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審決取消訴訟報告
平成22年(行ケ)第10228号・知財高裁第二部担当


審決取消訴訟の結果 訴訟書類PDFダウンロード 証拠PDFダウンロード
予定を変更して、
24日送達の審決取消訴訟判決を今日、公開します。

                                2011年3月30日
判決のHTML版は、こちらです。

審決取消訴訟判決

2011年3月22日に、当方の請求を棄却する判決が下りました。
違法かつ不当な判決です。
一週間以内に、審理の内容を公開します。
知的財産高等裁判所が公開した後、判決をこのホームページ上でも公開します。
                  2011年3月24日

判決の時期

審決取消訴訟は進行しています。
来年の春に判決が出る模様です。
                  2010年12月11日
判決sosyo04.PDF/3197KB)


原告の準備書面
sosyo03.PDF/208KB)

証拠説明書甲29〜31号証
setumei02.PDF/47KB)

特許庁の準備書面
sosyo02.PDF/209KB)


訴状
sosyo01.PDF/275KB)

証拠説明書甲1〜28号証
setumei01.PDF/70KB)


















2011年4月6日、証拠説明書と審決謄本のPDFを追加しました。
審決謄本sinketu.PDF/3098KB)

甲10号証
JPA_2007278265.PDF/32KB)
公開特許公報−特開2007-278265号公報 
甲11号証kou11.PDF/75KB)
審査時拒絶理由通知書
甲12号証(kou12.PDF/715KB)
面接記録
甲13号証(kou13.PDF/64KB)
拒絶査定
甲14号証kou14.PDF/116KB)
審判時1回目拒絶理由通知書 
甲15号証kou15.PDF/136KB)
補正指令書
甲16号証kou16.PDF/136KB)
審判時2回目(最後)拒絶理由通知書 
甲17号証kou17.PDF/171KB) 氏名通知
甲18号証kou18.PDF/72KB)
審理終結通知書
甲19号証kou19.PDF/80KB) 上申書
甲20号証kou20.PDF/159KB)
審査時意見書
甲21号証kou21.PDF/74KB)
審査時手続補正書
甲22号証kou22.PDF/123KB)
先出願番号通知
甲23号証kou23.PDF/188KB) 審判時1回目意見書
甲24号証kou24.PDF/978KB) 審判時1回目手続補正書
甲25号証kou25.PDF/68KB)
手続補正書(方式)
甲26号証kou26.PDF/179KB)
審判時2回目意見書
甲27号証kou27.PDF/81KB)
審判時2回目手続補正書
甲28号証kou28.PDF/156KB)
審判請求書
久保田英文の著作物であり、久保田英文が著作権を有します。
著作権者久保田英文は、以下の条件で利用を許可します。

条件
1.ダウンロードした電磁データ及び電磁データの印刷物は、自分個人だけの利用にとどめること。
2.入手した電磁データ及び電磁データの印刷物は、他者に頒布しないこと。


甲9号証kubota-engine.PDF/547KB)
「超伝導電磁エンジン詳説」久保田英文著

甲29号証(kubota-strange.PDF/166KB) 「ストレンジクラフトあるいはドローンズについて」久保田英文著
対象外

著作権の関係で公開の対象外です。

甲1号証 「超電導入門」
A.C.ローズ-インネス,E.H.ロディリック著 島本 進,安河内昂訳"
22〜23頁、132〜135頁、186〜187頁、204〜205頁
甲2号証 「超伝導の世界 なぜ起こる? どう使う?」 大塚泰一郎著       136〜141頁、186〜193頁、258〜263頁
甲3号証 「超伝導」中嶋貞雄著
52〜55頁、142〜145頁

甲4号証 「超伝導による電磁推進の科学」岩田 章 佐治吉郎著 "
24〜27頁、48〜49頁


参考
「超伝導による電磁推進の科学」26頁から8〜23行を抜粋


甲5号証 「高等学校物理U」
著作者 伏見康治ほか5名
96〜101頁
甲6号証 「第2版 科学大辞典」
財団法人 国際科学振興財団 編
973頁、1031頁
甲7号証 「物理学辞典 三訂版」
物理学辞典編集委員会編
1430頁、1531〜1532頁
甲8号証 「応用超電導」
萩原宏康 編著
3〜4頁
甲30号証 写真/撮影対象: 「ストレンジクラフト」/撮影者: 不詳/撮影日:平成19年5月16日/撮影場所: アメリカ合衆国カリフォルニア州キャピトーラ

甲31号証 平成22年7月8日時点「特許庁幹部名簿」
審理の経過
★判決言い渡し 2011年3月22日

最終回の弁論準備・口頭弁論 2011年3月8日

被告特許庁長官の代理人解任書 2011年1月4日付

第2回準備手続 2010年12月6日

原告久保田英文の準備書面及び追加証拠提出 2010年11月18日付

特許庁の準備書面提出 2010年10月25日付

第1回準備手続 2010年9月13日

特許庁の答弁書提出 2010年8月9日付

証拠提出 2010年7月21日付と23日付

提訴・訴状提出 2010年7月20日

審理の内容


★最終回の弁論準備・口頭弁論 2011年3月8日
最終回の弁論準備手続が行われ弁論準備手続が終結した後、
法廷で口頭弁論が行われて弁論が終結し、
裁判長が2011年3月22日の判決言い渡しを宣言しました。


★被告特許庁長官の代理人解任書 2011年1月4日付




★第2回準備手続 2010年12月6日
弁論準備手続が仮終結しました。



★原告久保田英文の準備書面及び追加証拠提 2010年11月18日付
甲29〜31号証とともに、準備書面を提出しました。

原告準備書面 2010年11月18日(平22.11.18)発送

平成22年(行ケ)第10228号審決取消請求事件

 原 告 久保田英文

 被 告 特許庁長官 岩井良行

平成22年11月18日 

 知的財産高等裁判所第2部 御中

 

                    原告 久保田英文 

 

準 備 書 面(第1回)

 

 頭書事件について,原告は,次のとおり弁論を準備する。

 

 

 




第1 被告側準備書面(第1回)に対する認否

1 被告側準備書面(第1回)中の「訴状に対する認否」「1」について

1)特許庁から送付された各書面に対して「付け」を付した日付である。「平成19年11月6日」,「平成21年10月6日」,「平成21年10月27日」,「平成22年2月23日」は,それぞれが発送日兼送達日である。「平成20年4月1日」,「平成22年6月1日」,「平成22年6月25日」は,それぞれが発送日である。

2)「1回目の拒絶理由通知書」は,審判時の1回目の拒絶理由通知書である。「平成21年10月19日付けの補正」の内容が「適法として許可され」明細書の内容になった。そして,「最後の拒絶理由通知書」は,その明細書の一部となった内容が特許法の規定に適合しない旨を通知したのである。特許庁が適法に許可したから,明細書の内容になったのである。

 

2 被告側準備書面(第1回)中の「訴状に対する認否」「2」について

 審判の手続及び審決の認定判断には誤りがあり,審決は違法として取り消されるべきである。

 

3 被告側準備書面(第1回)中の「訴状に対する認否」「3」について

1) 「(1)」の「ア」すなわち「最後の拒絶理由通知書(平成22年2月23日付け)に対する応答として申し出た補正(平成22年3月2日付け)を却下する旨の通知は無く,防御の機会を与えられなかった事実」及び「ウ」すなわち「結審間近で審判長が交代した事実」について被告は,認めた。

2)「最後の拒絶理由通知書」は,「平成21年10月19日付けの補正」の内容が「適法として許可され」明細書の内容になったが,その明細書の一部となった内容が特許法の規定に適合しない旨を通知したのである。特許庁が適法に許可したから,明細書の内容になったのである。

3)「不知」ではなく,被告は「超伝導電磁エンジン詳説」(甲第9号証)が,原告の著作と確認できた。

4)対外的関係においては,送達日を用いるべきである。法律的効果の発生する送達日を用いた方が,審決取消訴訟の原告一般にとって便利だからである。かつ,裁判所にとっても便利であると推量するからである。

5)「(2)」ないし「(4)」については,被告が争うとしている点は争う。

6)最後の拒絶理由通知書に応じた補正が却下されることについて,法定の防御の機会が原告に与えられていない。法令の解釈により,最後の拒絶理由通知書に応じた補正が却下されることについて,被告は防御の機会を与えなければならない。すなわち,この場合,被告が原告に防御の機会を与えることは,法令の命じるところである。

 

4 被告側準備書面(第1回)中の「訴状に対する認否」「4」について。

 被告が争うとしている点は争う。

 

5 まとめ

 以上で認めた点を除き,被告が争うとしている点は,すべて争う。

 

第2 原告の主張

 原告は,被告側第1回準備書面による主張に対して,次のとおり反論する。

1 取消事由1(補正却下手続の違法と理由「第5.付言」)に関して

(1)被告の主張

被告は,

『ア 特許法53条3項但し書きにおいて,「拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においてはこの限りでない」と規定しているのは,審査における同条1項の規定による却下の決定に対して,拒絶査定に対する拒絶査定不服審判を請求した場合に,それとともに補正却下の不服を申し立てることができる旨を規定したものである。同項但し書きが,「拒絶査定不服審判においてはこの限りでない」と規定していないことから,審判においてなされた補正却下の決定に対する不服申立ての規定ではない。

 そして,審決における補正却下の決定に対して,不服を申し立てることができないとしても,審判請求人は,この補正却下の決定に対して,審決に対する審決取消訴訟において,争うことができるのであるから,不合理はない。

 審決は,「平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。」(審決12頁24〜27行)として,「平成22年3月2日付けの手続補正を却下する。」(審決6頁22行)ものであり,同法159条1項の規定により,同法53条の規定を,拒絶査定不服審判に準用する場合において,同法17条の2第3項の規定に違反するとして,補正却下の決定をしたものである。

 したがって,同法53条3項に規定するとおり,審判において,不服を申し立てることができない。

イ さらに,審判において拒絶理由が2回通知されていることから,慎重な審理が行われたのであり,審判における補正却下の決定に対して不服を申し立てる機会が無いことは,上述したとおり,特許法に則した適正な手続であるから,審判における手続に瑕疵はない。

 なお,審決の「第5.付言」は,「電話による応対」が,審判において補正却下された場合には,出訴による以外は「法定の防御の機会」が無いので,審判請求人(原告)は「分割出願」することによって審(ママ)手続における「防御の機会」を確保することができることを,確認的に連絡したにすぎないことを述べたまでである。

ウ 以上のとおりであるから,審決において補正却下の決定をした手続に誤りはないから,原告が主張する取消事由1は理由がない。』(被告側第1回準備書面4〜5頁)

と主張する。

 

(2)被告の主張に対する反論

ア まず,拒絶査定不服審判の性質を述べる。法は,原則として三審制を採っている。拒絶査定に対する不服の訴訟においても,三審制が採用されるべきであるが,特許庁の行政専門性を考慮して,第一審の役割を特に特許庁に委ねた。これが,拒絶査定不服審判である。拒絶査定不服審判は,第一審の役割を果たすのであるから,慎重な審理が行われなければならない。

 特許法第53条3項本文が1項の決定に対して不服申し立てができないとした趣旨は,不服申し立てができるとするとその間「審査」が中止され,迅速な権利付与が図られないからである。そして,特許法第159条が特許法第53条を準用する審判の場合においてはこの趣旨は妥当しない。審決取消訴訟の前審である拒絶査定不服審判手続においては,慎重な審理が行われるべきであるからである。

 審判における決定に対して,その審判中で不服申し立てができないとすることは,本来の訴訟構造論からしておかしい。訴訟においては,その審級における決定に対しては,その審級に留まったままで不服申し立てできるのが原則である。判決が審理を尽くしたと言えるためには,判決に至る前の決定に対して,不服申し立てができなければならないはずである。不服申し立てができないとするならば,十分な審理を行わずに有無を言わさず決定を押し通して判決に至ったということになるのではないだろうか。不服申し立てができないとするならば,不服申し立てができる原告の権利,すなわち適正な手続を受ける権利(憲法第13条・憲法第31条)及び裁判を受ける権利(憲法第32条)を不当に制限するものとなる。そして,拒絶査定不服審判は,第一審の役割を果たすものであるから,訴訟に準じて上述が妥当する。

 従って,特許法第159条が特許法第53条を準用する審判の場合においては,第53条第1項の決定に対して,不服を申し立てることができると解すべきである。

 特許法53条3項但し書きが「拒絶査定不服審判においてはこの限りでない」と規定していないのは,同項が直接的に規定するものが「審査における同条1項の規定による却下の決定に対して,拒絶査定に対する拒絶査定不服審判を請求した場合に,それとともに補正却下の不服を申し立てることができる旨」であるからに過ぎない。また,「この限りでない」場合に,法律が必ずその旨を規定するものではないし,すべて必ず規定できるものでもない。そして,但し書きであるから,本文と合わせて法の趣旨に従い解釈すべきである。上述の法の趣旨に従った解釈を施すべきである。

「審決における補正却下の決定に対して,不服を申し立てることができないとしても,審判請求人は,この補正却下の決定に対して,審決に対する審決取消訴訟において,争うことができるのであるから,不合理はない。」と被告は言う。しかし,国民の権利を守るべき行政庁が国民の不服申し立てをする権利を奪うことがどうして「不合理はない」のであろうか。審判において十分な審理を受ける権利を奪うことがどうして「不合理はない」のであろうか。

 従って,原告は特許法第159条・第53条1項・第17条の2第3項による補正却下の決定に対して,行政不服審査法に基づく不服を申し立てることができた。であるならば,不服申し立ての機会を保障するために,審決よりも前に,拒絶査定不服審判の原告に通知がなされなければならないのは当然である。また,その通知の中で行政不服審査法第57条による教示が行われなければならないのに,為されなかった。よって,審決は,原告ひいては国民の不服申し立ての権利を奪った違法なものであり,取り消されるべきである。

 平成18年法律第55号による特許法第17条の2の改正は,発明の単一性の要件に係わる「技術的特徴の異なる別発明への補正の禁止」と「分割制度の濫用防止」に関するものであり,本件には関係がない。

 

イ 被告は「審判において拒絶理由が2回通知されていることから,慎重な審理が行われた」と言う。2回というのはごく一般的であり,特に慎重な審理が為されたとは言えない。また,慎重な審理が為されたか否かは,拒絶理由の回数よりも,審理の内容によって判断すべきである。そして,審理の内容を見ると,原告ひいては国民の不服申し立ての権利を奪った違法なものである。審判における補正却下の決定に対して不服を申し立てる機会が法によって保障されていることは,上述したとおりであり,特許法に違反した違法な手続であるから,審判における手続に瑕疵が存在し,違法である。

 なお,平成22年4月23日の電話連絡によって勧められた「分割出願」であるが,そのまま出訴するよりも,「分割出願」した方がよいという理由が今もって原告には分からない。

 また,被告は,電話連絡が『「分割出願」することによって審(ママ)手続における「防御の機会」を確保することができることを,確認的に連絡したにすぎない』とも言うが,確認の時期を失している。分割出願可能なのは補正期間内であり(特許法第44条1項1号),それは本件においては,平成22年2月23日付け最後の拒絶理由通知書(甲第16号証)の示すとおり,その発送日から60日間以内だからである。

 

ウ 以上のとおりであるから,審決において補正却下の決定をした手続に誤りが存在し,原告が主張する取消事由1は理由があり,審決は取り消されるべきである。

 

2 取消事由2(審判手続の手続的違法)に関して

(1)被告の主張

被告は,

『 原告の主張は,「手続補正2」のうち,「特許法第17条の2第3項違反を解消するための部分」については,適法であり,違法状態を解消できることを前提としている。

 審決の「第4.本願について」の「3.当審の判断」の「(2)」において検討したとおり,原告の主張する「特許法第17条の2第3項違反を解消するための部分」は,そもそも平成21年10月1日付けの拒絶理由(甲第14号証)に対応して,平成21年10月19日付けの手続補正(甲第24号証)において,「各超電子の散乱を通じて」を「各超電子の反平行運動の運動量に変化し,その散乱を通じて」に補正(下線部の記載を付加)して,新たな技術的事項を導入したものを,更に平成22年3月2日付けの手続補正(甲第27号証)において,当該下線部の記載を削除することにより,解消しようとするものである。

 仮に,特許法第17条の2第3項違反を解消するために,付加された「反平行運動の運動量に変化し,その」との記載を削除すれば,元の「各超電子の散乱を通じて」の記載に戻ることとなり,結局のところ,平成21年10月1日付けの拒絶理由(甲第14号証)で指摘したとおり,同法第36条4項1号の規定に適合しないこととなる。

 したがって,原告が主張する「特許法第17条の2第3項違反を解消するための部分のみを内容とする補正書を提出する機会を原告に与える」ことにより,違法状態を解消することはできない。

 以上のとおり,原告の主張はその前提において失当であるから,審判手続の手続的違法を主張する原告の取消事由2は理由がない。』(被告側第1回準備書面6〜7頁)

と主張する。

 

(2)被告の主張に対する反論

 被告は原告の意思に従い,「反平行運動の運動量に変化し,その」との記載を明細書の内容にした。それは,適法な原告の意思に従って補正を認めなければならないからである(特許法第17条の2第1項)。そして,被告はその補正の内容を最後の拒絶理由通知書(甲第16号証)において,特許法第17条の2第3項違反だと指摘した。原告は,その指摘に従い,「反平行運動の運動量に変化し,その」を削除する意思を表示する補正書(甲第27号証)を提出した。この補正は適法であるから,被告は,原告の意思に従って,削除を認めなければならない(特許法第17条の2第1項)。補正書の形式上無理があるなら原告の意思を尊重し,原告に更なる補正の機会を与えなければならない。なのに,被告は原告の意思を無視した。

 また,「反平行運動の運動量に変化し,その」との記載による特許法第17条の2第3項違反を解消することは原告にとり重要な意味を持つ。この違反が残れば,原告の<仮に補正却下の決定が適法だとしても特許法第36条違反にならないので審決は違法であり取り消されるべきである>という主張が制限されるからである。すなわち,明細書の記載が第36条違反にならないとしても,「反平行運動の運動量に変化し,その」との記載を理由とする第17条の2第3項違反になりうるからである。被告は,原告の意思に従い,事態を複雑化させることなく,補正を認めるべきであった。

 従って,原告の意思を無視して特許法第17条の2第3項違反を解消する補正をできないようにしておきながら,特許法第17条の2第3項違反を主張することは,信義誠実の原則及び手続的正義に反し,許されない。合法性を確保しなければならない行政庁である被告は,違法状態の解消を求める意思を尊重しなければならない。公権力が処分を行う場合,処分を受ける個人は,適正な手続的処遇を受ける権利を有する(憲法第13条・憲法第31条)のに,適正な手続が行われなかった。

 

