導磁石に恒常的に存在することにな」(段落0013)らなければならない(参照「超伝導電磁エンジン詳説」)。ところが、「その波長がループ一周の長さと一致する程度」に満たない低周波数の場合は、脈流の磁界が超伝導磁石全体に及ぶ時間と脈流の磁界が超伝導磁石に全く及ばない時間が交互に現れる。前者の場合、脈流の磁界が超伝導磁石全体に作用することになる。後者の場合は、超伝導磁石だけが存在するのと同じことになってしまう。そして、脈流の磁界が超伝導磁石の上に部分的に及ぶのは、比較してごく短い時間に過ぎない。
 逆に「その波長がループ一周の長さと一致する程度」を超える高周波数の場合は、超伝導磁石の上に脈流の磁界の及ぶ部分が超伝導磁石を分割するように複数あることになる。この複数の部分の磁界が互いに強め合って、超伝導磁石全体に磁力を及ぼすことになる。
「その波長がループ一周の長さと一致する程度の高周波数」(段落0013)の場合のみ、「脈流の磁界によるローレンツ力がゼロの部分が超伝導磁石に恒常的に存在する」(段落0013)ことになり、装置が機能するのである。「その波長がループ一周の長さと一致する程度の高周波数」を超えても、満たなくても、装置は機能しない。
 以上の、新たな技術的思想により超伝導電磁エンジンを完成させたのが、本願発明の意義である。これは、明細書において、次のように説明・主張されている。『従来型の「超伝導電磁エンジン」がある。「超伝導電磁エンジン」に流す脈流は、通常の周波数では装置が機能しないと考えられる。そこで、高周波超伝導電磁エンジンは、装置を機能させる脈流の性質を明らかにして「超伝導電磁エンジン」を完成させたものである』(段落0002)。これは臨界的意義の主張でもある。端的に言えば、本願発明の最大の意義は臨界的数値を示す技術的思想を創作したことにある。本願発明の「要約」の「課題」においても、『従来型の「超伝導電磁エンジン」を完成させ』るものだと述べている。本願「発明の詳細な説明」の他の段落においても、『従来型の「超伝導電磁エンジン」を完成させ』るものだと述べている(段落0003・段落0009・段落0010・段落0011)。本願発明においては従来型の「超伝導電磁エンジン」を完成させた技術的思想の力により、素晴らしい効果を目にすることが出来るのである。
(b)引用文献の説明
◇文献1
 文献1は、脈流の周波数に限定がなく、通常の周波数(電力会社の供給する電力が有する50ヘルツまたは60ヘルツ)を想定している。本願発明のような超高周波数の実施は想定されていない。
 これは、「脈流の不安定な磁界が作用」<文献1の請求項1>しさえすれば、装置が機能すると考えていたからである。『「脈流の作る磁界が極めて不安定なため超電流に運動量秩序に従った運動をさせるために必要な安定した磁界とはならないので」<0013段落>「超伝導コイルに働く電磁力が生じない」<0014段落>』という技術的思想に基づく。これは、超伝導磁石に働く電磁力の力積が、電流0の平地に接する山の端から食われて行く。すなわち、脈流の山の端から運動量秩序の規制により電磁力の力積が次々と打ち消されて行くので、どのような周波数の脈流でも機能し、通常の周波数以外の脈流を考える必要はないと信じていたからである。
当時は主観的に完成したと思い込んで出願した。しかし、客観的に見て、このような現象が生じないことは、理論的に明白である。本願発明の開示する新たな技術的思想がなければ、装置は機能しないのである。すなわち、文献1は、本願発明と同様、「電磁力方向の運動量秩序」(参照「超伝導電磁エンジン詳説」)の原理を応用しているが、その力と性質の理解が誤っているのである。
特許法上の『発明』は技術的思想、すなわち技術に関する思想でなければならないが、特許制度の趣旨に照らして考えれば、その技術内容は、当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならず、技術内容が右の程度にまで構成されていないものは、発明として未完成のものであって、法2条1項にいう『発明』とは言えない(最高裁昭和52年10月13日判決・民集31巻6号805頁)。
 超伝導電磁エンジンを機能させるには、本願発明特有の技術的思想に基づく「その波長がループ一周の長さと一致する程度の高周波数」が必要である。なのに、文献1は誤った理解に基づいて通常の周波数を想定し、脈流の周波数について何も述べていない。文献1は、装置を機能させる具体的手段となる装置のサイズに応じた超高周波数の脈流を提示できず、誤った理解に基づいている。これでは、当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができない。
