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誘導起電力について

久保田英文著

 脈流は断続的に流れるので電磁誘導の法則に基づき誘導起電力が生じて、超伝導電磁エンジンの機能の障害となるのではないかを問題とします。
 脈流の強さが一定である場合、誘導起電力は問題となりえません。なぜなら、「ループ一周の長さ=脈流の波長」という関係を成立させれば、ループを貫く脈流の磁束は常に波長の山の一個分です。すなわち、ループを貫く磁束の量は一定であり、変化が無いので、誘導起電力は生じないのです。
 しかし、脈流の強さが変化する時や脈流の向きを逆転させる時には、常伝導ループを貫く磁束の量に変化が生じます。この場合には、誘導起電力が生じ、超伝導電磁エンジンの機能の障害となるのではないかが問題となります。このときの誘導起電力の強さを見てみましょう。誘導起電力Vは、次の式で表されます。
V=−L凾h/凾
比例定数Lは自己誘導の大きさを表す量で自己インダクタンスと言います。
L = K×μ×π×a×a×N×N/l
ここで
K = 長岡係数 (Nagaoka coefficient)
μ = 透磁率
a = コイルの半径 (m)
N = コイルの巻き数
l = コイルの長さ (m)  ※物体としてのコイルの長さであり、導線の長さではありません。

超伝導電磁エンジンの常伝導ループは一回巻きですので、「N =1」です。長岡係数は1に近い数であり、コイルの半径と長さも1に近い数として無視します。すると、問題となるのは、透磁率です。超伝導電磁エンジンの常伝導ループは空芯ですので、近似的に真空の透磁率が使用できます。真空の透磁率は「4π×10のマイナス7乗」です。従って、常伝導ループの自己インダクタンスは、μH(マイクロヘンリー)程度となります。マイクロは10のマイナス6乗ですから、凾hが数万アンペアとしても、変化の時間凾狽ノ1秒から数秒かければ、誘導起電力は問題となりえないほど、小さくなります。
 従って、脈流の強さを変化させる場合は変化の時間を十分長くし、脈流の向きを逆転させる場合は脈流の強さを十分小さくしてから逆転させれば、問題は生じないこととなります。
 では、脈流の強さが変化する時や脈流の向きを逆転させる時、超伝導磁石の超伝導ループに問題が生じるでしょうか。誘導起電力は永久電流が流れる方向に働くローレンツ力の問題です。今まで主として電磁力方向の運動量秩序について述べてきましたが、その当然の前提としての電流方向の運動量秩序の問題となります。電流方向にも電磁力方向について述べてきたことが当てはまります。なぜなら、ローレンツ力が磁場の強さに比例した大きさで生じることに変わりは無いからです。ですから、この場合も永久電流の強さは不変で永久的に流れ続けます。

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