 加えて,特許法第17条の2第3項違反を解消するために,付加された「反平行運動の運動量に変化し,その」との記載を削除すれば,元の「各超電子の散乱を通じて」の記載に戻ることとなるが,その場合も同法第36条4項1号の規定に適合する。このことは,訴状の「(4) 取消事由4」の「ウ」の「(イ) (2)について」(訴状の17〜19頁)において主張するとおりである。平成21年10月6日付けの拒絶理由(甲第14号証)での特許庁の指摘は誤っており,特許法第36条4項1号の規定に適合している。従って,特許法第17条の2第3項違反を解消するための部分のみを内容とする補正書を提出する機会を原告に与えることにより,違法状態を解消することができる。よって,原告の主張は、被告が言うところの前提においても正当であり,「原告の主張はその前提において失当であるから,原告の取消事由2は理由がない」との被告の主張は理由が無い。

 また,仮に特許法第36条4項1号の規定に適合しないとしても,特許法第17条の2第3項違反を解消したいという原告の適法な意思を尊重して補正の機会を与えるべきものであった。それなのに,被告は自ら特許法第17条の2第3項違反を指摘しておきながら,それに従って特許法第17条の2第3項違反を解消したいという原告の意思を無視したのである。公権力が処分を行う場合,処分を受ける個人は,適正な手続的処遇を受ける権利を有する(憲法第13条・憲法第31条)のに,適正な手続が行われなかったのである。

 以上より,審判手続の手続的違法を主張する原告の取消事由2は理由があり,審決は取り消されるべきである。

 

 

3 取消事由3(理由「第3.平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」)に関して

(1)被告の主張

被告は,

ア 「1.本件補正の内容」について

 平成22年3月2日付けの手続補正(甲第27号証)について補正却下の決定をした審決に誤りはなく,当該決定に至る判断内容に誤りがないことは,後述するとおりである。

 審決における「第3.平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「1.本件補正の内容」は,平成22年3月2日付けの手続補正(甲第27号証)の内容を明らかにしたものである。

イ 「2.本件補正の適否」の「ア.の補正事項」について

 原告が主張する取消事由1及び2は,上述したとおり,いずれも理由がない。そして,後述する「ウ」のとおり,「イ.の補正事項」が特許法の規定に適合しないから,「ア.の補正事項」及び「イ.の補正事項」を含む平成22年3月2日付けの手続補正(甲第27号証)を却下することは,特許法に則した適正な手続である。

ウ 「2.本件補正の適否」の「イ.の補正事項」について

 審決は,「イ.の補正事項」を,『超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)の超伝導コイルを流れる永久電流に「(輸送電流)」との記載を付加して,永久電流を,輸送電流に限定して,渦電流を除外することにより,特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)」についての概念を変更するものである。』(審決9頁25〜29行)と認定し,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)には,「輸送電流」について記載されていない(審決9頁30〜32行)こと,及び,「永久電流が,渦電流を除外した輸送電流のみを意味することは,当業者に自明な事項ではない」(審決12頁2〜3行)ことから,「イ.の補正事項」が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)に記載した事項の範囲内においてなされたものではない(審決12頁19〜20行)と判断したものである。

 そして,審決は,『超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)において輸送電流を用いること自体は,良く知られている』(審決12頁5行)ことを認めた上で,『超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)5には,冷却器3が接続されることが記載されているのみであって,外部電源から電流が流されることは,記載されていない』(審決12頁10〜11行)こと,及び,「超伝導磁石5が,外部電源を有する超伝導電磁石であって,所望により輸送電流を流すような構成を意図していたことが,当業者に自明であるとは認められない」(審決12頁16〜18行)ことからも,上述したとおり,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)に記載した事項の範囲内においてなされたものではないこと,すなわち,「イ.の補正事項」が,新たな技術的事項を導入するものであると判断したものである。

 これに対して,原告は,「本件出願において,超伝導磁石に接続した外部電源の記載が無いのは,超伝導磁石が電磁石として機能している状態を描いたからである。超伝導磁石が電磁石として機能している状態では,外部電源は,切り離されているのである。」と,図示されている超伝導磁石が,外部電源を有していないことを認めている。

 そして,原告は,「電磁石とは,通常,磁性材料の芯のまわりに,コイルを巻き,通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石である。」と,電磁石が外部電源を有することを認めている。

 そうであるならば,外部電源を有しないコイルを磁性材料の芯のまわりに巻いたものは,電磁石とはいえないから,当然に,外部電源を有しないコイルを有する超伝導磁石も,超伝導電磁石とはいえない。

 また,原告が,「輸送電流」なる用語の根拠として示している甲第1号証における「蓄電池のようなある外部電源から超電導体に流される電流(これらを輸送電流という)」(23頁4〜6行)の記載は,「輸送電流」なる用語の内容を定義しているのであるから,「輸送電流」の意味内容をこのように解すべきことは,当然である。

 一方,超伝導磁石の超伝導コイルを流れる永久電流が輸送電流であるとすると,超伝導磁石が外部電源を有する超伝導電磁石であると認められ,超伝導電磁石であるならば,外部電源から所望により輸送電流を流すことが可能な構成を意味することとなる。

 したがって,「イ.の補正事項」は,審決に記載したとおり,新たな技術的事項を導入するものである。

エ まとめ

 以上のとおりであるから,審決における「第3.平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の違法を主張する原告の取消事由3は理由がない。

 なお,同じく「第3.平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.むすび」に記載した,平成18年法律55号改正附則3条1項は,同法による改正前の特許法17条の2,53条及び159条の規定が,同法の施行前にした特許出願について適用されることを規定した条文である。』(被告側第1回準備書面11〜14頁)

と主張する。

 

(2)被告の主張に対する反論

ア 「1.本件補正の内容」について

 平成22年3月2日付けの手続補正(甲第27号証)について補正却下の決定をした審決は誤りであり,当該決定に至る手続及び判断内容に誤りあることは,訴状及びこの準備書面で述べるとおりである。

 従って,審決における「(2)本件補正後の段落【0006】,【0014】及び【0015】」(審決7〜8頁)が適法な補正(平成22年3月2日付け)の結果である原告の主張する適法な明細書の内容である。

 

イ 「2.本件補正の適否」の「ア.の補正事項」について

 原告が主張する取消事由1及び2は,上述したとおり,いずれも理由がある。また,訴状及び後述する「ウ」のとおり,「イ.の補正事項」は特許法の規定に適合する。従って,「ア.の補正事項」及び「イ.の補正事項」を含む平成22年3月2日付けの手続補正(甲第27号証)を却下することは,特許法に違反した違法な手続である。

 

ウ 「2.本件補正の適否」の「イ.の補正事項」について

(ア)新規事項の追加について

 審決が,「イ.の補正事項」を,『超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)の超伝導コイルを流れる永久電流に「(輸送電流)」との記載を付加して,永久電流を,輸送電流に限定して,渦電流を除外することにより,特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)」についての概念を変更するものである。』(審決9頁25〜29行)と認定したのが誤りであるのは,訴状の『(イ) 「イ.の補正事項」』(訴状の11〜13頁)及びこの準備書面で述べるとおりである。

 願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)では,「輸送電流」については,「永久電流が,渦電流を除外した輸送電流のみを意味すること」を当然の前提として記載されているとともに,当業者にとり自明な事項でもあることは,『(イ) 「イ.の補正事項」』(訴状の11〜14頁)及び「(1)超伝導磁石の基本的理解とマイスナー効果」(甲第26号証である審判時第2回意見書の2〜4頁・訴状の22〜27頁)及びこの準備書面で述べるとおりである。

 従って,「イ.の補正事項」が,願書に最初に添付した明細書等(甲第10号証)に記載した事項の範囲内においてなされたものではないと判断した審決は誤りであり,取り消されるべきである。

 審決は,『超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)において輸送電流を用いること自体は,良く知られている』(審決12頁6行)ことを認めたが,それに留まらず,「外部電源から電流が流されること」(審決12頁12行),すなわち外部電源から輸送電流を流して磁場を発生させることが超伝導磁石の本来の利用法であり,そのことが超伝導磁石を扱う者にとって基礎中の基礎的事項,常識的知識であるのは,訴状(13頁7〜16行)及びこの準備書面で述べるとおりである。

 従って,「超伝導磁石5が,外部電源を有する超伝導電磁石であって,所望により輸送電流を流すような構成を意図していたことが,当業者に自明であるとは認められない」(審決12頁17〜19行)という審決の判断は誤りである。すなわち,願書に最初に添付した明細書等(甲第10号証)に記載した事項の範囲内においてなされたものではないとして,「イ.の補正事項」が新たな技術的事項を導入するものとした判断は誤りであり,審決は取り消されるべきである。

 以上,要するに,被告の主張は,外部電源から電流を流すことは新規事項の追加にあたるというものである。しかし,外部電源から輸送電流を流して磁場を発生させることが超伝導磁石の本来の利用法であり,そのことは超伝導磁石を扱う者にとって基礎中の基礎的事項,常識的知識であり,自明なのである。

 超伝導磁石を機能させて利用する方法を「応用超電導」(甲第8号証)の3〜4頁が説明している。それは,大要を述べると,外部電源を超伝導コイルに接続させて電流を流し,その電流を永久電流として超伝導コイルを周回させるようにした後,外部電源を切り離すというものである。これが超伝導磁石の本来の利用法であり,冒頭で説明していることからも分かるように超伝導磁石を扱う者にとって基礎中の基礎的事項,常識的知識である。

 であるから,超伝導磁石の磁場を利用する場合,外部電源から電流を流すことは当業者にとり自明な事項なのである。

 本件発明は,超伝導磁石を不可欠の構成要素とし,超伝導現象を原理として利用する。本件出願における当業者とは,超伝導現象と超伝導磁石に関する通常の知識を有する者であると解される。であるならば,超伝導磁石を機能させる方法は常識的知識であるから,当業者は当然,理解しているはずである。

 また,本願発明が,超伝導磁石の磁場を利用して推進力を得る発明であることは明細書等の記載から自明である。従って,本願においても,外部電源から電流を流すことは当業者にとり自明な事項である。

 

(イ)超伝導磁石概念について

 外部電源から輸送電流を流して磁場を発生させることが超伝導磁石の本来の利用法であることは,超伝導磁石の概念からも自明である。『第2版 科学大辞典』(甲第6号証)及び『物理学辞典 三訂版』(甲第7号証)によれば,超伝導磁石は,超伝導体を用いた電磁石なのである。

 そして,電磁石とは,通常,磁性材料の芯のまわりに,コイルを巻き,通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石である。『物理学辞典 三訂版』によれば,「電磁石」とは,「強磁性体で構成される鉄芯(継鉄,ヨーク)のまわりに巻いたコイル導体に電流を流すことによって鉄芯を磁化し,外部に磁場を発生させる装置」である。『第2版 科学大辞典』が述べているように「電磁石」の本質は,「外部から電流を流すことにより磁界を発生させる装置」であることに存する。電磁石の本質的利用法はその磁石としての磁場を利用することにあるからである。

 電磁石においては,外部電源から電流を流してコイルを周回させ磁場を発生させることが本来の利用法であり,電磁石を扱う者にとって基礎中の基礎的事項,常識的知識である。超伝導磁石においては,外部電源から電流を流して超伝導コイルを周回させて磁場を発生させることが本来の利用法であり,超伝導磁石を扱う者にとって基礎中の基礎的事項,常識的知識である。以上の比較から分かるように,超伝導磁石と電磁石は,電磁石の本質および利用法を共有する。この共通性から,明らかに,超伝導磁石は,超伝導体を用いた電磁石であるとともに,すべての超伝導磁石は超伝導電磁石でもあるのである。

 確かに,超伝導磁石は,通常の電磁石とは違い,磁性材料の芯は無いとともに,一時的にではなく超伝導現象を利用して永久的に磁力を発生させることもできる。また,通常の電磁石とは違い,磁石として機能させる状態では外部電源が切り離されている。しかし,上述のように超伝導磁石と電磁石は本質とその利用法を共有するので,超伝導磁石は電磁石の一種であるとともにすべての超伝導磁石は超伝導電磁石なのである。

 

 被告は,原告が「図示されている超伝導磁石が,外部電源を有していないことを認めている。」(被告側第1回準備書面13頁6〜7行)こと及び「電磁石が外部電源を有することを認めている。」(被告側第1回準備書面13頁10行)ことから,「外部電源を有しないコイルを有する超伝導磁石も,超伝導電磁石とはいえない。」(被告側第1回準備書面13頁12〜13行)と主張している。これは,外部電源を有しない,すなわち外部電源から切り離されて電磁石として機能している本願発明の超伝導磁石が,超伝導電磁石とは言えないという主張である。この主張は,上述のように,すべての超伝導磁石は当然に,超伝導電磁石であるから,非常識であり、理由が無い。

 被告は,原告が「図示されている超伝導磁石が,外部電源を有していないことを認めている。」(被告側第1回準備書面13頁6〜7行)ことを指摘するが,原告の主張は,超伝導磁石の外部電源の直接の記載は無いが,外部電源を利用して輸送電流を周回させることは,超伝導磁石を利用する以上,当然の前提であり自明であるというものである。

 被告は,原告が「電磁石が外部電源を有することを認めている。」(被告側第1回準備書面13頁10行)ことを指摘するが,外部電源を切り離すか否かは,電磁石としての利用及び機能において本質的なことではないのである。

 

(ウ)輸送電流概念について

 被告は,『甲第1号証における「蓄電池のようなある外部電源から超伝導体に流される電流(これらを輸送電流という)」(23頁4〜6行)の記載は,「輸送電流」なる用語の内容を定義している』と言う(被告側第1回準備書面13頁15〜17行)。しかし,甲第1号証(205頁7行)の「輸送電流とは試料にそって流れる電流である」も明らかに定義である。この二つが一見,相反するような表現となっている理由は,その記載の位置からして「流される電流」(23頁4〜6行)という表現が第1種超伝導体を念頭に置いたものであるのに対して,「試料にそって流れる電流」(205頁7行)という定義は,その記載の位置からして第2種超伝導体を念頭に置いたものであるからである。すなわち第1種超伝導体においては外部から流された電流を一時的に通過させるのに対して,第2種超伝導体は超伝導磁石の超伝導コイルの材料として利用し輸送電流を周回させることが予定されているからである。第1種超伝導体では一時的に通過させるので「流される電流」と表現され,第2種超伝導体では周回させるので「試料にそって流れる電流」と表現されたのである。また,そのように表現しても,「流される電流」と「試料にそって流れる電流」という表現は矛盾しない。「流される電流」がそのまま,「試料にそって流れる電流」となるのであり,二つの電流は同一だからである。

 そして,本願発明は,第2種超伝導体を材料とする超伝導磁石を利用するものであるから,「試料にそって流れる電流」という定義を採用するべきである。

 

(エ)ウのまとめ

 被告は,「超伝導磁石の超伝導コイルを流れる永久電流が輸送電流であるとすると,超伝導磁石が外部電源を有する超伝導電磁石であると認められ,超伝導電磁石であるならば,外部電源から所望により輸送電流を流すことが可能な構成を意味することとなる。」(被告側第1回準備書面13頁19〜22行)と主張する。確かに,超伝導磁石の超伝導コイルを流れる永久電流が輸送電流であるともに,超伝導磁石は外部電源を利用して輸送電流を周回させる電磁石である。しかし,外部電源から輸送電流を流すことは,超伝導磁石の本来の利用法であり,超伝導磁石を扱う者にとって基礎中の基礎的事項,常識的知識であり自明なのである。

 したがって,「イ.の補正事項」は,訴状に記載したとおり,新たな技術的事項を導入するものではなく,被告の主張は理由が無い。

 

エ まとめ

 以上のとおりであるから,審決における「第3.平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の違法を主張する原告の取消事由3は理由があり,審決は取り消されるべきである。

 なお,「第3.平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.むすび」に記載された,平成18年法律55号改正附則3条1項は,本件には関係がない。平成18年法律第55号による特許法第17条の2の改正は,本件とは関係がない。発明の単一性の要件に係わる「技術的特徴の異なる別発明への補正の禁止」と「分割制度の濫用防止」に関するものだからである。

 

4 取消事由4(理由「第4.本願について」)に関して

(1)被告の主張

被告は,

ア 「1.本願発明」について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がない。請求項1に記載の「永久電流」なる発明特定事項を解釈するにあたり,発明の詳細な説明を参酌することは当然であり,本願発明は,補正却下の決定により,当該「永久電流」が「輸送電流」に限定されないものとなる。

 そして,審決が認定した本願発明に誤りはなく,その点は原告も認めるとおりである。

イ 「2.最後の拒絶理由」について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がない。原告が主張の根拠とする「平成22年3月2日付け意見書」(甲第26号証)は,「永久電流」が「輸送電流」であることを前提としているのであるから,原告の主張は,その前提において失当である。

 そして,最後の拒絶理由の内容は,甲第16号証に記載されたとおりのものであり,それを認定した審決に誤りはない。

ウ 「3.当審の判断」について

(ア) (1)について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がない。

 そして,最後の拒絶理由の内容は,甲第16号証に記載されたとおりのものであり,審決は,最後の拒絶理由の中から「新規事項の追加」の拒絶理由を認定したもので誤りはない。

(イ) (2)及び(3)について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がない。

 審決は,平成21年10月19日付けでした手続補正(甲第24号証)が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)には,「反平行運動の運動量に変化」する旨の明示の記載がない(審決14頁21〜22行)こと,及び,「各超電子の散乱が,方向性を有する反平行運動の運動量に変化することは,当業者に自明な事項ではない」(審決14頁28〜29行)ことから,当該手続補正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)に記載した事項の範囲内においてしたものでない(審決14頁30〜31行)こと,すなわち,新たな技術的事項を導入するものであると判断した。

 そして,審決は,「以上のとおり,本願は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面についてした,平成21年10月19日付けの手続補正が,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。」(審決15頁2〜4行)と判断したものである。

(ウ) (4)について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がない。明細書の記載について原告が主張するところの取消事由5及び取消事由6も,後述するとおり,いずれも理由がない。

エ まとめ

 以上のとおりであるから,審決における「第4.本願について」の違法を主張する原告の取消事由4は理由がない。』(被告側第1回準備書面17〜19頁)

と主張する。

 

(2)被告の主張に対する反論

ア 「1.本願発明」について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がある。請求項1に記載の「永久電流」なる発明特定事項を解釈するにあたり,発明の詳細な説明を参酌することは当然であるが,その発明の詳細な説明に超伝導磁石の磁石としての利用法という当然の常識まで記載しなければならないものではない。また,本願発明に対する補正却下の決定は違法である。そして、補正却下が違法である場合もない場合も,当該「永久電流」は当然に「輸送電流」に限定されるものである。