したがって、装置が機能せず、目的とする課題を達成できない文献1は未完成発明であり、法2条1項にいう『発明』とはいえない。
また、法29条1項柱書の『発明』は、法2条1項に言う『発明』であり、未完成発明は法29条1項に言う『発明』とは言えない(最高裁昭和52年10月13日判決・民集31巻6号805頁)。であるから、進歩性を欠くことの根拠となり得る引用発明は完成した発明であることを要し、その立証責任は容易想到性を主張する側にある(東京高裁平成10年9月29日判決・判例時報1670号66頁)。引用例は必ずしも客観的に特許性を具えた発明であることを要するものではないが、特許性の具備以前の問題として、引用例が完成した発明として開示されることを要するのである。
上述のように文献1は未完成発明である。よって、文献1の発明を本願発明の進歩性を欠くことの根拠として引用することはできない(特許法2条1項、29条1項)。
◇文献2の発明
 文献2の発明は、いわゆるリニアーモーターを装備した搬送台車である。その課題は、「搬送台車の浮上機構として超伝導磁石を用いると、システムのコストが上昇すると共に、制御が困難であるという問題」[0004段落]と、「一般には、走行路に沿って電気線が架設され、搬送台車に搭載された集電装置が摺接することで電力を集めている。ところが、このような集電システムでは、摺接式であるために集電効率は良いものの摺接部分で磨耗が発生し、磨耗粉が周辺に飛散して周辺環境を汚染すると共に、摩耗による部品交換やメンテナンス等が必要となってコストが上昇してしまうという問題」[0005段落]である。目的は、「低コスト化及び走行安定性の向上を図った搬送台車を提供すること」[0006段落]である。
 問題の発明と引用例が課題を異にしており、引用例には、問題の発明の課題解決に関する事項はもとより、これを示唆する事項も見出し得ないものである場合、一見両者の構成に共通している如き点があったとしても、引用例記載の発明を本願発明の容易推考性判断のための対比資料とすること自体相当でないというべきである(東京高裁平成2年12月27日判決・無体集22巻3号879頁)。
 文献2は、あくまでも軌道を必要とするリニアモーターカーの改善である。これに対して、本願発明は軌道を必要とせず、浮力をも得ることができる反重力機関の一種である万能型のエンジンである。本願発明と文献2は課題・目的を異にしていて、「高周波」という文言だけが共通するにすぎない。文献2には、本願発明の課題解決に関する事項はもとより、これを示唆する事項も見出し得ないものである。
したがって、文献2の発明を本願発明の進歩性判断のための対比資料とすること自体、相当ではない。
(c)本願発明と引用文献との対比
◇文献2の発明との比較
 仮に、文献1の引用は認められないが、文献2の発明の引用が認められる場合の予備的主張を述べる。
本願発明と文献2の発明との目的・構成・効果を比較する。
 本願発明の課題は、「軌道設備を必要とせずに電気エネルギーを直線的運動エネルギーに変換すること」(段落0003)により、「推進力・制動力・方向転換力」(段落0009)や「重力を打ち消すことができる浮力」(段落0009)を得ることである。これに対して、文献2の発明の目的は「低コスト化及び走行安定性の向上を図った搬送台車を提供すること」[0006段落]である。すなわち、本願発明の目的があらゆる乗り物に使用できる軌道を必要としないエンジンを提供することなのに対して、文献2の発明は軌道(走行路)を必要とする搬送用の台車の改善に過ぎない。
 本願発明は超伝導技術を使用して、超伝導磁石の長所を最大限に利用する。これに対して、文献2は超伝導技術を使用しない。超伝導磁石の欠点を補おうとするものである。
 本願発明は、二つの電磁石を重ね合わせて固定する構造になっている。この本願発明の特徴的構造が文献2には存在しない。
 本願発明が軌道を必要としないのに対して、文献2の発明は軌道を構成要素とする。
 本願発明が脈流を使用するのに対し、文献2の発明は脈流を使用しない。
 本願発明の高周波数は、装置のループ一周の長さに応じて、VHF(30MHz〜0.3GHz)やUHF(0.3GHz〜3GHz)程度の超高周波数になる。これに対して、文献2の発明に言う高周波数はリニアーモーターを装備した台車の走行に同期する程度の周波数(せいぜい数百ヘルツ)に過ぎず、かけ離れている。
 本願発明が超高周波数の脈流を提供する電源を構成要素とする(段落0013・段落0021)のに対して、文献2は、通常の周波数の通常の電源である。
