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第二の超伝導機構

 久保田英文著

 

要約

 超伝導機構によっては説明できない電子対のエネルギーの増減の問題があるが、それは電子対の重心運動のエネルギーと電子の反平行運動のエネルギーがエネルギーのやりとりをすることによって説明されると考える。

 

 まず、電子対の運動量と運動エネルギーについて確認する。電子対と電子対を構成する各電子の運動状態は次図のようになる。

J-01.wmf

 mを電子の質量、vを反平行運動の速度、VV'を電流が流れる方向の速度とする。

 すると、ある電子対の運動量は

mvmv+mV+mV' = m(V+V')

となる。

 その電子対の重心運動のエネルギーは

mV2/2+mV'2/2=m(V2+V'2)/2

となる。

 その電子対の反平行運動のエネルギーは

mv2/2+mv2/2=mv2

 したがって、その電子対が持つ全運動エネルギーは

mv2+m(V2+V'2)/2

となる。

 超伝導状態は電子対が同じ運動量に凝縮することにより生じる。すなわち、超伝導状態においては、系のすべての電子対の運動量m(V+V')”の大きさが同じでなければならない。ということは、格子振動や格子・不純物との衝突により、エネルギーを奪われ運動量が減少しても、何らかの超伝導特有のメカニズムにより、運動量の減少を補うエネルギーが供給されることになる。

 ある電子が周辺の格子と作用してクーロン力の影響でエネルギーを奪われたとする。この時、格子は電子に引きつけられるので、その領域は局所的に正電荷の濃度が回りより高くなる。すると、別の電子はこの正電荷濃度の高い領域から引力を受けて加速され、エネルギーを得ることが可能となる。超伝導状態はこのような関係を利用するものと考えられる。超伝導状態では、電子がペアを組み、ペアの一方の電子が奪われたエネルギーを補うエネルギーを他方の電子が得て、同じ運動量の状態が保たれるのである。このメカニズムは超伝導機構と呼ばれる。これにより、格子振動が作用しても電子対の運動量の大きさは一定に保たれることが保障される。

 このメカニズムはクーロン力を媒介とする格子振動を前提とする。格子や不純物の場合は、物理的衝突なので、この前提が成立しない。確かに格子振動が電気抵抗の主原因である。しかし、格子・不純物との衝突も電気抵抗を生じさせることに間違いはない。よって、このままでは、格子や不純物との衝突により、ある電子対の運動エネルギーが奪われ、それが重なって永久電流が減衰するであろう。それを防ぐためには、格子や不純物との衝突に対しても、超伝導機構と同様なエネルギーを補うメカニズムが働かねばならないことになる。

 私の案出したメカニズムとは次のようなものである。電子対の重心運動が永久電流の実体である。いま、格子や不純物との衝突により、この重心運動の運動エネルギーが奪われることを問題としている。この重心運動の他に、電子対を構成する各電子は反平行運動をしていて、電子対はこの反平行運動の運動エネルギーmv2も持っている。この反平行運動の運動エネルギーが重心運動の運動エネルギーm(V2+V'2)/2”に転化すると考えるのである。この転化により、重心運動が衝突により奪われたエネルギーを補うエネルギーを得て、同じ運動量の状態が保たれるのである。

 格子振動や格子・不純物の他にも、電子対のエネルギー状態を乱す原因が考えられる。系の電子対の一部にのみ電場や磁場のエネルギーが与えられた場合である。このうち、系の電子対の一部にのみ磁場のエネルギーが与えられた場合を考察する。

 磁場によって電子に生じる電磁力の方向は電子の運動方向に対して垂直である。よって、磁場が働いても、永久電流の流れる方向においては、電子対の重心運動の運動量・運動エネルギーに変化は無く、永久電流の大きさを変化させることはない。しかし、電子対全体を見ると、電子対の重心運動の運動量m(V+V')”の大きさは増大することになる。

 超伝導状態は電子対が同じ運動量に凝縮することにより生じるのであるから、この増大は打ち消されなければならない。私は、重心運動の得るはずのエネルギーが反平行運動のエネルギーに転化することによってこの打ち消しが成し遂げられると考える。

 以上見てきたように、超伝導機構によっては説明できない電子対のエネルギーの増減の問題があるが、それは電子対の重心運動のエネルギーm(V2+V'2)/2”と電子の反平行運動のエネルギーmv2がエネルギーのやりとりをすることによって説明されると考える。

 反平行運動のエネルギーは重心運動のエネルギーより遙かに大きいが無限ではない。重心運動のエネルギーの損失を補うエネルギーが無限ではないので、永久電流も永遠ではない。しかし、反平行運動のエネルギーが磁場等のエネルギーを得て増大することもあるので、永遠に近いと言える。



第一の超伝導機構については下記をご覧下さい。

『やさしい超伝導のおはなし』
芝浦工業大学教授
村上 雅人 (著)
http://moniko.s26.xrea.com/cyoudendou_kiso.htm

電気抵抗と「超伝導機構」について非常に分かりやすい説明がなされています。





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