 被告は「審決が認定した本願発明に誤りはなく,その点は原告も認めるとおりである。」と言うが,原告は請求項1が

「【請求項1】

超伝導磁石に対して重ね合わせるように固定したループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより,そのループに超伝導磁石の磁界による磁力を発生させる一方,その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので,ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン。」(訴状16頁6〜11行)

である点を認めたに過ぎず,明細書等を含めた本願発明に対する被告の認定及び判断は誤っていると原告は主張している。

 

イ 「2.最後の拒絶理由」について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がある。原告が主張の根拠の一つとする「平成22年3月2日付け意見書」(甲第26号証)は,「永久電流」が「輸送電流」であることの根拠を述べたものである。この主張は正当であり,「原告の主張は,その前提において失当である。」という被告の主張は理由が無い。

 そして,原告の主張を容れずに最後の拒絶理由(甲第16号証)を認定した審決は,訴状及びこの準備書面で述べるように,その手続・認定・判断が誤りであり,取り消されるべきである。

 

ウ 「3.当審の判断」について

(ア) (1)について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がある。

 そして,審決は,最後の拒絶理由(甲第16号証)の中から「新規事項の追加」の拒絶理由等を認定しているが,それは訴状及びこの準備書面で述べるように誤りである。

 

(イ) (2)及び(3)について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がある。

 確かに,「反平行運動の運動量に変化」する旨の明示の記載は,願書に最初に添付した明細書等(甲第10号証)には無い。しかし,「反平行運動の運動量に変化」する旨の記載が明細書の内容になったのは,被告が平成21年10月19日付け手続補正(甲第24号証)の当該内容を適法として許可したからである。被告は明示の記載もなく自明な事項でもないと主張するが,被告によれば明示の記載もなく自明な事項でもない事項の補正を被告は許可し,それにより明細書の記載内容となったのである。そして,その後,被告の指摘に従い,原告が平成22年3月2日付け手続補正(甲第27号証)で,被告によれば明示の記載もなく自明な事項でもない事項である「反平行運動の運動量に変化」する旨の記載を削除する補正を申し出たのに,被告は原告の意思を無視し,補正を認めなかったからである。そのことが違法であり,「反平行運動の運動量に変化」する旨の記載に基づいて,特許法第17条の2違反を主張することが許されないことは,訴状及びこの準備書面の取消事由2に関する部分で主張するとおりである。

 加えて,特許法第17条の2第3項違反を解消するために,付加された「反平行運動の運動量に変化し,その」との記載を削除すれば,元の「各超電子の散乱を通じて」の記載に戻ることとなるが,その場合も同法第36条4項1号の規定に適合する。このことは,訴状の「(4) 取消事由4」の「ウ」の「(イ) (2)について」(訴状の17〜19頁)において主張するとおりである。

 

(ウ) (4)について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がある。加えて,原告が主張する取消事由5及び取消事由6も,後述するとおり,いずれも理由がある。

 

エ まとめ

 以上のとおりであるから,審決における「第4.本願について」の違法を主張する原告の取消事由4は理由があり,審決は取り消されるべきである。

 

5 取消事由5(理由「第2.最後の拒絶理由」)に関して

(1)被告の主張

被告は,

ア 「理由1」について

 原告が主張する取消事由2及び3は,上述したとおり,いずれも理由がない。

 そして,最後の拒絶理由の内容は,甲第16号証に記載されたとおりのものであり,それを認定した審決に誤りはない。

イ 「理由2」について

 原告が主張の根拠とする「平成22年3月2日付け意見書」(甲第26号証)は,「永久電流」が「輸送電流」であることを前提としているのであるから,原告の主張は,その前提において失当である。そして,審決も,当該意見書において請求人(原告)が主張する内容が願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)の記載と対応が取れないことを説示している(審決12頁4〜18行)とおり,当該記載からは,永久電流が輸送電流に限定されたものと解することはできない。

 また,最後の拒絶理由の内容は,甲第16号証に記載されたとおりのものであり,それを認定した審決に誤りはない。

ウ まとめ

 以上のとおりであるから,審決における「第2.最後の拒絶理由」の違法を主張する原告の取消事由5は理由がない。』(被告側第1回準備書面19〜20頁)

と主張する。

 

(2)被告の主張に対する反論

ア 「理由1」について

 原告が主張する取消事由2及び3は,上述したとおり,いずれも理由がある。

 そして,原告の主張を容れずに最後の拒絶理由(甲第16号証)を認定した審決は,訴状及びこの準備書面で述べるように,その手続・認定・判断が誤りであり,取り消されるべきである。

 

イ 「理由2」について

 原告主張の根拠の一つである「平成22年3月2日付け意見書」(甲第26号証)は,「2.発明の詳細な説明の記載要件について」の「(1)超伝導磁石の基本的理解とマイスナー効果」において,本願発明では「永久電流」が「輸送電流」であることを当然の前提としていて,永久電流が輸送電流に限定されたものと解することができることを論証している。

 そして,当該意見書における原告主張の内容が願書に最初に添付した明細書等(甲第10号証)の記載と対応が取れないことを述べる審決の12頁5〜19行は,訴状及びこの準備書面(取消事由3・取消事由5)で述べたように誤りである。明細書等から,永久電流が輸送電流に限定されたものと解することができるのである。

 また,原告の主張を容れずに最後の拒絶理由(甲第16号証)を認定した審決は,訴状及びこの準備書面で述べるように,その手続・認定・判断が誤りであり,取り消されるべきである。

 

ウ まとめ

 以上のとおりであるから,審決における「第2.最後の拒絶理由」の違法を主張する原告の取消事由5は理由があり,審決は取り消されるべきである。

 

6 取消事由6(特許庁の態度の不当性・違法性)に関して

(1)被告の主張

被告は,

 原告が主張する取消事由1〜5は,上述したとおり,いずれも理由がない。

 原告は,明細書の記載について,「本出願に,理論面で完全な記載がない」(訴状19頁12行)ことを認めつつも,「発明を再現性をもって実施できるように記載されていれば十分であり,理論的に解明し尽くす必要はない」(訴状19頁2〜3行)と主張している。しかしながら,そもそも原告は,本願発明について,実験はしていない(第1回準備手続)と述べており,また,本願発明が再現性をもって実施できるものであることも明らかにされていないのであるから,「原告の明細書は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。」と主張するには,その実施をすることができると理解できる程度に理論的な裏付けが必要である。

 なお,原告が主張する「情報公開」は,明細書としての開示に影響を与えるものではない。

 審決における「第2.最後の拒絶理由」は,最後の拒絶理由の内容を明らかにしたものである。

 審決が,「第4.本願について」の「4.むすび」で,「また,本願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」と述べているのは,同じく「第4.本願について」の「3.当審の判断」で,「(4)また,上記のとおり,平成22年3月2日付けの手続補正が却下された以上,上記理由2のとおり,本願発明についての発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」とした記載を受けたものである。

 審決が,「超伝導電磁エンジン詳説」(甲第9号証)を出願人の著作と推定されるとしたのは,当審において,出願人の著作であることが確認できないからであり,出願人の著作であることまで否定したものではない。

 審決が,「平成18年法律第55号」について説示しているのは,上記「3取消事由3(理由「第3 .平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」)に対して」の「エまとめ」のなお書きに記載したとおり,平成18年法律第55号改正附則3条1項の規定によるものである。

 電話連絡については,上記「1取消事由1(補正却下手続の違法と理由「第5.付言」)に対して」のなお書きに記載したとおり,確認的に連絡したにすぎないものである。

 審判長が交代したのは,前任の審判長が審判官の官職を有しないこととなったことによるものである。

 以上のとおりであるから,特許庁の態度の不当性・違法性を主張する原告の取消事由6は理由がない。』(被告側第1回準備書面22〜23頁)

と主張する。

 

(2)被告の主張に対する反論

 原告が主張する取消事由1〜5は,上述したとおり,すべて理由がある。

 本願発明は,原告独創の発想を元にして,物理と超伝導の基本原則に則りつつ,思考実験を重ね合理的推論を行って完成させたものである。物理と超伝導の基本原則に則っていることは,本願明細書等の記載と物理と超伝導の基本的知識から,理解できる。そして,被告側第1回準備書面においては,原告の争う点については争うとするだけで,本願発明の依拠する理論についての理論的反論は全く無い。加えて,審決及び被告側第1回準備書面の依拠する理由が特許法第17条の2及び第36条違反であることは,審決及び被告側第1回準備書面の記載から明らかである。

 また,本願発明の明細書には,目的・構成・作用・効果が十分詳細かつ明確に書かれているとともに,本願発明が使用する要素技術が確立されたものばかりであって実施可能要件を満たすことは,平成22年3月2日付け審判時第2回意見書(甲第26号証)の「2.発明の詳細な説明の記載要件について」の「(4)実施可能要件」(8〜10頁)及び当該箇所を引用して再主張する訴状(33〜36頁)とこの準備書面のとおりである。

 物理と超伝導の基本原則に則っていることが理解できるのだから,本願発明が物理と超伝導の基本原則に従ってその素晴らしい作用・効果を反復して再現可能であることが理解できる。そして,本願発明が使用する要素技術が確立されたものばかりであることから,現実の装置を製造してその素晴らしい作用・効果を反復して再現可能であることも理解できる。

 従って,本願発明が再現性をもって実施できるものであることは明らかにされている。また,物理と超伝導の基本原則に則っていることが本願明細書等の記載と物理と超伝導の基本的知識から理解できるのだから,その実施をすることができると理解できる程度に理論的な裏付けがある。

 

 被告は,原告が「本願発明について,実験はしていない(第1回準備手続)と述べて」いることを指摘する。原告は,思考実験は重ねて何度も行ったが,自分で実際の実験を行ったと今までに一度たりとも述べたことはない。原告が独創の発想に基づいた理論に従って超伝導電磁エンジンの基本概念を完成させたが,費用等の面から実際の実験を行えないので,発明出願の新規性及び進歩性を確保した上で,基本概念等を公開して,他人に実験を行ってもらい,その他人と超伝導電磁エンジンの特許権から得られる利益を共有したいというのが原告の方針である。

 訴状で「本願発明が機能するかどうかについて,実験による公式の報告がなされていない」(38頁11〜12行)と述べたのは,公式ではなく,非公式に本願発明のプロトタイプの報告があったからである。それは,ストレンジクラフトあるいはドローンズと呼ばれ,本願の出願があったほぼ一年後の平成19年前半にアメリカ合衆国に出現した。このストレンジクラフトは,その出現の時期,形状,特徴などから超伝導電磁エンジン1台を船体とする飛翔体と考えられることは,平成21年1月2日から超伝導電磁エンジンのホームページ上で公開している「ストレンジクラフトあるいはドローンズについて」という文書で述べているとおりである。これと同内容の文書を甲第29号証として提出する。また,インターネットからダウンロードして入手したストレンジクラフトの写真画像データをプリント会社に依頼して印刷してもらった写真を甲第30号証として提出する。この写真は,平成19年12月6日に,本件発明に関する理解を深めてもらうために,審査官と面接した際に提示して受領を求めたが,手続が面倒だと言われて受領されなかったものと同じである。

 

 被告は,『原告が主張する「情報公開」は,明細書としての開示に影響を与えるものではない。』と言うが,特許法第36条を解釈・適用するに当たって斟酌すべき事情であると考える。被告は斟酌しないようだが、裁判所におかれては、第36条の立法趣旨に反する意図が無いことを示す「情報公開」を斟酌して、本件事案に特許法第36条を解釈・適用されることを望む。

また,原告出願の明細書の枚数は甲第10号証が示すようなものとなったが,特許法第36条の立法趣旨に反する意図は全く無かったことも付言する。当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていることを確保した上で,出費を抑えるためであった。事情により、当時は、原告は電子出願ではなく,紙の文書で出願することとなったが,紙の文書で出願すると,電子化手数料というものを納めなければならない。この電子化手数料は,基本料金の1200円に加えて一枚毎に700円が追加されるという高いものなので,費用を抑えるために,原告出願の枚数が,甲第10号証が示すようなものとなったのである。

 なお,被告側第1回準備書面の「(1)原告の主張」において補正制度の趣旨(取消事由3)及び実施可能要件の制度趣旨(取消事由6)に関する原告の主張が抜けていることを指摘したい。原告の主張は,これらの制度趣旨に従ったものである。

 

 被告は,『審決における「第2.最後の拒絶理由」は,最後の拒絶理由の内容を明らかにしたものである』と言うが,理由の第2であるのに,最後の拒絶理由の内容を引用するだけで,その内容を理由として争う旨の明示の文言が「第2.最後の拒絶理由」内に無いのである。

 被告は,審決の理由「第4.本願について」の「3.当審の判断」の「(2)上記(1)の理由について検討する。」と述べている部分は,『「3.当審の判断」で,「(4)また,上記のとおり,平成22年3月2日付けの手続補正が却下された以上,上記理由2のとおり,本願発明についての発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」とした記載を受けたもの』と言う。しかし,この記載は、「上記理由2のとおり」と言うように、上記理由2「最後の拒絶理由」について述べたものであって,理由「3.当審の判断」の「(2)上記(1)の理由について検討する。」と述べている部分について述べたものとは受け取れない。

 

 被告は,審決が,『「超伝導電磁エンジン詳説」(甲第9号証)を出願人の著作と推定されるとしたのは,当審において,出願人の著作であることが確認できないから』と主張する。しかし,確認できたのである。特許出願の発明者兼出願人が当該発明の内容を説明した文書を当人の著作物として提出した場合,当該著作物に当人の著作であることを怪しませる点や他に著作権を主張する者がいる等の特段の事情が存在しない限り,提出者の著作と確認できたとすべきなのである。そして,「超伝導電磁エンジン詳説」には,そのような特段の事情は存在しない。従って,被告は確認できたのである。

 

 被告は審決が『「平成18年法律第55号」について説示しているのは,上記「3取消事由3(理由「第3 .平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」)に対して」の「エまとめ」のなお書きに記載したとおり,平成18年法律第55号改正附則3条1項の規定によるものである。』と言うが,平成18年法律第55号による特許法第17条の2の改正は,発明の単一性の要件に係わる「技術的特徴の異なる別発明への補正の禁止」と「分割制度の濫用防止」に関するものであり,本件には関係が無い。

 

 なお,平成22年4月23日の電話連絡によって勧められた「分割出願」であるが,そのまま出訴するよりも,「分割出願」した方がよいという理由が今もって原告には分からない。

 また,被告は,『電話連絡については,上記「1取消事由1(補正却下手続の違法と理由「第5.付言」)に対して」のなお書きに記載したとおり,確認的に連絡したにすぎない』と言うが,確認の時期を失している。分割出願可能なのは補正期間内であり(特許法第44条1項1号),それは本件においては,平成22年2月23日付け最後の拒絶理由通知書(甲第16号証)の示すとおり,その発送日から60日間以内だからである。

 

 結審間近なのに「審判長が交代したのは,前任の審判長が審判官の官職を有しないこととなったことによるもの」とは,審判長から審査長に降格したのである。甲第31号証として、平成22年78日に特許庁ホームページからダウンロードした特許庁幹部名簿を印刷した文書を提出する。

 

 さらに,被告は,取消事由1で述べたように原告の防御権を奪うとともに,取消事由2で述べたように補正したいという原告の適法な意思表示を無視した。以上から分かるように,被告は原告,ひいては国民の権利と意思を軽んじ,権利を奪っている(憲法第13条・第31条・第32条違反)。真正な発明を適法に出願したものであり,特許権を付与すべきものであるのに,葬り去ろうと躍起になっている。原告に立法趣旨に反する意図が無く,明細書等の記載も明確かつ十分であるにもかかわらず,特許法第36条違反及び第17条の2違反を無理矢理仕立て上げようとする。不当な差別としか思えない。このような態度は,原告の政治的活動に起因すると考えられ,違法かつ不当である(憲法第14条・第21条違反)。

 以上のとおりであるから,特許庁の態度の不当性・違法性を主張する原告の取消事由6は理由があり,審決は取り消されるべきである。

 

 

第3 まとめ

 以上のとおり,審決は,補正却下の決定に手続及び認定・判断の誤りがあって違法であるとともに,本願に対する特許法第17条の2第3項及び同法36条4項1号の要件違反の判断にも誤りがある。また,以上で述べてきたように,審決及び被告側第1回準備書面における被告の理由は,成り立たない。本願には,そもそも特許法違反の点はなく,原告が主張する取消事由1〜6はすべて理由がある。

 仮に補正却下の決定が適法だとしても,被告が「反平行運動」に関して特許法第17条の2違反若しくは同法第36条違反の主張をすることは信義誠実の原則に反するので許されないし(訴状17頁),他の点を見ても同法第36条違反は無いので,本願には特許法違反の点は無い。

 本件発明の出願は,真正な発明を適法に出願したものであり,特許権を付与すべきものである。これに対し手続及び認定・判断を過った審決は取り消されるべきである。よって,訴状の請求の趣旨記載の通りの判決を求める。

 

以上






★特許庁の準備書面提出 2010年10月25日付


被告準備書面 2010年10月25日(平22.10.25)付

平成22(行ケ)10228号審決取消請求事件

原告 久保田英文

被告 特許庁長官 岩井良行

 

準備書面(1)

平成221025

 

知的財産高等裁判所第2部御中

 

被告指定代理人 志水裕司

被告指定代理人 吉水純子

 

頭書事件について,被告は,次のとおり弁論を準備する。

 


第1 訴状に対する認否

1 訴状中の請求の原因「1特許庁における手続の経緯」については,以下のとおりである。

1)特許庁から送達した各書面に対して「付け」を付した日付である,「平成19116日」,「平成2041日」,「平成21106日」,「平成211027日」,「平成22223日」,「平成2261日」及び「平成22625日」,それぞれが,発送日であれば認めるが,それ以外であれば否認する。

2)1回目の拒絶理由通知書」と記載した回数並びに「適法として許可され」は否認もしくは争う。「1回目の拒絶理由通知書」と記載した「拒絶理由通知書」の回数としては,2回目であるが(1回目は審査段階のもの),いわゆる「最初の拒絶理由通知書」である。そして,「最後の拒絶理由通知書」は,「平成211019日付けの補正」が特許法の規定に適合しないことを通知する内容を含むものである。

3)上記1)及び2)以外は認める。

2 訴状中の請求の原因「2」の「審決の理由は,審決謄本記載のとおりであるが,」は認めるが,「審判の手続及び審決の認定判断には誤りがあり,審決は違法として取り消されるべきである。」については,争う。

3 訴状中の請求の原因「3審決の理由に対する認否」については,以下のとおりである。

1)(1)」の「ア」及び「ウ」については,認める。

2)(1)」の「イ」については,「適法に許可された補正(平成211019日付け)」以外は認める。「最後の拒絶理由通知書」は,「補正(平成211019日付け)」が特許法の規定に適合しないことを通知する内容を含むものである。

3)(1)」の「エ」については,不知である。

 

 