 本願発明の周波数は、装置のループ一周の長さに応じて決定されるのに対して、文献2の発明(リニアモーターカー)の周波数は、台車の速度と地上コイルのピッチに応じて計算され、台車の走行させたい速度に応じて変化させる。
 本願発明の移動速度は脈流の強さにより変化させる(段落0015)のに対して、文献2の発明の移動速度は、周波数の高低により変化させる。
 本願発明の効果は、「推進力・制動力・方向転換力」(段落0009)や「重力を打ち消すことができる浮力」(段落0009)を得ることができるのに対して、文献2の発明の効果は搬送台車の低コスト化[0029段落]及び走行安定性の向上[0030段落・0031段落]が実現できるに過ぎない。
 以上のように本願発明と文献2の発明は、目的・構成・効果が全く違う。
 目的・構成・効果が大きく違う発明の間では、進歩性を肯定するのが判例・通説である。そして、本願発明と文献2の発明は、目的・構成・効果が全く違う。したがって、文献2の発明に基づいて本願発明の技術的思想を容易に発明することはできない。
 また、仮定として本願発明と文献2の発明が課題を共通するとしても、出願発明と引用例の間に技術原理の差異があるときは、その差異に具体的理由を付さずに進歩性を否定することは違法である(東京高裁昭和58年6月20日判決・判例時報1089号127頁)。
◇文献1と文献2からの進歩性
 仮に、文献1および文献2が引用発明として認められる場合の予備的主張を述べる。拒絶査定の理由は文献1と文献2から本願発明の進歩性を否定するが、文献1と文献2の発明を組み合わせて本願発明を創作することが容易かどうかを検討する。
 まず、本願発明と文献1との目的・構成・効果を比較する。
 目的は同一である。
 構成について述べる。
 本願発明は、新たな技術的思想に基づき、その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流(メガヘルツの領域)を流す。加えて、本願発明の数値限定は抽象的な数値範囲を単に限定するだけではなく、その数値がループ一周の長さと一致する程度でなければならず、装置のサイズに応じて数値範囲が変化する可変的数値範囲であり、新たな技術的思想の創作を伴う。これに対して文献1の発明は、誤った理解に基づき、通常の周波数の脈流を流すことが想定されている。文献1の明細書の記述では周波数が全くの無限定であり、高周波数は抽象的可能性として存在するにすぎない。
本願発明の周波数は、装置のループ一周の長さに応じて、VHF(30MHz〜0.3GHz)やUHF(0.3GHz〜3GHz)程度の超高周波数になるのに対して、文献1の発明の周波数は通常の周波数(50ヘルツまたは60ヘルツ)に過ぎず、かけ離れている。
 本願発明が超高周波数の脈流を提供する電源を構成要素とする(段落0013・段落0021)のに対して、文献1は、通常の周波数の脈流電源である。
 効果は全く違う。本願発明においては、軌道設備を必要とせずに電気エネルギーを直線的運動エネルギーに変換すること」(段落0003)により、「推進力・制動力・方向転換力」(段落0009)や「重力を打ち消すことができる浮力」(段落0009)を得ることが実現できるのに対して、文献1は、既述の理由で機能しない。
 本願発明と文献1の構成の相違が、その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流に限定する数値限定のみであるとしても、その数値限定により装置が機能するという重大な相違が生じる。すなわち、数値限定が臨界的意義を持つ。この臨界的意義をもつ数値の創作により、本願発明は実施可能となったのである。
 次に、文献1と文献2の目的・構成・効果を比較する。
 文献1の課題は、「軌道設備を必要とせずに電気エネルギーを直線的運動エネルギーに変換すること」<0003段落>により、「推進力・制動力・方向転換力」<0009段落>や「重力を打ち消すことができる浮力」<0009段落>を得ることである。これに対して、文献2の発明の目的は「低コスト化及び走行安定性の向上を図った搬送台車を提供すること」[0006段落]である。すなわち、本願発明の目的があらゆる乗り物に使用できる軌道を必要としないエンジンを提供することなのに対して、文献2の発明は軌道(走行路)を必要とする搬送用台車の改善に過ぎない。
 文献1は超伝導技術を使用し、超伝導磁石の長所を利用しようとする。これに対して、文献2は超伝導技術を使用しない。超伝導磁石の欠点を補うものである。
 文献1は、二つの電磁石を重ね合わせて固定する構造になっている。この文献1の特徴的構造が文献2には存在しない。
 文献1が軌道を必要としないのに対して、文献2の発明は軌道を構成要素とする。
 文献1が脈流を使用するのに対し、文献2の発明は脈流を使用しない。
 文献1の推進力の強度は脈流の強さにより変化させる<0014段落>のに対して、文献2の発明の推進力の強度は、周波数の高低により変化させる。
 文献1の目的とする効果では、「推進力・制動力・方向転換力」<0009段落>や「重力を打ち消すことができる浮力」<0009段落>を得られるのに対して、文献2の発明の効果は搬送台車の低コスト化[0029段落]及び走行安定性の向上[0030段落・0031段落]が実現できるに過ぎない。
 以上のように文献1と文献2の発明は、目的・構成・効果が非常に大きく違う。
 本願発明と文献2の発明の比較は既述の通りである。
 以上を元に本願発明の進歩性を検討する。
本願発明は、文献1の『不安定な磁界ゆえに電磁力が無効となる』という技術的思想を克服した上に、『その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより、脈流の磁界によるローレンツ力がゼロの部分が超伝導磁石に恒常的に存在するようにして、超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が運動量に変化しない無効となる効果を達成する』という新たな技術的思想を文献1に加えて、極めて有用な効果を実現するものである。本願発明は新たな技術的思想とそれに伴う超高周波電源の使用という構成の変化も伴うが、構成の相違が数値限定のみであるとしても、数値限定が臨界的意義を持つ場合、進歩性を肯定するのが判例である(東京高裁平成10年2月24日判決・特許と企業346号55頁、東京高裁平成9年10月16日判決・判例時報1635号138頁)。そして、本願発明の数値限定は臨界的意義を持つ。また、文献1と文献2を比較すると、上述のように目的・構成・効果が非常に大きく違う。加えて、本願発明の応用する「電磁力方向の運動量秩序」の原理は、発明者の独創であり、個人的事情により学会に発表もできず、科学界の認知も受けていないので、出願時の技術常識とは言えない。そして、この原理の正しい応用手段である本願発明の技術的思想は、本願出願後に公開されたことは無論であり、その前に正しいものとして公開されていた応用手段である文献1の技術的思想は誤っていた。
したがって、当業者が文献1を前提とし文献2から本願発明の新たな技術的思想を創作することは著しく困難である。よって、当業者は文献1及び文献2に基づいて本願発明の技術的思想を容易に発明できず、本願発明は進歩性を有し、特許すべきものである(特許法29条)。
(4) むすび
 文献1は、未完成発明であり、引用は許されない。文献2の引用も相当ではない。また、文献2から、当業者が本願発明を容易に発明できたものでもない。仮に、文献1と文献2の引用が許されるとしても、文献1と文献2から当業者が容易に発明できたものではない。よって、原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求める。





特許庁に対して、審判請求をしました。


2006年に日本国特許庁へ新出願した
「高周波超伝導電磁エンジン」(出願番号:特願2006-130763,公開番号:特開2007-278265)について
2007年7月10日、早期審査申請と同時に審査請求を行ったところ拒絶理由通知を受け、
意見書と手続補正書を提出し、
補正は受け入れられましたが拒絶査定を受けましたので、
2008年4月22日付で審判を請求しました。

審判請求書の要旨は次のようなものです。

文献1は、未完成発明であり、引用は許されない。
文献2の引用も相当ではない。
また、文献2から、当業者が本願発明を容易に発明できたものでもない。
仮に、文献1と文献2の引用が許されるとしても、文献1と文献2から当業者が容易に発明できたものではない。
よって、原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求める。


引用文献一覧
 文献1:特開2005−185079号公報
 文献2:特開平11−299010号公報

この審判請求書には、判例と特許法の条文をなるべく記載するようにしました。
審決が出た後に、審判請求書の内容の全文を公開する予定です。




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