4)(1)」の「オ」については,「対外的関係においては,送達日を用いるべきである。」以外は認める。

5)(2)」ないし「(4)」については,原告が争うとしている点は争う。

6)(5)」については,「最後の拒絶理由通知書に応じた補正が却下されることについて,法定の防御の機会が与えられていない。」は否認し,それ以外は認める。「最後の拒絶理由通知書に応じた補正が却下されることについて,」防御の機会を与えることは,法令によって定められていない。

4 訴状中の請求の原因「4原告の主張」については,原告が争うとしている点は争う。

2 被告は,訴状における審決の取消事由に対して,次のとおり反論する。

1 取消事由1(補正却下手続の違法と理由「第5 .付言」)に対して

(1)原告の主張

 原告は,『特許法第533項が1項の決定に対して不服申し立てができないとした趣旨は,不服申し立てができるとするとその間「審査」が中止され,迅速な権利付与が図られないからである。しかし,審決取消訴訟の前審である拒絶査定不服審判手続においては,慎重な審理が行われるべきであり,その趣旨は妥当しない。しかも,3項但し書きにおいては,「拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においてはこの限りでない」と明記している。また,公権力が処分を行う場合,処分を受ける個人は,適正な手続的処遇を受ける権利を有する(憲法第13条・憲法第31)。よって,特許法第159条が特許法第53条を準用する審判の場合においては,53条第1項の決定に対して,不服を申し立てることができると解すべきである。

 従って,原告は特許法第531項・17条の23項による補正却下の決定に対して,拒絶査定不服審判においては行政不服審査法に基づく不服を申し立てることができた。であるならば,不服申し立ての機会を保障するために,審決よりも前に,拒絶査定不服審判の原告に通知がなされなければな

らないのは当然である。また,その通知の中で行政不服審査法第57条による教示が行われなければならないのに,為されなかった。

 原告にとり,防御の機会が確保される必要があることは,理由「第5.付言」において,被告の認めるところでもある。』(訴状7319)と主張する。

 

(2)原告の主張に対する反論

ア 特許法53条3項但し書きにおいて,「拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においてはこの限りでない」と規定しているのは,審査における同条1項の規定による却下の決定に対して,拒絶査定に対する拒絶査定不服審判を請求した場合に,それとともに補正却下の不服を申し立てることができる旨を規定したものである。同項但し書きが,「拒絶査定不服審判においてはこの限りでない」と規定していないことから,審判においてなされた補正却下の決定に対する不服申立ての規定ではない。

 そして,審決における補正却下の決定に対して,不服を申し立てることができないとしても,審判請求人は,この補正却下の決定に対して,審決に対する審決取消訴訟において,争うことができるのであるから,不合理はない。

 審決は,「平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。」(審決12頁24〜27行)として,「平成22年3月2日付けの手続補正を却下する。」(審決6頁22行)ものであり,同法159条1項の規定により,同法53条の規定を,拒絶査定不服審判に準用する場合において,同法17条の2第3項の規定に違反するとして,補正却下の決定をしたものである。

 したがって,同法53条3項に規定するとおり,審判において,不服を


申し立てることができない。

イ さらに,審判において拒絶理由が2回通知されていることから,慎重な審理が行われたのであり,審判における補正却下の決定に対して不服を申し立てる機会が無いことは,上述したとおり,特許法に則した適正な手続であるから,審判における手続に瑕疵はない。

 なお,審決の「第5.付言」は,「電話による応対」が,審判において補正却下された場合には,出訴による以外は「法定の防御の機会」が無いので,審判請求人(原告)は「分割出願」することによって審(ママ)手続における「防御の機会」を確保することができることを,確認的に連絡したにすぎないことを述べたまでである。

ウ 以上のとおりであるから,審決において補正却下の決定をした手続に誤りはないから,原告が主張する取消事由1は理由がない。

 

2 取消事由2(審判手続の手続的違法)に対して

(1)原告の主張

 原告は,『「手続補正7の一部」を違法とする被告の主張に従って補正書を提出して(平成2232日付け),手続補正2により適法性を確保しようとした。なのに,被告は,補正を決定により却下するとともに,特許法第17条の23項違反を理由の一つとする拒絶審決を下した。かかる態度は,信義誠実の原則に反する。

 信義誠実の原則は,私法関係ならず,公法関係も規律する法の一般原則であることは,通説・判例(最高裁昭和56127日第三小法廷判決・民集35135)である。よって,本件においても,信義誠実の原則の適用がある。

 被告の矛盾した態度は,信義誠実の原則及び手続的正義に反する。被告の主張によれば,手続補正2には,被告の主張する新たな違法部分(「輸送電

 

 


流」の追加)と特許法第17条の23項違反を解消するための部分がある。被告としては,この二つを分けて考えて,特許法第17条の23項違反を解消するための部分のみを内容とする補正書を提出する機会を原告に与えるべきであった。しかしながら,その機会は与えられず,補正却下の決定を含む審決が下された。被告は,出願時の記載に戻って違法状態を解消することを不可能にした。特許法第17条の23項違反を解消する補正をできないようにしておきながら,特許法第17条の23項違反を主張することは,信義誠実の原則及び手続的正義に反し,許されない。合法性を確保しなければならない行政庁である被告は,違法状態を解消する方向に動くべきであり,違法状態を維持する方向に手を貸すべきではないのである。公権力が処分を行う場合,処分を受ける個人は,適正な手続的処遇を受ける権利を有する(憲法第13条・憲法第31)のに,適正な手続が行われなかった。』(訴状818行〜916)と主張する。

 

(2)原告の主張に対する反論

 

 原告の主張は,「手続補正2」のうち,「特許法第17条の2第3項違反を解消するための部分」については,適法であり,違法状態を解消できることを前提としている。

 審決の「第4.本願について」の「3.当審の判断」の「(2)」において検討したとおり,原告の主張する「特許法第17条の2第3項違反を解消するための部分」は,そもそも平成21年10月1日付けの拒絶理由(甲第14号証)に対応して,平成21年10月19日付けの手続補正(甲第24号証)において,「各超電子の散乱を通じて」を「各超電子の反平行運動の運動量に変化し,その散乱を通じて」に補正(下線部の記載を付加)して,新たな技術的事項を導入したものを,更に平成22年3月2日付けの手続補正(甲第27号証)において,当該下線部の記載を削除することにより,

解消しようとするものである。

 仮に,特許法第17条の2第3項違反を解消するために,付加された「反平行運動の運動量に変化し,その」との記載を削除すれば,元の「各超電子の散乱を通じて」の記載に戻ることとなり,結局のところ,平成21年10月1日付けの拒絶理由(甲第14号証)で指摘したとおり,同法第36条4項1号の規定に適合しないこととなる。

 したがって,原告が主張する「特許法第17条の2第3項違反を解消するための部分のみを内容とする補正書を提出する機会を原告に与える」ことにより,違法状態を解消することはできない。

 以上のとおり,原告の主張はその前提において失当であるから,審判手続の手続的違法を主張する原告の取消事由2は理由がない。

 

3 取消事由3(理由「第3.平成2232日付けの手続補正についての補正却下の決定」)に対して

(1)原告の主張

ア「1.本件補正の内容」について

 原告は,『「(1)本件補正前の段落【0006,0014】及び【OO15】」】は,被告の主張する違法な明細書の内容である。平成2232日付け補正は適法であるので,争う。

(2)本件補正後の段落【0006,0014】及び【0015】」が適法な補正(平成223.2日付け)の結果である原告の主張する適法な明細書の内容である。』(訴状1058)と主張する。

イ「2.本件補正の適否」の「ア.の補正事項」について

 原告は,『取消事由2で主張するように信義誠実の原則により,被告が「ア.の補正事項」の違法を主張することは許されない。

取消事由1で主張するように.平成2232日付け手続補正について

の補正却下の決定は,原告の防御の機会を奪った違法な手続によるものである。加えて,()で述べるように「イ.の補正事項」も適法である。したがって,平成2232日付けの手続補正は適法であり,特許法第17条の23項違反を解消するための「ア.の補正事項」を却下する理由は何も無い。

 予備的主張を行う。たとえ,「イ.の補正事項」が違法だとしても,取消事由2で述べたように,手続補正2(平成2232日付け)中の「ア.の補正事項」及び「イ.の補正事項」の一部を一体として取り扱う事は手続的正義に反し違法である。』(訴状101120)と主張する。

ウ「2.本件補正の適否」の「イ.の補正事項」について

 原告は,『「イ.の補正事項」は,最後の拒絶理由通知書(平成22223日付け)の渦電流に関する疑問に答えて,本件発明の「永久電流」が発明の構成上,当然に「輸送電流」であることを釈明するためのものである。概念の大きさからすれば,「永久電流」概念の限定的減縮でもあるが,「超伝導磁石」概念の本来の意味に沿ったものであることを説明するに過ぎない。被告は,「『超電導磁石』についての概念を変更するものである。」と主張するが,超伝導磁石概念の変更では全くない。

 超伝導磁石は,超伝導電磁石とも言うように,超伝導体を用いた電磁石である。「第2版科学大事典」(財団法人国際科学振興財団編,丸善株式会社刊)によれば,「超伝導磁石」とは,「超伝導線を用いてつくった電磁石」である。「物理学辞典三訂版」(物理学辞典編集委員会編,株式会社培風館刊)によれば,「超伝導磁石」とは,「超伝導線材でコイルを作り,普通の電磁石と同様な機能をもつようにしたもの」である。

 そして,電磁石とは,通常,磁性材料の芯のまわりに,コイルを巻き,通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石である。「第2版科学大事典」によれば,「電磁石」とは,「外部から電流を流すことにより磁界

 

を発生させる装置」である。「物理学辞典三訂版」によれば,「電磁石」とは,「強磁性体で構成される鉄芯(継鉄,ヨーク)のまわりに巻いたコイル導体に電流を流すことによって鉄芯を磁化し,外部に磁場を発生させる装置」である。

 以上からわかるように,超伝導磁石は,電磁石の一種である。そして,電磁石は,コイルに「電流」を流すことによって機能する。この電流が輸送電流に他ならない。超伝導磁石概念において,「電流」(輸送電流)を流すことは不可欠であり,その本質的要素である。超伝導磁石を磁石として機能させる方法は,「電流」(輸送電流)を流すことだからである。磁場を作るのは電磁石を流れる電流であり,それは超伝導磁石の場合,輸送電流に他ならない。

 被告は,「輸送電流とは,外部電源から流される電流のこと」に過ぎないと主張する。しかし,輸送電流は,試料に流れている電流そのものも意味する。「超電導入門」(A.C.ローズーインネス,E.H.ロディリック著,産業図書株式会社刊)の第205ページでは,「輸送電流とは試料にそって流れる電流である」とある。また,被告の引用する第23ページにおいても,「どの輸送電流もすべて表面を流れ導体の外側に磁束を作る」とある。従って,輸送電流とは,外部電源から流されて,試料を流れる電流のことである。超伝導磁石及び本件発明の場合においては,超伝導コイルを周回する永久電流が輸送電流に該当する。

 そして,工学的に利用する超伝導磁石において,超伝導磁石を機能させる

方法は,常識である。それは外部電源から電流を流し,その電流を永久電流としてコイルを周回させると言うことである。「応用超電導」(荻原宏康編著,日刊工業新聞社刊)において,34ページで説明しているとおりである。冒頭で説明していることからも分かるように超伝導磁石を扱う者にとって基礎中の基礎的事項,常識的知識である。

 

 

 


 本件発明は,超伝導磁石を不可欠の構成要素とし,超伝導現象を原理として利用する。本件出願における当業者とは,超伝導現象と超伝導磁石に関する通常の知識を有する者であると解される。であるならば,超伝導磁石を機能させる方法は常識的知識であるから,当業者は当然,理解しているはずである。

 本件出願において,超伝導磁石に接続した外部電源の記載が無いのは,超伝導磁石が電磁石として機能している状態を描いたからである。超伝導磁石が電磁石として機能している状態では,外部電源は,切り離されているのである。

 本件発明の超伝導磁石の利用法は,超伝導磁石の電磁石としての磁場を利用するものである。

本件発明の超伝導磁石の利用法については,平成21106日付けの拒絶理由通知書の疑問に対して,平成211019日付けの意見書の「新主張3.について」で原告が答えている。それを最後の拒絶理由通知書(平成222.23日付け)で被告は受け入れている。その内容は,本件発明の構成要素である常伝導磁石と超伝導磁石を重ね合わせて,その間の磁力,反発力もしくは吸引力を利用するということである。本件発明が磁力を利用するものであることはその構成からして明白なのである。すなわち,本件発明は,超伝導磁石の電磁石としての磁場を利用して推進力(磁力)を得るものである。

 本件発明は,常伝導磁石に働く磁力を推進力として利用するのである。その磁力(反発力もしくは吸引力)が生じるのは,超伝導磁石の磁場が存在するからである。本件発明が超伝導磁石の磁場を利用するものであることは明らかである。そして,その磁場の源である「永久電流」が常伝導磁石の磁場によって電磁力を受け,その電磁力が磁力に変化しないように工夫したのが本件発明である。

 

 

 


 この場合の「永久電流」が輸送電流を指す.ことは自明である。なぜならば,この「永久電流」は,電磁石として機能する時の磁場の源である。超伝導磁石の強大な磁場を作っているのは,輸送電流だからである。

 従って,超伝導磁石概念からしても本件発明の構成からしても本件発明の「永久電流」が輸送電流を指すことは自明である。そのことは,明細書に記述してある私の装置の目的や説明の趣旨から当然,当業者が理解できることである。明細書に明確な記述もある。「超伝導磁石の強い磁界を作る永久電沸の流れる方向」(段落0014)という記述である。ここで取り上げている「超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流」とは,輸送電流に他ならない。

また,「超伝導コイルを流れる永久電流」(段落0014)という記述もある。超伝導磁石の磁場を問題にするとき,「超伝導コイルを流れる永久電流」とは通常,輸送電流のことを指すのである。』(訴状1122行〜1420)と主張する。

 

(2)原告の主張に対する反論

ア 「1.本件補正の内容」について

 平成22年3月2日付けの手続補正(甲第27号証)について補正却下の決定をした審決に誤りはなく,当該決定に至る判断内容に誤りがないことは,後述するとおりである。

 審決における「第3.平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「1.本件補正の内容」は,平成22年3月2日付けの手続補正(甲第27号証)の内容を明らかにしたものである。

イ 「2.本件補正の適否」の「ア.の補正事項」について

 原告が主張する取消事由1及び2は,上述したとおり,いずれも理由がない。そして,後述する「ウ」のとおり,「イ.の補正事項」が特許法の規定に適合しないから,「ア.の補正事項」及び「イ.の補正事項」を含む平成


22年3月2日付けの手続補正(甲第27号証)を却下することは,特許法に則した適正な手続である。

ウ 「2.本件補正の適否」の「イ.の補正事項」について

 審決は,「イ.の補正事項」を,『超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)の超伝導コイルを流れる永久電流に「(輸送電流)」との記載を付加して,永久電流を,輸送電流に限定して,渦電流を除外することにより,特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)」についての概念を変更するものである。』(審決9頁25〜29行)と認定し,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)には,「輸送電流」について記載されていない(審決9頁30〜32行)こと,及び,「永久電流が,渦電流を除外した輸送電流のみを意味することは,当業者に自明な事項ではない」(審決12頁2〜3行)ことから,「イ.の補正事項」が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)に記載した事項の範囲内においてなされたものではない(審決12頁19〜20行)と判断したものである。

 そして,審決は,『超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)において輸送電流を用いること自体は,良く知られている』(審決12頁5行)ことを認めた上で,『超電導磁石(被告注:「超伝導磁石」の誤記)5には,冷却器3が接続されることが記載されているのみであって,外部電源から電流が流されることは,記載されていない』(審決12頁10〜11行)こと,及び,「超伝導磁石5が,外部電源を有する超伝導電磁石であって,所望により輸送電流を流すような構成を意図していたことが,当業者に自明であるとは認められない」(審決12頁16〜18行)ことからも,上述したとおり,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)に記載した事項の範囲内においてなされたものではないこと,すなわち,


「イ.の補正事項」が,新たな技術的事項を導入するものであると判断したものである。

 これに対して,原告は,「本件出願において,超伝導磁石に接続した外部電源の記載が無いのは,超伝導磁石が電磁石として機能している状態を描いたからである。超伝導磁石が電磁石として機能している状態では,外部電源は,切り離されているのである。」と,図示されている超伝導磁石が,外部電源を有していないことを認めている。

 そして,原告は,「電磁石とは,通常,磁性材料の芯のまわりに,コイルを巻き,通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石である。」と,電磁石が外部電源を有することを認めている。

 そうであるならば,外部電源を有しないコイルを磁性材料の芯のまわりに巻いたものは,電磁石とはいえないから,当然に,外部電源を有しないコイルを有する超伝導磁石も,超伝導電磁石とはいえない。

 また,原告が,「輸送電流」なる用語の根拠として示している甲第1号証における「蓄電池のようなある外部電源から超電導体に流される電流(これらを輸送電流という)」(23頁4〜6行)の記載は,「輸送電流」なる用語の内容を定義しているのであるから,「輸送電流」の意味内容をこのように解すべきことは,当然である。

 一方,超伝導磁石の超伝導コイルを流れる永久電流が輸送電流であるとすると,超伝導磁石が外部電源を有する超伝導電磁石であると認められ,超伝導電磁石であるならば,外部電源から所望により輸送電流を流すことが可能な構成を意味することとなる。

 したがって,「イ.の補正事項」は,審決に記載したとおり,新たな技術的事項を導入するものである。

エ まとめ

 以上のとおりであるから,審決における「第3.平成22年3月2日付け

の手続補正についての補正却下の決定」の違法を主張する原告の取消事由3は理由がない。

 なお,同じく「第3.平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.むすび」に記載した,平成18年法律55号改正附則3条1項は,同法による改正前の特許法17条の2,53条及び159条の規定が,同法の施行前にした特許出願について適用されることを規定した条文である。

4 取消事由4(理由「第4.本願について」)に対して

(1)原告の主張

ア「1.本願発明」について

 原告は,『平成2232日付け手続補正書による補正は適法な補正であり,取消事由13で述べたように補正却下の決定は手続的にも実体的にも違法である。

 また,本願発明の請求項1,平成2232日付けの手続補正書に対する却下決定に左右されずに,以下のとおりのものである。

「【請求項1.

超伝導磁石に対して重ね合わせるように固定したループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより,そのループに超伝導磁石の磁界による磁力を発生させる一方,その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので,ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン。」』(訴状16110)と主張する。

イ「2.最後の拒絶理由」について

 原告は,「平成222.23日付け最後の拒絶理由通知書に対しては平成2232日付け意見書の通りに反論する。

 

 

 本発明は,特許法第36条の規定する要件を満たすと主張する。

 加えて,平成22223日付け拒絶理由通知書及び審決において特許法第17条の23項に規定する要件を満たしていないと主張する点については,平成2232日付けの手続補正書により解消された。この補正は適法な補正であり,取消事由13で述べたように補正却下の決定は手続的にも実体的にも違法であり,取り消されるべきものである。」(訴状161421)と主張する。

ウ「3.当審の判断」について

()(1)について

 原告は,『平成211019日付けの手続補正における「反平行運動の運動量に変化」することに関わる特許法第17条の23項違反の主張は,取消事由2で述べたように,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張であり,許されない。また,当該補正は,平成2232日付け手続補正書により,補正された。平成2232日付け手続補正書を却下する決定は,取消事由3で述べたように実体的に違法である。取り消されるべきである。また,取消事由1及び取消事由2で述べたように,補正却下の決定には手続的違法もある。補正却下の決定は取り消されるべきである。』(訴状1739)と主張する。

()(2)について

 原告は,『「()(1)について」で述べたように,特許法第17

23項違反の主張は成り立たない。

 「()本願の経緯」で述べたように,「反平行運動の運動量に変化」することに関わる特許法第36条第4項第1号または第6項第2号違反の主張は最後の拒絶理由通知書により,取り下げられた。(2)における特許法第36条第4項第1号違反の主張は,それを再び蒸し返す,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張である。

 

 


 以上の主張が受け入れられない場合に備えて,ボ記のように予備的に主張する。本願発明は,特許法第36条に規定する要件を満たしている。

「何ら方向性を有する運動を生ずることなく,方向性の無い純粋な熱エネルギーとして放出される根拠が不明である。何ら方向性を有する運動を生ずることなく,方向性の無い純粋な熱エネルギーとして放出されるのであれば,当該運動量の平均が方向性を有しないこととなるのではないか。」と主張する点について。

…略…

 従って,当業者が明細書の記載に基づいて当該発明を再現性をもって実施できるように記載されていれば十分であり,理論的に解明し尽くす必要はないと考える。特許出願にかかる発明の場合は,学術論文とは異なり,理論的解明を目的とするものではないからである。具体的には,発明の目的・構成・効果が明確かつ十分に書いてあれば,当該発明を再現性をもって実施可能である。』(訴状1711行〜196)と主張する。

()(3)について

 原告は,『「反平行運動の運動量に変化」することを削除する補正を違法と主張することは,取消事由2で述べたように,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張であり,許されない。また,当該補正は,平成223.2日付け手続補正書により,補正された。平成2232日付け手続補正書を却下する決定は,取消事由3で述べたように実体的に違法である。また,取消事由1に述べたように,補正却下の決定には手続的違法もある。補正却下の決定は取り消されるべきである。』(訴状1923行〜204)と主張する。

()(4)について

 原告は,『平成211019日付けの「手続補正7の一部」に関す

 

 

る主張は,取消事由2で述べたように,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張であり,許されない。また,当該補正による特許法第17条の2違反は,平成2232日付け手続補正書により,補正された。平成2232日付け手続補正書を却下する決定は,取消事由3で述べたように実体的に違法である。補正却下の決定には,取消事由1で述べたように手続的違法もある。補正却下の決定は取り消されるべきである。

 本願は,特許法第36条に規定する要件を満たしている。

 予備的主張を行う。たとえ,平成2232日付け手続補正書を却下する決定が維持されるとしても,特許法第36条に規定する要件を満たしている。なぜなら,平成2232日付け手続補正書によるイ.の事項の補正は釈明のためのものであり,この釈明が無くても,取消事由6で述べるように,特許法第36条に規定する要件を満たしている。また,.の事項の補正も釈明のためのものであり,この釈明が無くても,特許法第36条に規定する要件を満たしている。』(訴状20618)と主張する。

 

(2)原告の主張に対する反論

ア 「1.本願発明」について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がない。請求項1に記載の「永久電流」なる発明特定事項を解釈するにあたり,発明の詳細な説明を参酌することは当然であり,本願発明は,補正却下の決定により,当該「永久電流」が「輸送電流」に限定されないものとなる。

 そして,審決が認定した本願発明に誤りはなく,その点は原告も認めるとおりである。

イ 「2.最後の拒絶理由」について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がない。


原告が主張の根拠とする「平成22年3月2日付け意見書」(甲第26号証)は,「永久電流」が「輸送電流」であることを前提としているのであるから,原告の主張は,その前提において失当である。

 そして,最後の拒絶理由の内容は,甲第16号証に記載されたとおりのものであり,それを認定した審決に誤りはない。

ウ 「3.当審の判断」について

(ア) (1)について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がない。

 そして,最後の拒絶理由の内容は,甲第16号証に記載されたとおりのものであり,審決は,最後の拒絶理由の中から「新規事項の追加」の拒絶理由を認定したもので誤りはない。

(イ) (2)及び(3)について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がない。

 審決は,平成21年10月19日付けでした手続補正(甲第24号証)が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)には,「反平行運動の運動量に変化」する旨の明示の記載がない(審決14頁21〜22行)こと,及び,「各超電子の散乱が,方向性を有する反平行運動の運動量に変化することは,当業者に自明な事項ではない」(審決14頁28〜29行)ことから,当該手続補正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)に記載した事項の範囲内においてしたものでない(審決14頁30〜31行)こと,すなわち,新たな技術的事項を導入するものであると判断した。

 そして,審決は,「以上のとおり,本願は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面についてした,平成21年10月19日付けの


手続補正が,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。」(審決15頁2〜4行)と判断したものである。

(ウ) (4)について

 原告が主張する取消事由1〜3は,上述したとおり,いずれも理由がない。明細書の記載について原告が主張するところの取消事由5及び取消事由6も,後述するとおり,いずれも理由がない。

エ まとめ

 以上のとおりであるから,審決における「第4.本願について」の違法を主張する原告の取消事由4は理由がない。

 

5 取消事由5(理由「第2.最後の拒絶理由」)に対して

(1)原告の主張

ア「理由1」について

 原告は,『「理由1」については,争う。取消事由2で述べたように,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張である。加えて,最後の拒絶理由通知書に応じての補正(平成2232日付け)が適法である。平成223.2日付け補正を却下する決定は,手続的にも実体的にも違法であり,取り消されるべきである。』(訴状21912)と主張する。

イ「理由2」について

 原告は,『「理由2」については,最後の拒絶理由通知書に応じての平成223.2日付け意見書に下記のように記載した理由により反論し,本願発明は,特許法第36条の規定する要件を満たす』(訴状211517)と主張する。

 

(2)原告の主張に対する反論

ア 「理由1」について

 

 原告が主張する取消事由2及び3は,上述したとおり,いずれも理由がない。

 そして,最後の拒絶理由の内容は,甲第16号証に記載されたとおりのものであり,それを認定した審決に誤りはない。

イ 「理由2」について

 原告が主張の根拠とする「平成22年3月2日付け意見書」(甲第26号証)は,「永久電流」が「輸送電流」であることを前提としているのであるから,原告の主張は,その前提において失当である。そして,審決も,当該意見書において請求人(原告)が主張する内容が願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第10号証)の記載と対応が取れないことを説示している(審決12頁4〜18行)とおり,当該記載からは,永久電流が輸送電流に限定されたものと解することはできない。

 また,最後の拒絶理由の内容は,甲第16号証に記載されたとおりのものであり,それを認定した審決に誤りはない。

ウ まとめ

 以上のとおりであるから,審決における「第2.最後の拒絶理由」の違法を主張する原告の取消事由5は理由がない。

 

6 取消事由6(特許庁の態度の不当性・違法性)に対して

(1)原告の主張

 原告は,『原告の明細書は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。しかも,原告は,出願の新規性及び進歩性を確保した上で,平成16620日からホームページによる情報公開を行っている。日本語(http://j.se-engine.org/)及び英語(http://se-engine.org/)のホームページによって十分な情報を公開して,原告独創の新技術である本願発明の啓蒙活動を行っている。また,

 


ホームページの内容を集大成した書籍「銀河への道」(久保田英文著,200978日ブイツーソリューション刊)を出版してもいる。

 このような原告に対して,情報公開の不十分を理由とする36条違反によって特許権を拒否することは極めて不当かつ違法である。

 しかも,審決の手続は,取消事由1および2に述べたように違法である。取消事由2及び4で述べたように信義誠実の原則及び手続的正義に反する主張を繰り返している。また,審決の理由が成り立たないことは,取消事由15で述べてきた通りである。

 審決の記載にも問題がある。

理由「第2.最後の拒絶理由

 当審において通知した平成222.15日付けの最後の拒絶理由における理由1及び理由2の内容は,以下のとおりである。」

 と単に最後の拒絶理由の内容が以下のとおりであるとの承認を求めるに過ぎないような書き方をしている。法律的知識の乏しい本人訴訟の原告ならば,「最後の拒絶理由の内容」はその通りであると迂闊にも認めてしまうことが考えられる。

 また,理由「第4.本願について」の「3.当審の判断」の「(2)上記(1)の理由について検討する。」と述べている部分は,特許法第17条の23項違反の理由を検討するように見せながら,4.むすび」で「また,本願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」と述べているように,実は,特許法第36条第4項第1号違反の主張なのである。

 原告の真正な著書「超伝導電磁エンジン詳説」を「推定」されるに過ぎないとも書いている。

 法を執行する行政の専門家であるにもかかわらず,必要の無い平成18年法律第55号を引用している。

 


 電話連絡(平成22423)において,必要の無い分割出願を勧めた。

 結審間近なのに,審判長を交代させている。

 以上から,真正な発明の適法な出願であっても原告に対しては絶対に特許権を与えたくないという差別を被告から受けているように原告は感じる。』(訴状3621行〜386)と主張する。

 

(2)原告の主張に対する反論

 原告が主張する取消事由1〜5は,上述したとおり,いずれも理由がない。

 原告は,明細書の記載について,「本出願に,理論面で完全な記載がない」(訴状19頁12行)ことを認めつつも,「発明を再現性をもって実施できるように記載されていれば十分であり,理論的に解明し尽くす必要はない」(訴状19頁2〜3行)と主張している。しかしながら,そもそも原告は,本願発明について,実験はしていない(第1回準備手続)と述べており,また,本願発明が再現性をもって実施できるものであることも明らかにされていないのであるから,「原告の明細書は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。」と主張するには,その実施をすることができると理解できる程度に理論的な裏付けが必要である。

 なお,原告が主張する「情報公開」は,明細書としての開示に影響を与えるものではない。

 審決における「第2.最後の拒絶理由」は,最後の拒絶理由の内容を明らかにしたものである。

 審決が,「第4.本願について」の「4.むすび」で,「また,本願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」と述べているのは,同じく「第4.本願について」の

 


「3.当審の判断」で,「(4)また,上記のとおり,平成22年3月2日付けの手続補正が却下された以上,上記理由2のとおり,本願発明についての発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」とした記載を受けたものである。

 審決が,「超伝導電磁エンジン詳説」(甲第9号証)を出願人の著作と推定されるとしたのは,当審において,出願人の著作であることが確認できないからであり,出願人の著作であることまで否定したものではない。

 審決が,「平成18年法律第55号」について説示しているのは,上記「3取消事由3(理由「第3 .平成22年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」)に対して」の「エまとめ」のなお書きに記載したとおり,平成18年法律第55号改正附則3条1項の規定によるものである。

 電話連絡については,上記「1取消事由1(補正却下手続の違法と理由「第5.付言」)に対して」のなお書きに記載したとおり,確認的に連絡したにすぎないものである。

 審判長が交代したのは,前任の審判長が審判官の官職を有しないこととなったことによるものである。

 以上のとおりであるから,特許庁の態度の不当性・違法性を主張する原告の取消事由6は理由がない。

 

3 まとめ

 以上のとおり,審決は,補正却下の決定について誤りはなく,また,本願に対する特許法17条の23項及び同3641号の要件違反の判断にも誤りはないから,原告が主張する取消事由はいずれも理由がない。

 

以上





★第1回準備手続 2010年9月13日
裁判官により、
特許庁の準備書面提出期限、
その後の原告の準備書面提出期限が指定されました。




★特許庁の答弁書提出 2010年8月9日付


被告答弁書 2010年8月9日(平22.8.9)付

平成22(行ケ)10228号審決取消請求事件

原告 久保田英文

被告 特許庁長官 細野哲弘

 

答弁書

 

平成2289

知的財産高等裁判所第2部御中

 

上記当事者間の不服2008-12599号の審決取消請求事件について,

被告は次のとおり答弁する。

特許庁審判部訟務室〔送達場所〕

被告指定代理人 田村正明

 

 

 

1 請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は,原告の負担とする。

との判決を求める。

 

2 審決の違法性に対する答弁

本件審決に,原告主張の違法はない。

詳細な理由は,追って答弁する。

 

 

 

以上

 

 

 

 

 なお,本件を第1回口頭弁論期日前に弁論準備手続又は書面による

準備手続に付することについて異議はない。







★証拠提出 2010年7月21日付と23日付
甲1〜27号証を7月21日付で、
甲28号証を7月23日付で提出しました。






★提訴・訴状提出 2010年7月20日
知的財産高等裁判所に訴状を持参して提訴し、第二部に係属しました。

提訴

2010年7月20日に、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起しました。
事件番号は、
平成22年(行ケ)第10228号
本人訴訟を行います。


                  2010年7月24日


  • 発明の名称  高周波超伝導電磁エンジン
  • 日本国特許庁への出願日 2006年4月8日
  • 出願番号    特願2006-130763 
  • 公開番号    特開2007-278265
  • 審判番号    不服2008- 12599
  • 出願人     久保田英文
  • 発明者     久保田英文 

訴状 2010年7月20日(平22.7.20)提出

 

訴   状

知的財産高等裁判所 御中

平成 22 20

              原告     久保田 英文

              

                           〒100−8915

              東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

              被告 特許庁長官 細野  哲弘

審決取消請求事件

  訴訟物の価額 算定困難

  貼用印紙   1万3000円

 


請求の趣旨

1 特許庁が不服2008− 12599号事件について平成22年6月7日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

 との判決を求める。

 

請求の原因

1 特許庁における手続の経緯

 

 原告は,発明の名称を「高周波超伝導電磁エンジン」とする出願(平成1848日出願,出願番号: 特願2006-130763,公開番号: 特開2007-278265)の発明者兼出願人である。

 

 原告は,平成19710日,「個人」の資格での早期審査申請と同時に審査請求を行ったところ,平成19116日付け拒絶理由通知書が届いた。平成191113日付けで上申書及び物件として出願人の著作である「超伝導電磁エンジン詳説」を提出した。平成19126日に,本件発明に関する理解を深めてもらうために,審査官と面接をした。平成191212日,手続補正書及び意見書を提出した。同時に原告の先出願の出願番号通知(平成2年のもの)及び国際出願番号通知(平成3)の写しを原告が努力を継続していることを理解してもらうために提出した。しかし,平成2041日付けで拒絶査定が送達された。

 

 原告は,平成20422日に審判請求を行った(審判番号: 不服2008- 12599)。平成2191日に,「個人」の資格で早期審理請求を行った。

 平成21106日付けで1回目の拒絶理由通知書が届いた。平成211019日付けで意見書及び手続補正書並びに「資料集」を提出した。平成211019日付けの補正に対して,平成211027日付けの審判指令が届き,指示に従って,平成211028日に補正書(方式)を提出した。この結果,方式違反は治癒されるとともに,その他の補正も適法として許可された。

 平成22223日付けの最後の拒絶理由通知書が届いた。1回目の拒絶理由通知書に応じて願い出て適法として許可され明細書の一部となった補正の一部を違法である(特許法第17条の2違反)と主張する内容を含むものであった。これに対して,平成2232日付けで特許法第17条の2違反の解消を含む手続補正書及び意見書並びに「資料集2」を提出した。平成22423日に審判長交代の電話連絡があった後,同年同日付けの審判長及び書記官の交代を内容とする氏名通知が届いた。平成2261日付けで,審理終結通知書が届いた。

 平成2267日付けで「本件審判の請求は,成り立たない。」との拒絶審決がなされ,平成22625日付けで審決謄本が送達された。この審決には,平成2232日付けの補正を却下し,最後の拒絶理由通知書が指摘する補正の違法解消を不可能にした内容が含まれている。審決より以前に,補正却下決定の通知は無く,理由の通知を受けて相当の期間を指定されての防御の機会は与えられなかった。

 

2 審決の理由は,審決謄本記載のとおりであるが,審判の手続及び審決の認定判断には誤りがあり,審決は違法として取り消されるべきである。

 

3 審決の理由に対する認否

 

(1) 理由「第1.手続の経緯」については,争う。

ア 最後の拒絶理由通知書(平成22223日付け)に対する応答として申し出た補正(平成2232日付け)を却下する旨の通知は無く,防御の機会を与えられなかった事実が抜けている。

 

イ 審判時1回目の拒絶理由通知書(平成21106日付け)に応じて申し出て適法に許可された補正(平成211019日付け)を最後の拒絶理由通知書で違法と主張し,その違法状況を解消できなくした事実が抜けている。

ウ 結審間近で審判長が交代した事実が抜けている。

エ 「超伝導電磁エンジン詳説」は「推定」ではなく,100%間違いなく,原告の著作物である。

オ 「平成191030日」「平成20324日」「平成21101日」「平成22215日」の日付は特許庁内部の起案日である。対外的関係においては,送達日を用いるべきである。

 

(2) 理由「第2.最後の拒絶理由」については,争う。

ア 「理由1」については,争う。信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張である。加えて,最後の拒絶理由通知書に応じての補正(平成2232)が適法である。

イ 「理由2」については,最後の拒絶理由通知書に応じての意見書(平成2232日付け)に記載した理由によって争う。

 

(3) 理由「第3.平成2232日付けの手続補正についての補正却下の決定」については,争う。

ア [補正却下の決定の結論]については,争う。平成2232日付けの手続補正は適法な補正である。

イ 「1.本件補正の内容」については,争う。

 本件出願の明細書は,原告の主張する適法な補正(平成2232日付け)に基づく明細書であるべきである。

ウ 「2.本件補正の適否」については,争う。

() 「ア.の補正事項」(平成2232日付け)は,特許法第17条の23項違反を解消するための適法な補正であり,補正却下の理由は成り立たない。

() 「イ.の補正事項」(平成2232日付け)は,特許法第17条の25項の要件を満たす適法な補正である。

エ 「3.むすび」については,争う。

本件補正(平成2232日付け)は適法である。

 

(4) 理由「第4.本願について」については,争う。

ア 「1.本願発明」については,争う。

 本願発明の請求項1は,平成2232日付けの手続補正書に対する却下決定に左右されない。

イ 「2.最後の拒絶理由」については,争う。

 最後の拒絶理由通知書(平成22223日付け)に応じての平成2232日付け意見書の通りに反論する。特許法第36条の規定する要件を満たす上に,第17条の23項違反にもならない。

ウ 「3.当審の判断」については,争う。

 信義誠実の原則及び手続的正義に反する主張であるとともに最後の拒絶理由通知書に応じての補正が適法なので,争う。また,本願発明は,特許法第36条の規定する要件を満たしている。

エ 「4.むすび」については,争う。

 本願発明は,特許法第36条の規定する要件を満たす上に,第17条の23項違反にもならない。被告の主張は違法である。

 

() 理由「第5.付言」については,争う。

 最後の拒絶理由通知書に応じた補正が却下されることについて,法定の防御の機会が与えられていない。電話連絡(平成22423日)は,防御の機会を与えたことにならない。

原告の主張

 

 () 取消事由1(補正却下手続の違法と理由「第5.付言」)

 

ア 事実

 

 最後の拒絶理由通知書(平成22223日付け)に対する応答として申し出た補正(平成2232日付け)を却下する旨の書面による通知が無く,理由の告知を受けて不服申し立てする機会を原告は与えられなかった。

 平成22423日の電話連絡は,まず審判長の交代を知らせるものであった。その後,平成2232日付けの意見書における「加えて,今回の拒絶理由通知書で特許法第17条の23項に規定する要件を満たしていないと主張される点については,1.で述べたように,本出願と同時に提出する補正書により解消されます。それでも,万一,特許法第17条の23項違反の記載が明細書に残る場合は,どのような形でもよいですから,その旨お知らせいただき,審理終結前に更なる補正の機会を与えてくださるようにお願い致します。」という原告の主張には応じられないことを告げられた。そういうことはできないと言うだけであり,どの記述の補正が問題なのかの告知も無かった。加えて,拒絶審決になりそうなことを仄めかされ,「分割出願はどうか」とそれとなく勧められた。原告は真正な発明の出願と信じているので,分割出願とする理由が分からなかった。電話連絡は,原告が,拒絶審決の場合,審決取消訴訟を提起する覚悟を披瀝することで終わった。原告は真正な発明の適法な出願と信じているとともに,分割出願とする理由が分からなかったので,分割出願は行わなかった。

 

イ 主張

 

 被告による「平成2232日付けの手続補正についての補正却下の決定」は,特許法第159条・第531項・17条の23項によるものである。

 特許法第533項が1項の決定に対して不服申し立てができないとした趣旨は,不服申し立てができるとするとその間「審査」が中止され,迅速な権利付与が図られないからである。しかし,審決取消訴訟の前審である拒絶査定不服審判手続においては,慎重な審理が行われるべきであり,その趣旨は妥当しない。しかも,3項但し書きにおいては,「拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においてはこの限りではない」と明記している。また,公権力が処分を行う場合,処分を受ける個人は,適正な手続的処遇を受ける権利を有する(憲法第13条・憲法第31条)。よって,特許法第159条が特許法第53条を準用する審判の場合においては,第53条第1項の決定に対して,不服を申し立てることができると解すべきである。

 従って,原告は特許法第531項・17条の2第3項による補正却下の決定に対して,拒絶査定不服審判においては行政不服審査法に基づく不服を申し立てることができた。であるならば,不服申し立ての機会を保障するために,審決よりも前に,拒絶査定不服審判の原告に通知がなされなければならないのは当然である。また,その通知の中で行政不服審査法第57条による教示が行われなければならないのに,為されなかった。

 原告にとり,防御の機会が確保される必要があることは,理由「第5.付言」において,被告の認めるところでもある。

 

ウ 結論

 

 公権力が処分を行う場合,処分を受ける個人は,適正な手続的処遇を受ける権利を有するのに,適正な手続が行われなかった。被告の補正却下の決定には,本審判手続における補正却下に対して法の保障する防御(「不服申し立て」)の機会を原告に与えなかった違法がある。被告の手続は,特許法第159条・第53条に違反し,手続的正義に反する違法な手続であり,取り消されるべきである。

 従って,審決は取り消されるべきである。

 

 () 取消事由2(審判手続の手続的違法)

 

ア 事実

 

 原告は,平成21106日付け拒絶理由通知書に応じて補正書を提出し(平成211019日付け),手続補正1〜8を申し出た。このうち手続補正1と2は,審判指令の対象となり,手続補正書(方式)を提出したが(平成211028日付け),手続補正3〜8はそのまま適法に許可された。この中の「手続補正7の一部」を被告は新規事項の追加に当たり,違法であると主張している。

 原告は,平成22223日付けの最後の拒絶理由通知における「手続補正7の一部」を違法とする被告の主張に従い,補正書を提出して(平成2232日付け),「手続補正7の一部」を撤回する手続補正2を申し出た。

 被告は,審決において,手続補正2を含む補正書(平成2232日付け)の補正を却下する決定を行った。

 

イ 主張

 

 被告の主張によれば,補正書(平成211019日付け)の「手続補正7の一部」は,新規事項の追加(特許法第17条の23項違反)に当たる違法な補正である。

 原告は,「手続補正7の一部」を違法とする被告の主張に従って補正書を提出して(平成2232日付け),手続補正2により適法性を確保しようとした。なのに,被告は,補正を決定により却下するとともに,特許法第17条の23項違反を理由の一つとする拒絶審決を下した。かかる態度は,信義誠実の原則に反する。

 信義誠実の原則は,私法関係ならず,公法関係も規律する法の一般原則であることは,通説・判例(最高裁昭和56127日第三小法廷判決・民集35135)である。よって,本件においても,信義誠実の原則の適用がある。

 被告の矛盾した態度は,信義誠実の原則及び手続的正義に反する。被告の主張によれば,手続補正2には,被告の主張する新たな違法部分(「輸送電流」の追加)と特許法第17条の23項違反を解消するための部分がある。被告としては,この二つを分けて考えて,特許法第17条の23項違反を解消するための部分のみを内容とする補正書を提出する機会を原告に与えるべきであった。しかしながら,その機会は与えられず,補正却下の決定を含む審決が下された。被告は,出願時の記載に戻って違法状態を解消することを不可能にした。特許法第17条の23項違反を解消する補正をできないようにしておきながら,特許法第17条の23項違反を主張することは,信義誠実の原則及び手続的正義に反し,許されない。合法性を確保しなければならない行政庁である被告は,違法状態を解消する方向に動くべきであり,違法状態を維持する方向に手を貸すべきではないのである。公権力が処分を行う場合,処分を受ける個人は,適正な手続的処遇を受ける権利を有する(憲法第13条・憲法第31条)のに,適正な手続が行われなかった。

 

ウ 結論

 

 被告の「手続補正7の一部」が特許法第17条の23項に違反するという主張は,信義誠実の原則及び手続的正義に反し違法であり許されない。

 従って,審決は取り消されるべきである。

 

() 取消事由3(理由「第3.平成2232日付けの手続補正についての補正却下の決定」)

 

ア [補正却下の決定の結論]について

 

 争う。平成2232日付けの手続補正は適法な補正であり,補正却下決定は手続的にも実体的にも違法であり,取り消されるべきである。

 

イ 「1.本件補正の内容」について

 

(1)本件補正前の段落【0006】,【0014】及び【0015】」】は,被告の主張する違法な明細書の内容である。平成2232日付け補正は適法であるので,争う。

()本件補正後の段落【0006】,【0014】及び【0015】」が適法な補正(平成2232日付け)の結果である原告の主張する適法な明細書の内容である。

 

ウ 「2.本件補正の適否」について

 

() 「ア.の補正事項」

 

 取消事由2で主張するように信義誠実の原則により,被告が「ア.の補正事項」の違法を主張することは許されない。

 取消事由1で主張するように,平成2232日付け手続補正についての補正却下の決定は,原告の防御の機会を奪った違法な手続によるものである。加えて,()で述べるように「イ.の補正事項」も適法である。したがって,平成2232日付けの手続補正は適法であり,特許法第17条の23項違反を解消するための「ア.の補正事項」を却下する理由は何も無い。

 予備的主張を行う。たとえ,「イ.の補正事項」が違法だとしても,取消事由2で述べたように,手続補正2(平成2232日付け)中の「ア.の補正事項」及び「イ.の補正事項」の一部を一体として取り扱う事は手続的正義に反し違法である。

 

() 「イ.の補正事項」

 

「イ.の補正事項」による補正は,特許法第17条の23項に違反せず,第5項の要件を満たす適法な補正である。

 補正制度の趣旨は次のようなものであると考えられる。

 明細書は技術文献及び権利書としての意義を有するため,出願当初より正確かつ完全であることが望ましい。しかし,無形思想たる発明を完全な文章で表現することは容易でなく,特に出願を急ぐ先願主義の下はなおさらである。また,当初完全であると思っても,拒絶理由通知を受けた場合,対抗手段として補正したい場合もある。

 このような場合,補正を認めて出願人を保護する必要があるが,無制限に補正を認めると出願処理の円滑な進行を妨げるとともに,補正が遡及効を有することから先願主義に反し第三者に不測の損害を与えかねない。

 そこで,法は一定の期間的,内容的制限の下に補正を認めることとしている。

 「イ.の補正事項」の補正は,平成2232日付け補正書により法定の期間内に申し出ている。そして,その内容は,超伝導磁石概念の本来の意味に沿った適法な釈明であり,第三者に不測の損害を与えることは無い。また,審決取消訴訟の前審として円滑な進行よりも慎重さが要求される審判時の補正である。従って,「イ.の補正事項」は適法な補正であり,補正却下の決定は違法であり,取り消されるべきである。

 以下,「イ.の補正事項」の内容が,超伝導磁石概念の本来の意味に沿った適法な釈明であることについて詳しく述べる。

 

 「イ.の補正事項」は,最後の絶理由通知書(平成22223日付け)の渦電流に関する疑問に答えて,本件発明の「永久電流」が発明の構成上,当然に「輸送電流」であることを釈明するためのものである。概念の大きさからすれば,「永久電流」概念の限定的縮減でもあるが,「超伝導磁石」概念の本来の意味に沿ったものであることを説明するに過ぎない。被告は,「「超電導磁石」についての概念を変更するものである。」と主張するが,超伝導磁石概念の変更では全くない。

 超伝導磁石は,超伝導電磁石とも言うように,超伝導体を用いた電磁石である。『第2版 科学大辞典』(財団法人 国際科学振興財団 編,丸善株式会社刊)によれば,「超伝導磁石」とは,「超伝導線を用いてつくった電磁石」である。『物理学辞典 三訂版』(物理学辞典編集委員会編,株式会社培風館刊)によれば,「超伝導磁石」とは,「超伝導線材でコイルを作り,普通の電磁石と同様な機能をもつようにしたもの」である。

 そして,電磁石とは,通常,磁性材料の芯のまわりに,コイルを巻き,通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石である。『第2版 科学大辞典』によれば,「電磁石」とは,「外部から電流を流すことにより磁界を発生させる装置」である。『物理学辞典 三訂版』によれば,「電磁石」とは,「強磁性体で構成される鉄芯(継鉄,ヨーク)のまわりに巻いたコイル導体に電流を流すことによって鉄芯を磁化し,外部に磁場を発生させる装置」である。

 以上から分かるように,超伝導磁石は,電磁石の一種である。そして,電磁石は,コイルに「電流」を流すことによって機能する。この電流が輸送電流に他ならない。超伝導磁石概念において,「電流」(輸送電流)を流すことは不可欠であり,その本質的要素である。超伝導磁石を磁石として機能させる方法は,「電流」(輸送電流)を流すことだからである。磁場を作るのは電磁石を流れる電流であり,それは超伝導磁石の場合,輸送電流に他ならない。

 

 被告は,「輸送電流とは,外部電源から流される電流のこと」に過ぎないと主張する。しかし,輸送電流は,試料に流れている電流そのものも意味する。「超電導入門」(A.C.ローズ-インネス,E.H.ロディリック著,産業図書株式会社刊)の第205ページでは,「輸送電流とは試料にそって流れる電流である」とある。また,被告の引用する第23ページにおいても,「どの輸送電流もすべて表面を流れ導体の外側に磁束を作る」とある。従って,輸送電流とは,外部電源から流されて,試料を流れる電流のことである。超伝導磁石及び本件発明の場合においては,超伝導コイルを周回する永久電流が輸送電流に該当する。

 

 そして,工学的に利用する超伝導磁石において,超伝導磁石を機能させる方法は,常識である。それは外部電源から電流を流し,その電流を永久電流としてコイルを周回させると言うことである。『応用超電導』(萩原宏康 編著,日刊工業新聞社刊)において,第34ページで説明しているとおりである。冒頭で説明していることからも分かるように超伝導磁石を扱う者にとって基礎中の基礎的事項,常識的知識である。

 本件発明は,超伝導磁石を不可欠の構成要素とし,超伝導現象を原理として利用する。本件出願における当業者とは,超伝導現象と超伝導磁石に関する通常の知識を有する者であると解される。であるならば,超伝導磁石を機能させる方法は常識的知識であるから,当業者は当然,理解しているはずである。

 本件出願において,超伝導磁石に接続した外部電源の記載が無いのは,超伝導磁石が電磁石として機能している状態を描いたからである。超伝導磁石が電磁石として機能している状態では,外部電源は,切り離されているのである。

 

 本件発明の超伝導磁石の利用法は,超伝導磁石の電磁石としての磁場を利用するものである。

 本件発明の超伝導磁石の利用法については,平成21106日付けの拒絶理由通知書の疑問に対して,平成211019日付けの意見書の「新主張3.について」で原告が答えている。それを最後の拒絶理由通知書(平成22223日付け)で被告は受け入れている。その内容は,本件発明の構成要素である常伝導磁石と超伝導磁石を重ね合わせて,その間の磁力,反発力もしくは吸引力を利用するということである。本件発明が磁力を利用するものであることはその構成からして明白なのである。すなわち,本件発明は,超伝導磁石の電磁石としての磁場を利用して推進力(磁力)を得るものである。

 本件発明は,常伝導磁石に働く磁力を推進力として利用するのである。その磁力(反発力もしくは吸引力)が生じるのは,超伝導磁石の磁場が存在するからである。本件発明が超伝導磁石の磁場を利用するものであることは明らかである。そして,その磁場の源である「永久電流」が常伝導磁石の磁場によって電磁力を受け,その電磁力が磁力に変化しないよう工夫したのが本件発明である。

 この場合の「永久電流」が輸送電流を指すことは自明である。なぜならば,この「永久電流」は,電磁石として機能する時の磁場の源である。超伝導磁石の強大な磁場を作っているのは,輸送電流だからである。

 

 従って,超伝導磁石概念からしても本件発明の構成からしても本件発明の「永久電流」が輸送電流を指すことは自明である。そのことは,明細書に記述してある私の装置の目的や説明の趣旨から当然,当業者が理解できることである。明細書に明確な記述もある。「超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流の流れる方向」(段落0014)という記述である。ここで取り上げている「超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流」とは,輸送電流に他ならない。また,「超伝導コイルを流れる永久電流」(段落0014)という記述もある。超伝導磁石の磁場を問題にするとき,「超伝導コイルを流れる永久電流」とは通常,輸送電流のことを指すのである。

 以上見てきたように,「イ.の補正事項」は,「永久電流」が超伝導磁石の本来の概念に沿ったものであることを釈明するに過ぎない。第17条の254号に従った適法な補正であり,第17条の23項の規定に違反するとの主張は成り立たない。「イ.の補正事項」に関わる補正は適法であるから,補正却下の決定は実体的に違法であり,取り消されるべきである。

 

エ 「3.むすび」について

 

 本件補正(平成2232日付け)は適法であり,補正却下の決定は取り消されるべきである。

 従って,審決は取り消されるべきである。

 なお,審決の指摘する平成18年法律第55号の特許法第17条の2の改正は,同法同条第4項及び第5項に関するものであり,同法同条第3項には関係ない。

 

() 取消事由4 (理由「第4.本願について」)

 

ア 本願の経緯及び「1.本願発明」

 

()本願の経緯

 平成21106日付け拒絶理由通知書において,「反平行運動の運動量に変化」することに関わる特許法第36条第4項第1号または第6項第2号違反の主張が行われた。これに対して,原告は,平成211019日付け意見書の「1-3.」において,反論を行った。これに対して,被告は,平成22223日付けの最後の拒絶理由通知書における「【1】新規事項の追加について」で「反平行運動の運動量に変化」する記述に関して,特許法第17条の23項違反の主張を行った。しかし,最後の拒絶理由通知書における「【2】発明の詳細な説明の記載要件について」では,「反平行運動の運動量に変化」することに関する主張は無かった。従って,「反平行運動の運動量に変化」することに関わる特許法第36条第4項第1号または第6項第2号違反の被告の主張は取り下げられた。

 

()1.本願発明」について

 平成2232日付け手続補正書による補正は適法な補正であり,取消事由1〜3で述べたように補正却下の決定は手続的にも実体的にも違法である。

 また,本願発明の請求項1は,平成2232日付けの手続補正書に対する却下決定に左右されずに,以下のとおりのものである。

 

「【請求項1】

 超伝導磁石に対して重ね合わせるように固定したループにその波長がループの一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流すことにより,そのループに超伝導磁石の磁界による磁力を発生させる一方,その程度の高周波数の脈流磁界が作用して超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しないので,ループに発生した磁力を推進力・制動力・浮力として利用するエンジン。」

 

平成2232日付けの手続補正書では,特許請求の範囲の補正を申し出ていないからである。

 

イ 「2.最後の拒絶理由」について

 

 平成22223日付け最後の拒絶理由通知書に対しては平成2232日付け意見書の通りに反論する。

 本発明は,特許法第36条の規定する要件を満たすと主張する。

 加えて,平成22223日付け拒絶理由通知書及び審決において特許法第17条の23項に規定する要件を満たしていないと主張する点については,平成2232日付けの手続補正書により解消された。この補正は適法な補正であり,取消事由1〜3で述べたように補正却下の決定は手続的にも実体的にも違法であり,取り消されるべきである。

 

ウ 「3.当審の判断」について

 

() ()について

 

 平成211019日付けの手続補正における「反平行運動の運動量に変化」することに関わる特許法第17条の23項違反の主張は,取消事由2で述べたように,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張であり,許されない。また,当該補正は,平成2232日付け手続補正書により,補正された。平成2232日付け手続補正書を却下する決定は,取消事由3で述べたように実体的に違法である。取り消されるべきである。また,取消事由1及び取消事由2で述べたように,補正却下の決定には手続的違法もある。補正却下の決定は取り消されるべきである。

 

() ()について

 

() ()について」で述べたように,特許法第17条の23項違反の主張は成り立たない。

()本願の経緯」で述べたように,「反平行運動の運動量に変化」することに関わる特許法第36条第4項第1号または第6項第2号違反の主張は最後の拒絶理由通知書により,取り下げられた。()における特許法第36条第4項第1号違反の主張は,それを再び蒸し返す,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張である。

 以上の主張が受け入れられない場合に備えて,下記のように予備的に主張する。本願発明は,特許法第36条に規定する要件を満たしている。

 

 

 「何ら方向性を有する運動を生ずることなく,方向性の無い純粋な熱エネルギーとして放出される根拠が不明である。何ら方向性を有する運動を生ずることなく,方向性の無い純粋な熱エネルギーとして放出されるのであれば,当該運動量の平均が方向性を有しないこととなるのではないか。」と主張する点について。

 ローレンツ力は,運動量秩序により,電子対の重心運動を動かせないので,主に各電子の反平行運動の運動量に変化する。このことを「重心運動の運動量に変化せずに,各超電子の散乱を通じて,最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。」(段落0014)と表現した。各超電子が反平行運動をしていることは出願時の超伝導の技術常識である。『超電導入門』の133頁及び134頁のpiと−pi134頁のpjと−pjは各超電子の反平行運動の運動量を示す。『超伝導の世界』(大塚泰一郎著,講談社ブルーバックス)の186頁「p+(−p)=0」及び188頁「(p+Q+(−p+Q)=2Q」のpと−pは各超電子の反平行運動の運動量を示すものである。

 反平行運動とは,大きさが同じで向きが反対のベクトルで表現される。大きさが同じで向きが反対の各超電子が形成する電子対の運動量は,反平行運動全体に関しては,必然的にゼロになる。反平行運動に関しては方向性を持たない。

 また,確かに,当初明細書には反平行運動による反作用吸収のメカニズムの記載は無いが,このメカニズムは,「重心運動の運動量に変化せずに,各超電子の散乱を通じて,最終的には熱エネルギーとして外部に放出される。」ことの理論的説明である。

 「特許法36条4項1号において,「通常の知識を有する者がその実施をすることができる程号度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる「実施可能要件」)を規定した趣旨は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したといえない発明に対して,独占権を付与することになるならば,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるからである。」

(事件番号: 平成20(行ケ)10237/事件名: 審決取消請求事件/裁判年月日: 平成210729日/裁判所名: 知的財産高等裁判所)

 従って,当業者が明細書の記載に基づいて当該発明を再現性をもって実施できるように記載されていれば十分であり,理論的に解明し尽くす必要はないと考える。特許出願にかかる発明の場合は,学術論文とは異なり,理論的解明を目的とするものではないからである。具体的には,発明の目的・構成・効果が明確かつ十分に書いてあれば,当該発明を再現性をもって実施可能である。

 本願発明の明細書には,目的・構成・効果が十分詳細かつ明確に書かれている。明細書は,「技術分野」「背景技術」「発明が解決しようとする課題」「課題を解決するための手段」「発明の効果」「発明を実施するための最良の形態」「実施例」「産業上の利用可能性」「符号の説明」に分けて,目的・構成・効果を明確かつ十分に記載している。

 よって,本出願に,理論面で完全な記載がないとしても,特許法36条4項1号違反となるものではない。

 また,当該補正は,請求項1の「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しない」ことの概念を変更するものではない。「磁力に変化しな」かった力積が,どのよう過程を通じて変化して熱となるかについて釈明することにより,平成21106日付け拒絶理由通知書の疑問に答えるものである。これは,本発明に推進力が発現することを前提として,排熱がどのように行われるかについての理論的説明の問題である。従って,完全な記載が無いとしても,特許法36条4項1号違反となるものではない。

 以上により,本願は,特許法第36条に規定する要件を満たしている。

 

(ウ) ()について

 

 「反平行運動の運動量に変化」することを削除する補正を違法と主張することは,取消事由2で述べたように,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張であり,許されない。また,当該補正は,平成2232日付け手続補正書により,補正された。平成2232日付け手続補正書を却下する決定は,取消事由3で述べたように実体的に違法である。また,取消事由1に述べたように,補正却下の決定には手続的違法もある。補正却下の決定は取り消されるべきである。

 

(エ) ()について

 

 平成211019日付けの「手続補正7の一部」に関する主張は,取消事由2で述べたように,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張であり,許されない。また,当該補正による特許法第17条の2違反は,平成2232日付け手続補正書により,補正された。平成2232日付け手続補正書を却下する決定は,取消事由3で述べたように実体的に違法である。補正却下の決定には取消事由1で述べたように手続的違法もある。補正却下の決定は取り消されるべきである。

 本願は,特許法第36条に規定する要件を満たしている。

予備的主張を行う。たとえ,平成2232日付け手続補正書を却下する決定が維持されるとしても,特許法第36条に規定する要件を満たしている。なぜなら,平成2232日付け手続補正書によるイ.の事項の補正は釈明のためのものであり,この釈明が無くても,取消事由6で述べるように,特許法第36条に規定する要件を満たしている。また,ア.の事項の補正も釈明のためのものであり,この釈明があっても無くても,特許法第36条に規定する要件を満たしている。

 

エ 「4.むすび」について

 

 被告の主張は違法である。

 平成211019日付けの手続補正に関する主張は,取消事由2で述べたように,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張であり,許されない。また,当該補正は,平成2232日付けで手続補正書により,補正された。平成2232日付け手続補正書を却下する決定は,取消事由3で述べたように実体的に違法である。取り消されるべきである。また,取消事由1に述べたように,補正却下の決定には手続的違法もある。補正却下の決定は取り消されるべきである。

 また,本願明遺書は,特許法第36条に規定する要件を満たしている。

 従って,審決は取り消されるべきである。

 

() 取消事由5 (理由「第2.最後の拒絶理由」)

 

ア 「理由1」について

 

「理由1」については,争う。取消事由2で述べたように,信義誠実の原則及び手続的正義に反する違法な主張である。加えて,最後の拒絶理由通知書に応じての補正(平成2232)が適法である。平成2232日付け補正を却下する決定は,手続的にも実体的にも違法であり,取り消されるべきである。

 従って,審決は取り消されるべきである。

 

イ 「理由2」について

 

「理由2」については,最後の拒絶理由通知書に応じての平成2232日付け意見書に下記のように記載した理由により反論し,本願発明は,特許法第36条の規定する要件を満たすと主張する。

 従って,審決は取り消されるべきである。

 

 また,下記の中で述べる「大きな偏り」が恒常的に生じることは,常識的物理学の知識から合理的推論を行っても理解できるが,一回巻きのループにループ一周の長さと波長が一致する脈流を流したときの脈流磁場を計算する物理コンピューターシミュレーションを行ってその時間経過を3D画像表示させれば,視覚的に直ちに理解できる。裁判所の職権(行政事件訴訟法第1条,同法第24条)により鑑定を行って,「大きな偏り」が恒常的に生ずるかどうかを公式に確認することをお願いする。

 

 

 

2.発明の詳細な説明の記載要件について

 

(1)超伝導磁石の基本的理解とマイスナー効果

 

 まず,本発明に対する理論的疑問点について,お答えする前提として,超伝導磁石の磁場の源について,基本的な説明を行います。

 超伝導磁石が強力な磁場を発生させることはご存じの通りです。その強力な磁場の主たる原因であるとともに大部分の原因であるものは,超伝導コイルに沿って超伝導ループを周回する輸送電流(永久電流)です。「主たる」「大部分」と申し上げたのは,厳密に言えば,他にも磁場の源となっているものがあるからです。それは,電磁誘導によって表面に流れる永久電流である遮蔽電流(渦電流)と超伝導磁石の常伝導部分が磁化した部分(永久磁石部分)です。この三つが超伝導磁石の磁場の源です。このうちの渦電流がマイスナー効果をもたらします。

 ここで,超伝導磁石のコイル部分の材料である第2種超伝導体について説明します。超伝導状態において遮蔽電流により内部の磁束密度が常にゼロである第1種超伝導体と違い,一定の温度以下にある第2種超伝導体は内部に磁束が侵入しています。一定の温度以下にある第2種超伝導体は,外部磁場が下部臨界磁場と上部臨界磁場の間にあるとき,超伝導状態の部分と常伝導状態の部分が混合した状態となります。その常伝導部分に磁束が貫入しているのです。この混合状態を利用して強力な磁場を実現するのが超伝導磁石です。輸送電流については,『超電導入門』の23頁と205頁に基本的説明があります。ただし,23頁の記述は第1種超伝導体を念頭においたものです。

 混合状態の超伝導部分には,当然,遮蔽電流が流れて,外部磁場(磁束)を打ち消しています。この遮蔽電流は超伝導部分の表面部分を流れ,超伝導磁石の局所を環流しています。しかし,遮蔽電流による磁場(磁束)の打ち消しは超伝導部分の内部に限られます。超伝導部分の外部(第2種超伝導体の常伝導部分を含む)には,遮蔽電流自身が作る磁束に加えて,輸送電流が作る磁束が打ち消されずに存在します。超伝導部分の外部に,輸送電流が作る磁束がそのまま存在するからこそ,超伝導磁石の強力な磁場があるのです。

 そして,超伝導状態の超伝導磁石を外部磁場の中に置くと,輸送電流と遮蔽電流と永久磁石部分それぞれが,外部磁場により,電磁力を受けます。通常の装置に働いた磁場であれば,この三つの部分の電磁力はすべて磁力に変化します。

 しかし,私の特殊な装置においては,輸送電流に働いた電磁力だけは,運動量秩序の規制により,通常と違うプロセスを辿ります。では,私の装置において,遮蔽電流と永久磁石部分はどうなるでしょうか。

 永久磁石部分は,常伝導の部分ですから,超伝導の特性である運動量秩序とその規制の影響は当然,ありません。永久磁石部分には,通常の場合と何ら変わることなく,磁力が生じます。

 遮蔽電流に対しては,どうでしょうか。遮蔽電流は永久電流なので,運動量秩序とその規制の影響が問題となり得ます。しかし,あるとしても,その影響は極めて小さいと考えられます。輸送電流に運動量秩序の規制が働くのは,輸送電流が超伝導ループを周回し,その部分の脈流磁場が脈流の波長1個分だからです。このことにより,超伝導ループ上の脈流磁場のエネルギーの偏りを見ると極めて大きくなり,運動量秩序が十分に働くのです。

 これに対して,遮蔽電流は渦電流として局所を環流しています。『超伝導による電磁推進の科学』の48頁において,「これを第2種超伝導体と呼んでいる。この種の超伝導体は完全反磁性の領域は狭い」とあります。「完全反磁性の領域」とは,すなわち超伝導部分のことです。『超伝導』の54頁において,「第二種超伝導体内部は,超伝導状態にある小領域と常伝導状態にある小領域とに細分されている」とあります。この混合状態は,『超電導入門』の187頁に図示されている通りです。この狭い細分化された常伝導状態の領域にある磁束を取り巻くように,渦電流(遮蔽電流)が,狭い細分化された超伝導状態の領域の表面部分を流れています。渦電流(遮蔽電流)は,このような局所を環流しているのです。局所を環流し遮蔽電流の役割を果たしているので,渦電流による超伝導磁石の磁場への寄与は小さいのです。

 その局所部分の脈流磁場の偏りを考えます。これは,極少距離における磁場の強さの変化を考えることになりますので,脈流磁場の偏りは,極めて小さいと考えられます。なので,脈流磁場の偏りを原因とする運動量秩序の規制はほとんどまったく機能しないと考えられます。よって,当然,私の装置においても誘導起電力の働きは運動量秩序の規制により妨げられず,誘導起電力が十分に働き,「マイスナー効果」として知られる誘導電流(渦電流)を発生させていることになります。生じた渦電流は,運動量秩序に従って,電子対の重心運動の運動量を一斉に変化させることにより,永久電流としての強さを変化させることができます。

 そして,遮蔽電流に脈流磁場の偏りを原因とする運動量秩序の規制がほんの少しでも機能するとするならば,それは超伝導部分への「磁場侵入長さ」がより大きくなることとなって現れると考えられます。以上より,運動量秩序の規制による誘導電流(遮蔽電流)への影響がほとんど全く無いので,当然,私の装置が機能している状態においても,「マイスナー効果」を発生させていることになります。

 存在する輸送電流と発生した遮蔽電流という永久電流どうしが接点で電子対のやりとりをする場合は,次のように考えます。輸送電流には,脈流磁場の偏りを原因とする運動量秩序の規制が働き,遮蔽電流には,働かないという大きな違いがあります。しかし,輸送電流も遮蔽電流も永久電流であり,永久電流を構成する電子対が運動量秩序に従っていることに変わりありません。ですから,輸送電流と遮蔽電流で電子対の重心運動の運動量の大きさに違いがある場合は次のように考えます。輸送電流から遮蔽電流に移動した電子対は,遮蔽電流の電子対の重心運動の運動量の大きさに揃います。遮蔽電流から輸送電流に移動した電子対は,輸送電流の電子対の重心運動の運動量の大きさに揃うと考えるのです。

 以上は,超伝導と超伝導磁石の基本理論から論理的に帰結されることです。なお,提出済みの『超伝導電磁エンジン詳説』の第1章第4節(5)「環状電流について」でも,環状電流,すなわち遮蔽電流である渦電流について述べていますが,本意見書の記述に反する部分は,本意見書の記載に差し替えたものとさせてもらいます。

 

 「常伝導体1とケーブル4に流れる脈流の作る磁界を打ち消すような誘導電流を発生させる」と言われますが,「脈流の作る磁界を打ち消す」のは超伝導部分の内部の磁束のことを指します。超伝導部分の外部(2種超伝導体の常伝導部分を含む)では,脈流の磁場(磁束)は打ち消されずに存在します。その存在する脈流磁場と輸送電流の磁場が作用しあっています。従って,脈流磁場の原因である脈流には,輸送電流が作用した電磁力が生じます。輸送電流磁場の原因である輸送電流には,脈流が作用した電磁力が生じます。作用・反作用の法則が成立します。脈流に生じた電磁力は磁力に変化します。しかし,輸送電流に生じた電磁力は,脈流磁場のエネルギー分布の大きな偏りを原因とする運動量秩序の規制により,通常とは違うプロセスを辿ります。電子対の重心運動の運動量に変化しません。結果として,輸送電流に生じた電磁力は磁力に変化しないことになります。

 そして,脈流磁場のエネルギー分布の偏りを原因とする運動量秩序の規制による影響は,永久磁石部分には全く無いし,遮蔽電流にはほとんど無いと言えます。問題となるのは,輸送電流だけです。ですから,明細書において,永久磁石部分と遮蔽電流の二つについて,通常とは違うことが起こる趣旨の記述がありません。そのため,輸送電流についてだけ,運動量秩序と運動量秩序による規制の働きを記述してあります。

 超伝導磁石の磁場の源は,厳密に言えば三つある訳ですが,私の装置に関する説明においては,輸送電流だけを念頭に置いてきました。私の装置の目的は,常伝導「ループに発生した磁力を推進力・浮力・制動力として利用」(段落0006)して,「電気エネルギーを直線的運動エネルギーに変換すること」を実現することにあります(段落0003)。三つの超伝導磁石の磁場の源のうち,常伝導ループの推進力の主たる原因となるものは,輸送電流です。超伝導磁石の強力な磁場の主たる原因であるとともに大部分の原因であるものが,超伝導コイルに沿って超伝導ループを周回する輸送電流です。この輸送電流による強力な磁場が脈流に働いて常伝導ループに強い磁力を生じさせます。ですから,私の装置における推進力のほとんどの部分の原因が輸送電流による磁場であり,そのほとんどの部分の原因について説明すれば,足りると考えたからです。そのことは,明細書に記述してある私の装置の目的や説明の趣旨から当然,当業者が理解できることです。特に「超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流の流れる方向」(段落0014)という記述から分かります。ここで取り上げている「超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流」とは,輸送電流に他ならないからです。また,「超伝導コイルを流れる永久電流」(段落0014)という記述もあります。超伝導磁石の磁場を問題にするとき,「超伝導コイルを流れる永久電流」とは通常,輸送電流のことを指します。

 しかし,「永久電流(輸送電流)」とした方が,分かりやすいので,(段落0006)(段落0014)(段落0015)に補正を入れたいと思います。なお,この補正は,「ローレンツ力」「電磁力」「磁力」の区別と同様の趣旨です。根拠は(段落0012)ないし(段落0015),特に,(段落0014)の記述です。

 輸送電流だけを念頭に置いてきたので,前回の拒絶理由通知書の「誘導起電力」に関する疑問についても,運動量秩序とその規制の影響を輸送電流についてだけお答えすることとなりました。輸送電流(永久電流)には,電流方向の運動量秩序の規制が働き,誘導起電力が働いてもその影響は打ち消されるということです。

 運動量秩序の規制が働いて輸送電流の磁力不発生現象が生じるとき,超伝導磁石に残るのは,渦電流と永久磁石部分の磁力だけとなります。この磁力の合計は,脈流全体に働く磁力よりも,相当に小さいものとなります。主たる原因である輸送電流の磁力が存在しないからです。ですから,差し引き大きい分の脈流の磁力を推進力・浮力・制動力として利用できます。

 この差し引き大きい分の磁力を利用するという考え方の基本は,『超伝導電磁エンジン詳説』の第1章第3節(5)「電磁エンジンにおける高周波脈流の作用」の図18とその説明にも述べてあります。

 

(2)磁場のエネルギーの大きな偏り

 

「脈流波形は一定の範囲で規則的に変動しますが,光速度に近い速度で移動しているので,その平均を考えれば十分です。」という主張は,脈流に働く磁力の強さを計算する場合に関しては,脈流の強さ(アンペア)の平均の計算を考えればよいという趣旨です。

「脈流等の電流が光速度に近い速度で全体に波及すること」とは,具体的には,脈流波形が光速度に近い速度で移動することを指します。このことは,オシログラフを見れば,視覚的に理解できます。そして,脈流による磁場が,光速度で全体に波及します。磁場の量子は光子だからです。

 そして,脈流の波長をループ一周の長さと一致させますから,ループ上には,常に脈流の1波長分が存在し,常に脈流波形の山一個分が存在します。脈流を通電した状態において「超伝導磁石全体の各瞬間においても,」「脈流による電磁力が作用する状態」が常に存在すると言えますが,脈流を通電した状態において「電磁力が作用しない状態」が存在することは論理的に否定されます。

 その「脈流による電磁力が作用する状態」において,超伝導磁石の超伝導電流ループ上において,脈流による磁場のエネルギー分布は常に大きく偏っています。以下,そのことを説明します。

 光速度で脈流磁場が波及しますが,その磁場の強さは,脈流からの距離によって大きく異なっています。

 導線に電流を流すと,その導線を中心に同心円状の磁束が生じ,その電流の強さを i とすると,導線から r メートル離れた位置の磁場の強さは,

μi /(2πr

で計算されます。

μは透磁率です。超伝導電磁エンジンは空芯ですので,近似的に真空の透磁率(4π×10のマイナス7乗)を用いることができます。

 i を脈流の山の最高点で2000アンペアの強さとします。

ループ一周の長さは,『超伝導電磁エンジン詳説』の第1章第5節「電磁エンジンの実験方法」で使用している数字,1.6メートルとします。

このとき,ループの半径は,約0.25メートルとなります。

 脈流の山の最高点の強さの地点による脈流磁場の強さを計算してみましょう。最高点の強さの地点から0.5メートル離れた地点A(ループ上では円を中心とする直径の反対側の点に相当します)では,

4π×10のマイナス7乗×2000/(2π×0.5)=0.0008テスラ

最高点の強さの地点から1 ミリメートル離れた地点Bでは,

4π×10のマイナス7乗×2000/(2π×0.001)=0.4テスラ

0.4÷0.0008500

B地点とA地点では,500倍という大きな差が生じます。

脈流の山の最高点の強さではなく,山の裾の20アンペアの地点による脈流磁場の強さを計算してみましょう。最高点の強さの地点から0.5メートル離れた地点C(ループ上では円を中心とする直径の反対側の点に相当します)では,

4π×10のマイナス7乗×20/(2π×0.5)=0.000008テスラ

このC地点では0.000008テスラとなり,非常に小さな数値となりますが,ゼロではありません。磁場についての「ゼロ」という記述は近似的にゼロと言うことを意味しています。「μi /(2πr 」という磁場の強さの計算式において, r の大きさに制限はなく,r をいくらでも大きくできますが,それでもゼロに接近していくだけで,ゼロになることはありません。理の当然として,超伝導磁石上の脈流磁場がゼロと主張していてもそれは近似的にゼロのことだと理解できます。そして,近似的にゼロだとしても恒常的であれば運動量秩序の規制は機能し,「近似的ゼロ」より強い部分の磁場による電子対の重心運動の運動量変化が生じません。

B地点とC地点の磁場の強さを比較してみましょう。

0.4÷0.00000850000

50000倍という大きな差が生じます。

ちなみに,山の裾の20アンペアの地点から1 ミリメートル離れた地点Dでは,

4π×10のマイナス7乗×20/(2π×0.001)=0.004テスラ

以上のように超伝導ループ上の脈流磁場の強さには,大きな偏りがあります。そして,この偏りは,ループを大きくすることでさらに大きくすることも可能です。

 脈流の波形は山なりになっていて,脈流による磁場は山の最高点で最も強く,山の裾に向かって徐々に弱くなっています。しかも,山が占める位置は,ループ一周の半分の部分だけです。もう,半分の部分では,脈流の作る磁場はゼロです。すなわち半円形の導線に山が連続する電流を流したときの磁場エネルギーの分布を考えればよいのです。

 ループ全体に渡って一定の強さの電流が存在する通常の円形常伝導電磁石では,磁束の重なり合いによる磁場の強さの大きな強化が生じます。しかし,私の装置においては,半円形の導線と考えることができるので,重なり合いによる強化があっても小さいものとなります。常伝導ループは一回巻きである上に,磁束の重なり合いの中心がループ上にないのです。

 よって,各瞬間において,超伝導ループ上における脈流磁場のエネルギー分布には脈流磁場の強さに応じて大きな偏りがあります。このことは,磁場の源から r の距離にある単位面積あたり受ける磁場のエネルギーの量は, r の二乗に反比例することからも推測できるでしょう。

 そして,磁場の波及というものは,磁場の源の発生,移動,変化,消滅のすべてを光速度で伝えるということになります。各瞬間において,超伝導ループ上における脈流磁場のエネルギー分布には,大きな偏りがあり,その偏りを持ったまま,脈流の山の波形に従った強さの磁場が,山の移動に従って光速度に近い速度で移動していくことになります。従って,その各瞬間が連続した時間を通じて大きな偏りが認められるので,超伝導ループ上における脈流磁場のエネルギー分布に大きな偏りが存在し続けることになります。すなわち,この恒常的に存在する大きな偏りにより,超伝導磁石上の脈流磁場に近似的にゼロの部分が恒常的に存在することになります。従って,私の装置が機能します。これが物理の基本原理に乗っ取った考えです。

 このような大きな偏りが恒常的に生じることは,常識的物理学の知識から合理的推論を行っても理解できますが,一回巻きのループにループ一周の長さと波長が一致する脈流を流したときの脈流磁場を計算する物理コンピューターシミュレーションを行ってその時間経過を3D画像表示させれば,視覚的に直ちに理解できることです。裁判になり争点になった場合はそのような鑑定を要求します。

 

(3)永久磁石部分

 

「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しない」状態とは,輸送電流に超伝導の本質・電子対凝縮の効果である運動量秩序の規制が働いた状態のことを述べたものです。この状態でも,輸送電流の強力な磁場は存在しています。遮蔽電流が流れています。超伝導磁石全体が「永久磁石として振る舞う」とは到底言えません。また,輸送電流と脈流の間に作用・反作用の法則が成立しています。輸送電流と脈流が作用して,輸送電流と脈流のそれぞれに電磁力が生じています。脈流に働いた電磁力は常伝導ですので,当然,磁力に変化します。他方,輸送電流には運動量秩序の規制が働くので,電磁力は磁力に変化しないで反平行運動の運動量に転化するという通常とは違うプロセスを辿るのです。

 ですから,「永久磁石として振る舞う」部分とは,三つの超伝導磁石の磁場の源のうちの永久磁石部分に当たります。この永久磁石部分の磁性について説明します。永久磁石部分は,3つに分けられます。「第2種超伝導体の混合状態における常伝導部分」,「超伝導線の第2種超伝導体以外の部分」,「それ以外の超伝導磁石の構成部分」。

 輸送電流と遮蔽電流が存在する場合に,永久磁石部分の磁性がどうなるかについて考えます。

 三つの永久磁石部分のうちの「それ以外の超伝導磁石の構成部分」は,超伝導線から遠い,すなわち輸送電流や遮蔽電流から遠いので,問題となるほど強い磁性を持たないことはご理解いただけるでしょう。これに対して,「第2種超伝導体の混合状態における常伝導部分」,「超伝導線の第2種超伝導体以外の部分」は,輸送電流や遮蔽電流の近くにありますので,輸送電流や遮蔽電流の磁場による磁化を検討する必要があります。

 「超伝導線の第2種超伝導体以外の部分」の材料は銅です。構造母材として銅が使われます。この点については『超伝導の世界』の259頁をご覧ください。銅は,ご存じのように反磁性を示します。ですから,磁化によって超伝導磁石の磁場を強化する機能が無いのです。

 「第2種超伝導体の混合状態における常伝導部分」の磁性については,第2種超伝導体の物質材料としての磁性を考えることになります。例外もありますが,一般的に超伝導と強磁性は極めて相性が悪くお互いに共存できないとされるので,第2種超伝導体の磁性は,反磁性か常磁性です。ですから,磁化によって超伝導磁石の磁場を強化する機能は非常に小さいのです。

 輸送電流と遮蔽電流が存在する場合における三つの永久磁石部分の磁性を考えてみて分かるように,永久磁石部分による超伝導磁石の磁場への寄与は非常に小さいのです。そして,運動量秩序による磁力の不発生現象が生じても,生じなくても,超伝導部分の外部に輸送電流による磁場と遮蔽電流による磁場が存在することに変わりはありません。ですから,運動量秩序による磁力の不発生現象が生じても,生じなくても,永久磁石部分による超伝導磁石の磁場への寄与は非常に小さいことになります。

以上から,運動量秩序による磁力の不発生を考慮してもしなくても,超伝導磁石の強力な磁場の主たる大部分の原因は,輸送電流自体となります。

 「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しない」状態でも,輸送電流による強力な磁場は存在し,その磁場が作用して脈流に磁力が生じます。他方,「超伝導磁石の永久電流に働く電磁力の力積が磁力に変化しない」ので,輸送電流に働いた電磁力からは磁力が生じません。輸送電流の他の,遮蔽電流と永久磁石部分はどうでしょうか。遮蔽電流は脈流に作用して,磁力を生じさせます。他方,脈流が作用して,遮蔽電流自身に磁力が発生します。この場合の脈流の磁力と遮蔽電流の磁力はほとんど全く同じです。永久磁石部分はどうでしょうか。永久磁石部分も脈流に作用して磁力を発生させます。他方,脈流が永久磁石部分に作用して同じ大きさの磁力を発生させます。

 

 私の装置の磁力に関して,以上を整理してみます。

常伝導ループの側には,

「輸送電流磁場が作用して脈流により生じた磁力」,

「遮蔽電流磁場が作用して脈流により生じた磁力」,

「永久磁石部分の磁場が作用して脈流により生じた磁力」

が存在します。

他方,超伝導磁石の側には,

「脈流磁場が作用した遮蔽電流により生じた磁力」と

「脈流磁場が作用して永久磁石部分に生じた磁力」

が存在します。

「遮蔽電流磁場が作用して脈流により生じた磁力」≒「脈流磁場が作用した遮蔽電流により生じた磁力」

「永久磁石部分の磁場が作用して脈流により生じた磁力」=「脈流磁場が作用して永久磁石部分に生じた磁力」

という関係が成立しますから,常伝導ループの側に働く磁力から,超伝導磁石の側に生じた磁力を差し引くと,常伝導ループの側の「輸送電流磁場が作用して脈流により生じた磁力」のみが残ります。超伝導磁石の強力な磁場の主たる大部分の原因は,輸送電流ですから,この輸送電流による磁力の強さは大きなものとなります。従って,輸送電流による磁力を推進力・浮力・制動力として利用できます。

 

(4)実施可能要件

 

「電磁推進装置に関して通常の知識を持つ者が,その作用効果を理解できる程度に記載されたものとは認められない。」と主張されます。

 明細書全体から理解される本願発明の構成は,「常伝導の一回巻きのループと超伝導電流ループを重ね合わせるように固定する。常伝導の一回巻きループにはその波長がループ一周の長さと一致する程度の高周波数の脈流を流す。超伝導ループは永久電流が周回する超伝導磁石状態とする(超伝導磁石の特徴は当然にこのようなものになります)。」ということです。この構成による作用は「運動量秩序により,超伝導ループの周回電流に働く電磁力が磁力に変化しない。他方,常伝導ループには磁力が生じる」ということです。この構成と作用による効果は,「全体として,存在する磁力は常伝導ループの磁力のみであり,その磁力を推進力・浮力・制動力」として利用できるということです。

 このような構成・作用・効果であることは,前回の意見書でも述べたように,明細書から当業者が明確かつ十分に理解できます。本願発明の明細書には,目的・構成・作用・効果が十分詳細かつ明確に書かれています。明細書は,「技術分野」「背景技術」「発明が解決しようとする課題」「課題を解決するための手段」「発明の効果」「発明を実施するための最良の形態」「実施例」「産業上の利用可能性」「符号の説明」に分けて,目的・構成・作用・効果を明確かつ十分に記載しています。

 審判官殿の主張は,畢竟,審判官殿が理論的疑問点を幾つも提示されたように,科学の世界の最先端の発明であるが故に,「明細書の記述だけでは,作用・効果が生じる理論的理由を直ちに納得できるものではない」ということと,「理論的理由が正しくなく作用・効果を実現できない」という主張だと解されます。理論的理由が正しいことは,本意見書の2.の(3)までで,述べてきたとおりです。

 さらに,「明細書の記述だけで作用・効果が生じる理論的理由を直ちに納得できること」は特許法の要求するものではないことを以下,論証します。

 

 特許法36条4項1号において,「通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる「実施可能要件」)を規定した趣旨は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したといえない発明に対して,独占権を付与することになるならば,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるからである。

(事件番号: 平成20(行ケ)10237/事件名: 審決取消請求事件/裁判年月日: 平成210729日/裁判所名: 知的財産高等裁判所)

 

 このような特許法36条4項1号の趣旨は,明細書の記述を明確かつ十分にして,出願人の主張する発明物または方法を現実に再現できるようにすることであり,作用・効果については,どのような作用・効果が生じるかという主張が明確かつ十分に記述されていれば十分であり,明細書の記述だけでそのような作用・効果が生じる理論的理由を直ちに納得できることまで要求するものではないと解されます。

 一般論として,当業者が作用・効果の生じる理論的理由が直ちに納得できないとしても,構成が実現可能でありさえすれば,その目的・効果の有用性を考えて,構成を現実に作製・実現して作用・効果を確認することは十分ありえます。

 また,科学の世界の最先端の発明は,その先進性故に当業者も直ちに納得できないものであることもしばしばです。それを直ちに納得させるには,少なくとも綿密かつ詳細な理論的説明を記載する必要があります。しかし,特許出願にかかる発明の場合は,学術論文とは異なり,理論的解明を目的とするものではありません。特許出願にかかる発明の場合は,綿密かつ詳細な理論的説明を記載する必要は無いと考えます。学術論文とは異なり,理論的解明を目的とするものではないからです。

 従って,発明の目的・構成・作用・効果が明確かつ十分に書いてあれば,当該発明を再現性をもって実施可能と解すべきであり,理論的理由を直ちに納得できることまで要求するものではないと解すべきです。

 本願発明の明細書には,目的・構成・作用・効果が十分詳細かつ明確に書かれています。明細書は,「技術分野」「背景技術」「発明が解決しようとする課題」「課題を解決するための手段」「発明の効果」「発明を実施するための最良の形態」「実施例」「産業上の利用可能性」「符号の説明」に分けて,目的・構成・作用・効果を明確かつ十分に記載しています。

 また,本願発明の構成が使用する超伝導磁石,超高周波電流等の要素技術は既に実用化・確立されたものばかりであり,それらを新しい考え方に基づいて,組み合わせて画期的効果を得る技術的思想が本願発明です。ですから,確実に当業者が明細書の記載に基づいて再現性をもって構成を実現可能です。

 そして,明細書に加えて,本意見書の2.の(3)までや前回の意見書,それに『超伝導電磁エンジン詳説』で述べているように,本願発明の主張する作用・効果は超伝導と物理の基本原則に則っていて,その素晴らしい作用・効果を実現可能です。

 

 以上により,本願発明は,特許法36条4項1号の規定する要件を満たすと主張します。

 

 

 

() 取消事由6 (特許庁の態度の不当性・違法性)

 

 拒絶査定(平成2041日付け)の理由は,本発明に進歩性無しとの理由によるものである。審判において,進歩性無しとの主張は,取り下げられているので,拒絶査定は理由が無かったことになる。本来ならば,拒絶査定は出されずに,特許権が付与されるべきであった。にもかかわらず被告は,審判において特許法第36条違反を理由に拒絶理由を通知した。

 「特許法36条4項1号において,「通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる「実施可能要件」)を規定した趣旨は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したといえない発明に対して,独占権を付与することになるならば,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるからである。」

(事件番号: 平成20(行ケ)10237/事件名: 審決取消請求事件/裁判年月日: 平成210729日/裁判所名: 知的財産高等裁判所)

 原告の明細書は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。しかも,原告は,出願の新規性及び進歩性を確保した上で,平成16620日からホームページによる情報公開を行っている。日本語(http://j.se-engine.org/)及び英語(http://se-engine.org/)のホームページによって十分な情報を公開して,原告独創の新技術である本願発明の啓蒙活動を行っている。また,ホームページの内容を集大成した書籍「銀河への道」(久保田英文著,200978日ブイツーソリューション刊)を出版してもいる。

 このような原告に対して,情報公開の不十分を理由とする36条違反によって特許権を拒否することは極めて不当かつ違法である。

 しかも,審決の手続は,取消事由1および2に述べたように違法である。取消事由2及び4で述べたように信義誠実の原則及び手続的正義に反する主張を繰り返している。また,審決の理由が成り立たないことは,取消事由1〜5で述べてきた通りである。

 審決の記載にも問題がある。

理由「第2.最後の拒絶理由

当審において通知した平成22215日付けの最後の拒絶理由における理由1及び理由2の内容は,以下のとおりである。」

と単に最後の拒絶理由の内容が以下のとおりであるとの承認を求めるに過ぎないような書き方をしている。法律的知識の乏しい本人訴訟の原告ならば,「最後の拒絶理由の内容」はその通りであると迂闊にも認めてしまうことが考えられる。

 また,理由「第4.本願について」の「3.当審の判断」の「(2)上記(1)の理由について検討する。」と述べている部分は,特許法第17条の23項違反の理由を検討するように見せながら,「4.むすび」で「また,本願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」と述べているように,実は,特許法第36条第4項第1号違反の主張なのである。

 原告の真正な著書「超伝導電磁エンジン詳説」を「推定」されるに過ぎないとも書いている。

 法を執行する行政の専門家であるにもかかわらず,必要の無い平成18年法律第55号を引用している。

 電話連絡(平成22423日)において,必要の無い分割出願を勧めた。

 結審間近なのに,審判長を交代させている。

 以上から,真正な発明の適法な出願であっても原告に対しては絶対に特許権を与えたくないという差別を被告から受けているように原告は感じる。

 このような被告の態度は何に起因するのであろうか。

 

一つには,原告の政治活動。

一つには,本願発明が大発明であること。

一つには,本願発明が機能するかどうかについて,実験による公式の報告がなされていないこと。

 

 この三つが考えられる。

 原告は,政治団体「救世国民同盟」の代表である。「救世国民同盟」は選挙管理委員会に届け出て官報に公示された適法な政治団体である。「救世国民同盟ホームページ」(http://kyuseido.org)を開設し,主にインターネットを通じて活動している。「救世国民同盟」の主張は,次のようなものである。倫理道徳の回復を含む保守主義。国防力の強化。世界連邦の建設。反フェミニズム。天皇が日本の国王であることを認めるが,現人神であること・皇国史観を否定する。

 このような活動は,憲法第21条の保障する政治活動・表現活動である。このような活動を理由として差別的取り扱いをすることは,法の下の平等(憲法第14)にも反する。

 「本願発明が大発明であること」は,通常は,発明者に有利に働く要素であるが,本件発明者が権利を与えたくない人間であることと,実験による公式の報告がなされていないことから不利に働いたのである。大発明でないならば,ここまで不当な取り扱いをして特許権を拒否する必要もないであろう。

 「本願発明が大発明であること」は,実験により確認できる。「本願発明が機能するかどうかについて,実験による公式の報告がなされていないこと」も公式の実験により解決できる。本願発明が実際に機能することが公式に確認されることで,本事件が最終的に解決される。

 そこで,裁判所の職権により鑑定を行って(行政事件訴訟法第1条,同法第24),「本願発明が機能するかどうか」を公式に確認することをお願いする。

 

 本件発明の出願は,真正な発明を適法に出願したものであり,特許権を付与すべきものである。また,以上で述べてきたように,審決における被告の理由は,成り立たない。よって,請求の趣旨記載の通りの判決を求める。

 

                                                                                                     

 

 


添付書類

1 審決謄本           1通

 





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